早稲田塾
GOOD PROFESSOR

千葉大学
工学部 都市環境システム学科

中井 正一 教授

なかい・しょういち
1950年石川県生まれ。73年東京工業大学工学部建築学科卒。79年同大学大学院理工学研究科博士課程中退。78年清水建設入社。97年より現職。主な著作に『杭基礎の設計法とその解説』(土質工学会)『入門・建物と地盤との動的相互作用』(日本建築学会)『知的システムによる建築・都市の創造』(博報堂出版)などがある(いずれも分担執筆)。

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地震国を救う画期的な新基礎構造工法

中井研究室のある「工学系総合研究棟」

千葉大学工学部都市環境システム学科の中井正一教授は前職の大手建設会社(ゼネコン)勤務時代から、一貫して建築の基礎構造と地盤との関係について追及してきた。そんな先生はこう語る。

「この国の都市の大半は平野部に集中しています。その平野部の地盤は完新世の地盤(沖積地盤)で構成されていて、誤解を恐れずに言えば、ほとんどが軟弱地盤ということになります。この地盤の上に人々の生活が営まれるわけで、建物と地盤の接点である建築の基礎構造に興味があって、自然災害(主に地震)との関係を研究をしてきました」

従来こうした地盤における基礎構造は、地中に杭を打ち込み、その杭の上に建築物を一体化して造り上げる工法が一般的だった。

「ただその工法では、地震などの大きな力を受けると杭と基礎構造の接合部に負荷がかかり過ぎて折れてしまう危険が生じます。そこで私はその応力を軽減させるために杭と基礎構造を切り離して施工したらどうかと考えました。両者を切り離してしまうと力が伝達されなそうにみえますが、必ずしもそうではなくて、すでに解析や模型実験では良好な結果が得られています」

この中井先生が提唱する新工法が採用されると、工期や工費の大幅な低減も可能となり、地震大国ニッポンにとって画期的な工法になると期待されている。しかし、予算などの事情もあって進展具合ははかばかしくないようで、こう言いながら腕をさする先生だ。

「一刻も早く実物大のもので実証実験がしたいんですが……」

土地開発に隠された本来の地形構造を探る

千葉大工学部キャンパスの建物群

このほか中井先生の研究には「地形についての研究」というのがある。こちらは千葉大の教授に着任してから始めた研究だ。

「関東地方の元々の地形の構造は、洪積地盤(硬い地盤)の台地に沖積地盤(軟らかい地盤)の谷が入り込む形でした。ところが土地開発が進んで、本来の地形構造がわからなくなっているのが実情です。それで元々の地形の構造を割り出して、地震被害を予測し防災対策に役立てようということで始めたのがこの調査研究になります」

この調査研究では、①現地のボーリング調査②衛星画像から植生を解析③土地利用の変遷をたどる④明治時代の古い地図を参考にするなどの段階をへて、オリジナルな原地形を類推していく。なにやら推理小説の謎ときにも似た興奮が味わえそうな調査研究でもある。すでに地元・千葉県での調査をほぼ終え、引き続き東京・埼玉など関東一円に調査地域の輪を広げたいとする。

このほか「交通による環境振動問題」「人の行動シミュレーション」なども中井先生の研究テーマの範囲に入るという。

研究について語る中井先生の口調は淡々として静かだが、語られる内容は非常に説得力がある。20年近くゼネコンにあって実施工の設計にも携わってきた豊富な実績のおかげでもあろう。

面白く取り組めばこそ研究内容が深まる

キャンパス内にあるケヤキ・カエデ並木通り

中井先生が在籍するのは工学部の都市環境システム学科だ。ちょっと聞きなれない学科だが、どのような学科なのか? 先生の説明を聞こう。

「都市が抱える諸問題については、これまで工学分野だけでもそれぞれの専門分野から個別にアプローチされてきました。これに対して、もう少し広い視野からこれらの複雑な都市問題について総合的に取り組んで研究していこうという学科になります」

都市環境システム学科の開設は8年前。この種の学科としては国内ではパイオニア的な存在になる。すでに卒業生も多数輩出し、各企業や自治体などから引く手あまたで、就職状況もすこぶる好調だ。ただ、中井先生はこんな警鐘も発する。

「広い工学的視野といいましても、深い知識に立脚していないと悪い意味での〝評論家〟に堕してしまう恐れがあります。ですから、この学科で学ぶ心構えとしては、まず自分が軸足を置く専門をはっきりさせることが必要です。そのうえで広い視野を身に付けることになります」

さて都市環境システム学科では、3年次後期中ごろから各教員の研究室に配属になって卒業研究にあたる。従来この研究室配属は4年次になってからだったが、近年は就職活動の時期が早まり、それに合わせた配慮だそうだ。中井研究室に配属になる学生は例年3~6人ほどだ。

学生各自の卒論研究のテーマ選びについては、中井先生も相談に乗ってサゼスチョンもするが、基本的には学生の自発性に任せたいとする。

「研究というのは、自分がしたいと思うテーマで研究することが一番モチベーションが上がりますからね」

中井先生の研究分野から多少はずれた研究テーマであっても認めるようにしているともいう。そして学生たちへの指導方針については次のように語る。

「研究することの基本的なスタイルを身に付けてほしいと思っています。つまり
①自分で問題を発見する
②下調べをして問題点を整理する
③問題解決への方法を考えてアプローチする
④答えを見いだしてリポートにまとめる ―― そうした一連の流れですね。
それと、たとえ理科系の研究であっても感性を磨くことは大切だということ、そうしたことを学生には日ごろよく言っています」

研究者としてあるべき態度については次のようなアドバイスをくれた。

「研究をするときは自ら面白いと思ってすることが大切です。そうしたことが研究自体の内容を広く深くすることになります。研究を始めるきっかけは『先生に言われたから』『仕事だから』でもまぁ結構ですが(笑)、いったん始めたからにはその中に自分で面白さを見いださなければつまらないじゃないですか」

そして、中井先生は最後にこう結んだ。

「正直いって振動や地盤の研究というのは非常に目立たない研究分野です(笑)。しかしまた切実で大事な問題ですから、社会的関心を寄せる人々はますます多くなってきています。でも、高校生など若い人たちの関心はまだまだ低いようですね。わたしの研究室に入ってくる学生のなかにも最初は関心の低い人もいます。それでも研究を続けているうちに興味がわいてきて、のめり込んでいく人も実際多いのです。わたし自身もちょっと年はとりましたが、まだまだ研究してみたいテーマがたくさんあります。ぜひ、若い皆さんもこの問題に目を向けていってほしいですね」

こんな生徒に来てほしい

高校生のうちからでも、みなさんが住む都市環境や地盤とのかかわりなど足元の下の事情にも関心をもっていてほしいと思います。けっして華やかな研究分野ではありませんが、ますます重大な問題やテーマの数多い分野でもあります。何ごとにも生きいきと取り組めるような人に来てほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。