早稲田塾
GOOD PROFESSOR

駒澤大学
文学部 地理学科

櫻井 明久 教授

さくらい・あきひさ
1948年茨城県生まれ。71年東京教育大学(現・筑波大学)理学部地学科地理学専攻卒。75年独ボン大学地理学研究室留学。78年東京教育大学大学院理学研究科博士課程地理学専攻中途退学。78年大阪教育大学教育学部講師。81年宇都宮大学教育学部助教授。92年同教授。98年より現職。主な著作に『地理教育学入門』『西ドイツの農業と農村』(ともに古今書院)『最新 栃木の農業』(編著・下野新聞)などがある。

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土地利用の合理を拓き起こす農業・農村地理学

櫻井研究室がある「第一研究館」
駒沢大学キャンパス正門のプレート

駒澤大学において地理学科(当時は歴史地理科)が設置されたのは1929(昭和4)年のことだ。すでに75年以上の歴史を持つこの伝統的な学科の特徴について、学科教授の櫻井明久先生は次のように語る。

「地理学科としての歴史が長いことで、地理学に関する図書や資料の収集が非常に豊富です。とくに『外邦図』(日本が作った海外の地形図)などは今もって十分整理しきれないほど集められています」

「また専任スタッフが多く、地理学のいろいろな分野の専門の方々が集められていて、広範囲のことについて学生が学べる環境が整えられています。教員スタッフの仲がよくて学科の雰囲気がとてもいいのも特徴といえるでしょう(笑)」

そう話しながら微笑む目からは柔和で優しそうな先生の人柄が伝わってくる。櫻井先生の専門は「農業地理学」と「農村地理学」だ。幅広い地理学におけるひとつの分野にしても一体どんな学問分野なのだろう?

「いずれも農業を中心に営まれている農村地域の風景から現況の土地利用がなぜそうなっているのかを読み解いていく学問です。実際の研究では、人々の暮らしぶりと自然環境を中心に経済的・社会的・歴史的な背景を加味しながら読み解く手法をとります」

そうしたことをテーマにドイツと日本の農村地域について現地調査し、双方の比較もふくめて櫻井先生は研究してきた。その話しぶりはどこまでも律義でていねいだ。 「たとえば谷の底にあたるような地形のところを、ドイツでは牧草地に利用し、日本では水田に利用してきた歴史があります。こうした谷底の下には地下水面が地面に近く、水が利用しやすいからです。さらにドイツには古い三圃式の農業制度が残っていたところがあって、そうした各農家は農地を分散して所有していました。こうした農地の分散所有の例は日本にも見られます」

「農地を1ヵ所にまとめるほうが作業効率がいいように思いますよね。しかし実際に調べてみると、分散して持つという形は多様で貴重な土地資源を公平に分け合っていて、非常に合理的な思想に基づいているのです」

こうした研究成果を発表してきた櫻井先生だが、先生自身は「地理学研究者なら誰もが知っている事柄をたまたま論文にまとめただけなんです」と、ここでもその姿勢はあくまで謙虚そのものだ。

教育研究とは―― 子どもの頭の中をのぞくこと

晩秋のある日の駒澤大学キャンパス

「フィールドワークの場で話を聞く農家の人々の多くは、ドイツであろうと日本であろうと皆さん賢い方ばかりです。その合理的かつ伝統的な考え方には毎回目からウロコが落ちる思いです」

現地調査の場でもあくまで謙虚さを崩さない櫻井先生の姿が目に浮かぶ。もうひとつ、前任の宇都宮大学在職時代の先生は、農業・農村地理学の研究からいったん離れて地理教育・社会科教育の研究に没頭したという。したがって教育の専門家でもある。

「宇都宮大学では、県内各地の小・中学校の先生たちといっしょに教育現場で社会科をどう教えるべきかといった研究をしました。そこで分かったことは――教育研究とは子どもたちの頭の中をのぞくこと――という結論でした。つまり、子どもたちが頭で考えていることを教師は知れば良いわけです」

たとえば地図の見方について教わるとき、地図記号からとにかく覚えさせがちだ。きっと高校生諸君の多くもそうだったことだろう。しかし、そんなことよりも①なぜ地図を使うのか②地図で何がわかるのか――について子どもたち自身が考えるように導いていく教育法のほうがより理解が深まるという。子どもの側の視点から教育方法を考えるようになったことで、先生自身の教え方のアイデアも面白いように浮かんできたそうだ。

フィールドワークこそが地理学研究の基本

構内にある禅文化歴史博物館「耕雲館」

駒澤大学への就任とともに、櫻井先生はふたたび農業・農村地理学の研究に専念するようになる。そして現在は、地理・社会科教育と併せて後進の指導にも当たる。先生も所属する駒澤大学文学部のゼミは4年次の学生が対象。したがって卒業論文の指導がその中心ということになる。先生が指導するゼミ生は例年20人前後だ。

「卒論のテーマについては必ずしもわたしの研究テーマに沿わなくても良いとしています。広く地理学一般のカテゴリーのなかから関心と興味のあることを各自テーマに決めればOKという考え方です。ただ、それでもテーマを見つけられないゼミ生がなかには出てくるんですね(笑)」

そんな今どきの〝モラトリアム学生〟には、自分が住む地域の変化などを調査して報告する研究手法など具体的に指導しているという。ちゃんと合理的な説明や報告ができるようになれば、社会に出てからも将来役立つという櫻井先生の熱い想いあればこそだ。そのほか学生指導で心掛けていることについては以下のように語る。

「あまり派手なことは考えずにきちんとコツコツ考えるようにしなさいと学生には常に言っています。最近の若い人たちを見ていますと、結論的な知識しか持ち合わせていなくて、しかもインターネットなどの情報を無批判に受け入れている人が多すぎますね。知識・情報の多寡といったことよりも、結論に至る方法なりプロセスをしっかり知るほうが実は重要なのですが……」

そうしたこともあって櫻井先生の試験においては資料から説明させるような問題が多く出題される。また具体的な府県地図などを見ながら、地図から何が読めるのか学生に説明させるような講義方法にも力を入れているという。高い目線から一方的に教えるのではなく、学生たちが自分の頭で考えるような地理教育をまさに実践しているのだ。最後に、地理学系への進学をめざす現役高校生諸君へのアドバイスをお願いすると――

「地理の研究というと図書館などで文献や資料にあたることと思っている人が多いようですね。しかし地理学の研究の基本はフィールドワークにこそあります。フィールドワークは非常に泥臭くて地道なものですが、それを積み重ねることによって、現地で生活している人々の賢さや世の中の仕組みまでもが分かってきますよ」

地理学を学ぶ妙味も苦しさもまたフィールドワークにこそあるらしい。柔和な目を輝かせながら櫻井先生は快活に語ってくれた。ひろく地理学と教育学に通じつつ、非常に教育熱心な櫻井先生。恩師に仰ぎたい先生のひとりであることは間違いない。

こんな生徒に来てほしい

いま皆さんが住んでいる身近なところでも急激な地理的変化がいろいろと起こっているはずです。そうしたことについて考えてみたいという人に来てほしいですね。また、社会科系は覚えることが多くて嫌いというような人にも、じつは地理学ってそんなに覚えることもありません(笑)。なにしろ身近な地理について考えるのは大変面白いですから、ぜひいっしょにフィールドワークで汗を流しましょう。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。