早稲田塾
GOOD PROFESSOR

一橋大学
大学院 法学研究科

只野 雅人 教授

ただの・まさひと
93年一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了。一橋大学博士(法学)。同年、広島修道大学専任講師に就任。93年広島修道大学助教授。97年より一橋大学助教授。

著書に『いまなぜ憲法改正国民投票法なのか』〈共著〉(蒼天社出版)『憲法の基本原理から考える』(日本評論社)など多数。

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憲法の基本原理に沿った代表民主制を研究

怪獣・仮想動物のデザインされていることでも有名な兼松講堂

最近、憲法への関心が高まっている。憲法改正をめぐる政治状況もかつてとはずいぶん変わり、いまでは衆参両院に憲法調査会が設立され、憲法問題全般が議論されている。そうしたなか憲法の研究者として様々な発言をしているのが、一橋大学教授の只野雅人先生だ。

「法学は人権と統治機構に分かれますが、わたしの研究の中心は統治機構です。なかでも議会や選挙制度・政党など、代表民主制とかかわるテーマを扱っています。憲法は国の最高法規なので、統治の基本構造を定めているのが憲法になります。その憲法の基本原理からみた場合、どういった代表民主制のあり方が望ましいのかに関心があります」

つまり只野先生の視野には憲法の条文だけではなく、実際の政治状況が入っているのだ。何が理想で現実にどのような政治システムをつくればよいのかを模索し、世の中に提言してきた。そんな先生が重要だと考えているのは、世論に含まれるさまざまなニュアンスを拾い上げていくことだという。そのためには多様性をすくいあげる選挙システムが必要になる。しかし小選挙区制導入以降、日本の選挙システムはまるっきり逆の方向に向かっている。

「90年代初めに起こった小選挙区制を軸とした選挙制度改革のキーポイントは政党本位の制度をつくることでした。当時から二大政党化の実現が叫ばれていました。国会内や派閥間の話し合いで決まってきた従来の方法に変わり、国民の選んだ政権や政策が次の選挙までに確実に実行されるようになる。それが望ましいのですよ、と。でも現在の状況は、世論を二極化するための核になるような政策とか理念がなおざりにされているような感じがします」

二極化でとらえられない世論

兼松講堂と同じ設計者による付属図書館

具体的に考えると分かりやすいだろう。先の総選挙で小泉純一郎首相は「郵政民営化に賛成か反対か、それが争点だ」と言い切った。郵政民営化に反対する議員には「刺客」を送り込み、反対派は敵だというメッセージを大々的に打ち上げた。

この二極化はたしかに分かりやすかった。政策論争などなく、何となく自民党や社会党などが議席を分け合っていた中選挙区時代より民意がはっきり示されたことは間違いない。それは小選挙区制を導入した大きな利点だろう。しかし選挙が終わって改めて考えてみると、郵政民営化問題は国民にとって最大の問題だったのだろうか?

大学・高校を卒業しても職がないという若年層の失業問題はどうだろう。税金や年金の支払額などが格段に増える各種控除の廃止のほうが郵政問題より重要だったのではないか。郵政民営化問題に単純化され、本来取り上げるべき選挙の争点が見えなくなってしまった。これらは選挙制度改革導入によるマイナスといえるだろう。

「世論を二極化してどちらかを選べるようにすれば世論がきちんとくみ取れるかというと、たぶんそんな簡単なものではないと思うのです」

只野先生はそう語る。じつは民主主義の根幹ともいえる投票も、使い方によっては危険な道具になることも教えてくれた。なんとフランス皇帝であるナポレオンも国民投票で信任されたというのだ。

「権力者が自分を正当化するための国民投票も歴史上ありました。たいてい政策や憲法の選択を個人に対する信任投票に結びつける形で行なわれます。わたし自身は国民投票に大きな意義があると思っています。ただ、いったん民意が表明されてしまうと、それは非常に大きな重みを持ちますので、できるだけ忠実に民意が反映できる仕組みを考える必要があると思います」

じっくり考えることを促すゼミ

「研究においてもっとも大事なことは何ですか?」という質問には、 「じっくり考えることです。ゆっくり本を読み、何度も考えてみる。それが重要でしょう」

只野先生はそう答えてくれた。考えることの重要性。それを先生は研究だけに求めているわけではないようだ。ゼミ演習では憲法の細かな解釈を教えるのではなく、住民投票や直接民主制の問題などを学生がじっくり考え議論するようにしている。選挙制度についても、国民がじっくりと考えた結果をくみ取るシステムを求め続けている。

憲法改正論議についても、只野先生が訴えていることは十分な議論をすることにある。前文から9条から環境権などの新しい権利までいっしょに論議して改正を進めようとしないで、そもそも憲法改正が必要なのかを論議し、さらに必要なら何をどう変えていくのかを考えて話し合うべきだと。何となくの勢いや雰囲気だけで憲法改正論議が盛り上がることに先生は警鐘を鳴らしている。

まず各自が考えることを促す穏やかな只野先生の姿勢は、物事の本質をじっくり考え見極める態度を学生に教えることになるだろう。それはきっと貴重で楽しい体験に違いない。それが証拠に先生のWebサイト(http://www.geocities.jp/tadanozemi/)には、心底楽しそうに笑う学生の写真がたくさん掲載されている。ぜひ塾生もページをのぞいてほしい

こんな生徒に来てほしい

憲法に興味のある、できればそれぞれ違った関心や意見をもった学生に集まって来てほしいですね。憲法はいろいろな領域を含んでいるので、とっつきやすい法律科目のひとつです。人権から統治まで憲法にかかわるいろいろ問題を取り上げると、必ず1~2つは身を乗り出すようなテーマが各人に見つかるものです。きっと面白いと思いますよ。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。