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GOOD PROFESSOR

早稲田大学
国際教養学部

飯野 公一 教授

いいの・まさかず東京生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。日本銀行勤務。米ペンシルベニア大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。米カリフォルニア州立大学・桜美林大学国際学部助教授・早稲田大学政治経済学部教授をへて現職。主な著作に『新世代の言語学』(編著・くろしお出版)『Language Learners in Study AbroadContexts』(分担執筆・英国で出版)『English Language Education in China,Japan,and Singapore』(共著・シンガポールで出版)などがある。

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世界と社会を見透かす社会言語学とは

飯野研究室のある早稲田大学西早稲田キャンパス4号館

早稲田大学国際教養学部は2004年開設の新しい学部だ。したがってまだ卒業生すら出していないが、従来あまり見られないユニークな教育課程と授業の厳しさでもとみに知られる。学部開設時から教授を務める飯野公一先生にその特徴から話してもらおう。

「まず、講義やゼミ形式でのディスカッションのほとんどが英語で行なわれていることは特徴的でしょう。この学部には約430人の留学生(1年間留学生も含む)がいますが、日本人学生に交じっていっしょに受講するスタイルで、ホットな国際情勢や歴史認識のテーマをめぐって異論噴出の〝大討論会〟になることもしばしばです(笑)」

「また国際教養学部生は1年間の海外留学が必修になっています。3年次の学生が06年初夏のいま留学中で早い学生はそろそろ帰ってきていますが、いずれもたくましく成長して戻って来るはずですよ」

とかく難関入試に似合わないほど貧困な教育水準と揶揄されがちなこの国の大学――残念ながら早稲田大学も従来この批判の外ではなかった。しかし国際感覚を日々身につけさせる国際標準的ユニバーシティー環境を誇る国際教養学部は一大画期をなす勢いがあるという。卒業生たちが10年後に世界中のどんなところでどんな活躍をしているのか――いまから期待大だと飯野先生は目を細める。

なお受験生を対象にしたある調査によれば、早稲田大学国際教養学部は人文系学部の入試難易度第1位に選出されている。開設からわずか3年目それもまだ卒業生も出していない新設学部が常連学部を押さえて堂々の1位に立つ。

社会言語学に魅せられ日銀マンから転身

国際教養学部がある早稲田大学「インターナショナルセンター」

さて、飯野先生の現在の専門は「社会言語学」。じつは先生には学究の道に入る前に日本銀行勤務という異色の経歴がある。

「日銀では証券や産業調査・公定歩合調整などの部署で働いていました。本格的な経済学の勉強をするためアメリカの大学への出向留学を命じられ、ペンシルベニア大学の大学院に行かされたのです。ところが、社会言語学研究では世界の中心ともいわれるこの大学に来てみると、なぜか畑違いの言語学の魅力に取りつかれてしまいましてね(笑)」

そのあと日銀エリート社員という〝人生を約束された職場〟を捨て、一介の学究の徒として再び歩む決断を飯野先生は下す。

「永田町・霞ヶ関とか銀行・証券業界など日本経済を動かす構造の〝茶番的裏舞台〟が見えてきて、ちょうど嫌気も感じていたんですかね (笑)。そもそも日銀に入ったのも周りの『これからは金融の時代だ』といった当時ありがちなムードに影響されて入行したという個人的事情もありました」

いまや母校・早稲田の教授となって社会言語学を研究し講じる日々。この人生の方向転換に間違いはなかった――そう振り返る飯野先生。あらためて進路に悩んでいるかもしれない現役受験生諸君に心強いメッセージを送る。

「まずは自分に正直になること、自身の興味・関心のあることを突き詰めてみることですね。とくに若いうちは失敗しても取り返しが効きますから、失敗を恐れずに自らを信じてやってみることです」

「それぞれ能力は人によって違います。大リーガーのイチロー選手にしても、小さいころから野球が大好きでその技術・体力を伸ばす努力をして今日があるはず。ですから皆さんも心のなかにある好きな対象を見つけて、それを育てる努力をしてほしい。人生はいつでも再出発できます」

国際感覚のないナショナリティーなんて

国際教養学部事務局がある「早稲田大学西早稲田ビルディング」

ここで話題を専門の「社会言語学」に戻そう。この学問分野は「ミクロ社会言語学」と「マクロ社会言語学」に分類されるという。

「言葉というものが社会にどう関わっているのか対人関係のレベルで研究していくのがミクロ社会言語学です。目上の人と目下の人あるいは男性と女性でのことばの使い分けや、さらに方言と共通語(標準語)など、人と人とが対話をするとき社会の規範によって言語は使い分けられています。社会的規範から外れた若者ことばのような存在もあります。こうした身近なところでの言語の使用法がミクロ社会言語学の研究対象となります」

一方、公用語や文字表記統一など言語の「社会的インフラ整備」について研究するのがマクロ社会言語学ということになる。

「たとえば私がいま研究しているのはマレーシアについてですが、この国においてはイギリス植民地から独立後ずっとマレー語重視の民族主義的政策を採ってきました。それが03年から小学校から理科と算数を英語を教えるように政策を変更してきています。これからは英語の使える人を育てないと国際社会から取り残されるという危惧感からの政策変更なんですね」

日本においても小学校から英語を教えるべきかどうかで論議の真っ最中だが、飯野先生はこう語る。

「日本では英語に対するイデオロギー的躊躇が大きすぎると思いますね。これも教え方の問題で、教えられる子どもたちのほうは大人たちが思っているよりも柔軟な感性をもっていますよ」

国際教養学部で学ぶ早大生たちの多くの体験として、留学生に交じって英語でのディスカッションを繰り返しているうちに自分自身のナショナリティー(国民意識)やアイデンティティー(帰属的自己同一性)を強く意識するようになるという。

日常言語から見えて来る社会の成り立ち

早大西早稲田キャンパスから大隈講堂を望む

06年初夏のいま国際教養学部3年次の学生は必修の海外留学に出ている。大半の学生たちが間もなく帰ってくる。そして留学から帰ると、本格的なゼミ演習が始まることになる。

ただ飯野先生は06年度は特別研究期間に入っており、ゼミを受け持つのは研究期間が終わってからということになる。その07年度以降のゼミでの研究テーマについては「世界の国々における言語政策のあり方の研究」になるという。その指導方針では次のようなことを心掛けたいと語る。

「日本に限らず社会の仕組みには成り立ちの過程がありますから、それがよく理解できるよう指導したいですね。また、言葉というのは日ごろ無意識のうちに使っていますが、一歩引いて客体化してみるといろんなものが見えてくることも教えたいです」

そんな飯野先生の座右の銘は――Make the familiar strange――まさに慣れ親しんだものこそ一歩引いて見よという意味だそうだ。

こんな生徒に来てほしい

この国際教養学部において学生は非常に勉強させられます。いま皆さんが取り組んでいる受験勉強よりはるかに厳しい勉強が課せられます。その基礎となる英語力もある程度のものを備えていないと、当初は授業を受けるだけでも苦労すると思います。ただ、この学部で学んで留学を経験すると必ずや人間的にガラッと変わります。好奇心や自立心があって日本社会を変革してやろう等という気概のある人にぜひ来てほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。