早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京工業大学
大学院 理工学研究科 地球惑星科学専攻

高橋 栄一 教授

たかはし・えいいち
1951年生まれ。東京大学理学部地球物理学科卒。21世紀COEプログラム「地球:人の住む惑星ができるまで」拠点リーダー。主な著書には『岩波講座 地球惑星科学入門』『岩波講座 地球内部ダイナミクス』(ともに岩波書店)などがある。

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地球と生命の誕生に迫るCOEプログラム

ある夏の日の東京工業大学大岡山キャンパス

わたしたちが住む太陽系第3惑星・地球はどのようにして誕生したのか? 古今東西だれしも一度は疑問に思ったこの大テーマを明らかにすることを目指す文部科学省21世紀COEプログラム「地球:人の住む惑星ができるまで」の拠点リーダーこそが東京工業大学の高橋栄一先生であり、今回登場願うグッドプロフェッサーだ。

そもそも現在の地球は人類はじめ動植物が快適に生活できる環境にあるが、もちろんこうした環境は地球誕生の当初からあったわけではない。

このCOEプログラムの目標としては「誕生したばかりの灼熱地獄の地球が、時間とともに原始生命が生まれる環境に変わり、やがて酸素呼吸する大型生命の出現に至る地球の歴史の総合的な解明」などと掲げられている。しかし実は80年代の始めごろまでは、地球という惑星ができ上がるまでの過程についての考え方は今と大きく異なっていた。

「わたしが〝地球初期〟についての研究を本格的に始めた80年ごろの定説としては、星のくずのような岩石類が集まって低い温度でじわじわと地球ができ上がった等というのが主流の考え方でした。そうした説が劇的に覆されたのは月に関する研究が進んだからです」

地球の衛星である月の表面から米アポロ計画によって持ち帰った総計約300キロの「月の石」を分析することから、月の成り立ちが70年代に解明されていく。そして80年代初期には、月の誕生期は高温のどろどろに溶けた状態であったことが明らかにされる。

「84年ハワイのコナで開催された『月の起源シンポジウム』を契機に地球の成り立ちについての考えも大きく変わりました。月は原始地球に火星サイズの原始惑星が衝突して瞬間的にできたものとする『ジャイアントインパクト』という仮説が誕生したのです。ジャイアントインパクト直後の地球はどろどろに解けたマグマに覆われていたはずです」

世界級の高圧実験装置でマグマ現象を再現

東京工業大学大岡山キャンパスの本館建物

初期の地球型惑星が高温でどろどろに溶けている状態を「マグマオーシャン」と呼ぶ。世界でも最も早くマグマオーシャンの研究を始めた研究者のひとりが高橋先生なのだ。

「わたしの専門は火山に関する研究です。火山現象の本質を探るため、地球の内部でマグマはどういう状態なのかを高圧実験に基づく研究により進めています。また、火山現象を生むような地球内部の流動現象に関する研究も進めています」

東京工業大学に地球惑星科学の専攻ができたのは94年で、全国でも一番若い専攻だ。しかし、世界水準で見てもその実験機具は最高のものが揃っているという。

「わたしたちCOEが取り組んでいる高温高圧実験は、どろどろに溶けた原始地球の中心から表面まですべてを実験室で再現することを目指しています。これにより地球の形成過程をより詳しく知ることができるわけです」

約12万個もの東工大岩石資料が語るもの

高橋研究室のスタッフとともに集合写真

高橋先生が所属する地球惑星科学専攻を核にして「地球:人の住む惑星ができるまで」COEプログラムは環境科学分野や生命科学分野などさまざまなスタッフと協力しつつ研究が進められている。

「わたしたちが研究ターゲットにしている期間は、地球誕生から現在に近い酸素濃度を獲得して大型生命が出現するまでです。わたしたち動物は酸素呼吸をしますよね。酸素はもともと地球上に存在していなかったので、それまでに地球の大気環境が大きく変化する時代があったわけです。また現代の植物は酸素を生産しますが、植物は大昔から酸素を生産していたわけではありません。わたしたちのCOEプログラムでは、酸素を生産する植物がなぜ大量に育つことになったか、それらの経緯も研究対象としています」

地球誕生の過程から大型生命の出現までという長大なスケール観をもつプログラムだが、これらの研究が可能なのは貴重な岩石資料あってこそと高橋先生は言う。

「我々COEの中核メンバーである丸山茂徳先生らが過去12年間に東京工業大学に収集した膨大な岩石資料なくして、わたしたちの研究は成り立ちません。さまざまな時代や場所・環境を代表する岩石資料が約12万個ほどあります。岩石そのものはもちろん岩石に含まれる流体包有物を詳しく調べることにより、その時代の大気の組成や海水の組成を知ることができるのです」

その研究対象は銀河系外そしてハワイへ

東工大が世界に誇る「高温高圧実験装置」

岩石資料の分析を環境科学分野の研究スタッフが担当し、植物や動物の進化については生命科学分野の研究者が担当する。多角的な領域の研究が絶妙のバランスで組み合わせられたCOEプログラムだが、そのベクトルは地球の歴史や過去のみを向いているわけではない。

近年の天文学分野の技術発展により太陽系外の恒星にどのような惑星が付属するかを観測する技術が飛躍的に向上している。最近10年足らずの間にすでに数百個の恒星で惑星が付属することが(恒星のドップラー観測などから)明らかになっている。宇宙観測用のスペーステレスコープの性能がさらに上がれば、現時点ではまだ直接その光をとらえられない恒星に付属する惑星の反射する光を直接観測することも可能になるらしい。

「太陽系外惑星の観測でまず最初に見えるのはその惑星表層部(大気・雲・海洋)なのです。その光吸収スペクトルから大気の組成が分析されるはずです。われわれのCOEでは、それぞれの大気の化学組成に注目して、対象の惑星が地球のどの時代に相当しているのか等ということを見極めることを目指しています」

高橋先生自身が地球科学全般に興味を持ったのはまだ中学生のころ。理科の先生に薦められるままに、学校の仲間3人で火山の研究を開始し、毎年ある論文賞に研究発表したのがきっかけだったという。

中学から高校まで6年間かけて火山のことばかりに熱中していました。大学も東京大学地球物理学科を選んだのですが、入学したときから変人扱いを受けましたね(笑)。『こいつは何でこんなことを知ってるんだ?』ということなんでしょうね」

ここ10年ほどはハワイ周辺の海底に潜水調査船で潜って、ハワイ火山の成長に関する研究にも余念がない。まさに「三つ子の魂百まで」を地で行く火高橋先生の歩みは止まらない。

こんな生徒に来てほしい

とにかく地球や火山のことに興味がある人ならぜひ来てほしいです。教えがいがありますからね。地球科学のスペシャリストになりたいといった意気込みをもつ学生ならさらに大歓迎ですよ。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。