早稲田塾
GOOD PROFESSOR

武蔵大学
社会学部

栗田 宣義 教授

くりた・のぶよし
国際基督教大学教養学部卒。上智大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程単位取得。95年より現職。著書に『トーキングソシオロジー』(日本評論社)『データブック/社会学』(川島書店・編著)『社会学と過ごす一週間』(学文社・共著)など多数。先生のWebサイトはコチラ

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〝ファッション〟を通して見る現代ニッポン社会

晩秋のある日の武蔵大学江古田キャンパス

社会科学のなかでも社会学は視野が広い学問とされる。21世紀もすでに数年がたち、私たちの社会が予想もしない様相を見せるにつれ、社会学の研究対象はますます広がりを見せていく。

広範な研究対象をもつ社会学のなかでも、今回ご紹介する武蔵大学社会学部の栗田宣義先生が専門とするテーマ群は、とりわけ奇抜かつ楽しそうなものが多い。自らの4つの研究テーマである「ファッションとメイクの社会学」「ポップカルチャーの社会学」「遊びの社会学」「音楽メディアの社会学」の設定について、栗田先生はこう述べる。

「現役高校生のみなさんからすると、こうしたタイトルだけを見ただけで、何だか楽しそうだな等と思われるかもしれませんね(笑)。4つのテーマを介して私は、主に流行と若者文化に焦点をあてながら、現代の日本社会を分析したり、その将来予測をしているわけです」

まずは「ファッションとメイク」――このテーマを通して見えてくる現代ニッポン社会の姿とはどんなものだろうか?

「社会学の対象となる全てのテーマにあてはまることだと思いますが、『なぜ、そうなっているのだろうか』というところからこの学問は始まります」

いま高校生はおろか小中学生までもがバッチリと化粧をして街を歩く風景は当たり前のものとなっている。彼女(そして彼)らの親の世代から言わせれば、賛否両論あるところだろう。しかし、その良し悪しを道徳的に判断するような視点から栗田先生がこの潮流を見ているわけではもちろんない。

「キレイな人が得をする」という社会風潮

晩秋のある日の武蔵大学江古田キャンパス

「親の世代が子どもだった30年前と現在とでは、若者を取り巻く状況は様変わりしてしまいました。日常生活の指針となる新たな社会的要請の登場に伴って、ファッションとメイクのあり方も変わってきたわけです」

世の中が変わるということは、常識や教養・道徳のあり方も変化していくということだ。若者たちは恒常的に化粧をし、プチ整形や美容整形への抵抗もなくなりつつある。

そのようなニッポン社会に満ち満ちているのは「キレイな人が得をする」という価値だという。日本のようにモノがあふれた豊饒で成熟した社会では、究極の商品・サービスとしての美醜を規準とした顔や身体の商品化がモデルやタレントにとどまらず一般の人々にまで波及していく。恋愛や友人関係といったプライベートな場のみならず、学校や職場その他の公的空間などあらゆるシーンで容姿外見が美しい人を優遇し、そうでない人を冷遇することが公然と肯定される社会風潮なのだ――栗田先生はそのように喝破する。

「マスメディアはもちろんのこと、いまの世の中は『キレイな人が得をする』というメッセージであふれています。『美容整形なんて』と親の世代は言うかもしれません。しかし実は親の世代自身が、消費社会における豊かさの最終的な帰結として、顔や身体の商品化を是認する現在の価値をつくり上げてきたのです。容姿外見の美醜に基づくルックス競争・ルックス差別が蔓延しているのですね。現代の若者のみんながみんなメイクやダイエット・美容整形をガンガンしたいのではありません。そうしないと差別されるのではないか、自分が劣っているのではないかという克服しがたい〝強迫観念〟もしくは〝劣等感〟のようなものを多かれ少なかれ背負わされているのです」

「ルックス差別そして背景にあるジェンダー差別を解消していく社会的視点がまず必要であることは当然ですが、過酷なルックス競争をなんとか生き抜かなければならないという個人の立場からすれば、メイクをしたり容姿外見を整えたりすることは有効なサバイバル戦術のひとつなのですね。もちろん健康面や安全性などを慎重に考えなければなりませんが、現状を顧みずに旧式の道徳を安易に押しつけて『メイクするな』『ファッションなどに気を遣うな』などと言い放つ親は、現代日本においてはある意味で暴力的だなぁとも思うのです」

〝身体産業〟こそが日本のフラッグシップに!?

キャンパス内の並木道

この国は戦後の焼け野原からモノづくりによって高度経済成長をなし遂げ、優秀な科学技術に支えられた先進工業国に至るまで発展してきた。日本の産業の中心がモノづくりだったことは明らかだが、この構造がいま変わりつつあると栗田先生は語る。

「もちろん自動車やコンピューターといった産業は、これまでどおり日本の主要な部分であり続けるとは思います。ただ、それら〝モノ〟にとって代わるフラッグ(旗)となる産業として、『人間の顔や身体にかかわる産業』が台頭してきています。それは、容姿外見を重視かつ商品化するようになった高度な消費社会の登場と大きく関連しています。具体的には、メイクやコスメ・ヘアメイク・コスチューム・アクセサリー・フレグランス・エステ・美容整形、さらにはキャラクターグッズやポップミュージックなども含めた広い意味での〝ファッション産業〟ですね。こうしたものを国内のみならず世界に向けてこれまで以上に発信していくことになるでしょう」

ここで「ファッション産業」といっても、これまで欧米サイドから冷笑されつつ「金満ニッポン人」が取り込んできたシャネルやエルメスといったハイブランドだけを意味しているわけではない。

日本のストリートやタレント・セレブのファッションは以前から東アジア諸国で注目されきたが、これまで以上に商品化・産業化されていくだろうという。いうならば〝モノ〟ではなく〝コト〟を扱うカルチャー輸出が日本の中心産業になると予測する。たしかに、現代日本を代表するカルチャーとまで言われるに至ったマンガやアニメは今や欧米や東アジア諸国で人気沸騰中だ。

「たとえば上海や青島など中国沿岸部の大都市を歩けば、『Ray』(主婦の友社)や『ViVi』(講談社)『CanCam』(小学館)など日本のファッション誌が街中やキオスクでとても目につきます。書店でも、浜崎あゆみさん等の表紙やポスターが溢れかえっていますからね。それらのファッション誌を受け入れている世代がこれからの中国を担うわけですから、日本発・東京発のファッションカルチャーが中国はじめ東アジア諸国で大きな影響力をもつのは必然ともいえます」

この10年で劇変した小中学生のファッション意識

これまで栗田先生は女性ファッション誌の分析に取り組んできた。ここ10年間の大きな変化として、『SEVENTEEN』(集英社)や『non- no』(集英社)などメジャーなファッション誌を高校生になってから読むのが普通だったのが、いまは小中学生のころから子ども向けのファッション誌を読むようになっているという。

「以前は、小中学生向けのファッション誌は存在していませんでした。『ピチレモン』(学習研究社)の誌面リニューアルや『nicola』(新潮社)・『ラブベリー』(徳間書店)の創刊は90年代後半から2001年にかけてでした。いまでは学年誌でもメイク特集が組まれることがあります。この10年間で急激に小中学生向けのファッション誌が受け入れられてきたのです」

「もちろん、その背景には『小学生でもどんどんオシャレしたい』と思わせるような社会の土壌があるわけです。子どものオシャレを応援する親たちも増えています。テレビに出る歌手やタレントも『モーニング娘。』のように低年齢化しており、それを見ている同世代の子どもたちは自分たちもキレイになりたいと思いますよね」

『ピチレモン』『nicola』『ラブベリー』などではメーク関連記事を毎号読むことができるし、子ども向けコスメが玩具メーカーから販売され、ドラッグストアや100円ショップでも安価なコスメが簡単に手に入る。バッチリと化粧した今どきの小中学生たちが10年も経たないうちに社会人となり、いずれは日本の中核を担うことになる。

その時こそ、栗田先生の言うようにファッションとメークが21世紀日本産業のフラッグとして翻っているのかもしれない。

こんな生徒に来てほしい

大学とは、研究テーマに強く惹かれてそれを深く究めたいという人が集まる空間ですから、学ぶことがあたかも遊びのように楽しくて仕方ないというのが本来のあり方です。「ファッションとメイクの社会学」分野であれば、たとえば「とってもメークに関心があるし将来コスメを扱う仕事に就きたいなぁ」というように、身近な素材や興味から出発して楽しみながらそれをとことん研究して進路や夢の実現にもつなげていくこともできます。それが大学をフルに活用する秘訣ですね。メイク・コスメ・コスチューム・フレグランス・ハイブランド・ファッション誌・お菓子・カフェ・J-POP・テーマパーク・キャラクターグッズなど流行や若者文化を素材にして、ポップに楽しく軽やかに高水準の研究をしていきましょう。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。