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GOOD PROFESSOR

横浜市立大学
大学院 医学研究科

大野 茂男 教授

おおの・しげお
1952年新潟県生まれ。中学校からは東京在住。75年東京大学教養学部基礎科学科卒。80年同大学大学院理学系研究科相関理化学専門課程博士課程修了。80年(財)癌研究所嘱託研究員。83年(財)東京都臨床医学総合研究所研究員。エール大学研究員をへて、91年横浜市立大学医学部および大学院医学研究科教授。05年同大学大学院研究科長。このほか大学の非常勤講師・公的機関委員などを歴任。著作に『シグナル伝達』(共立出版)『タンパク実験プロトコール 1』『同 2』(秀潤社)『生化学』(東京化学同人、著作はいずれも共著)がある。木原記念財団学術賞など受賞多数。
大野研究室のWebサイトアドレスはコチラ → http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~ohnos//Japanease/indexJ.html

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分子細胞生物学からの「理想の医療」への挑戦

大野研究室のある医学部基礎研究棟
夏のある日の横浜市立大キャンパス

横浜市南部の新杉田と金沢八景を結ぶ金沢シーサイドラインの「市大医学部駅」で電車を降りると、目の前に横浜市立大学医学部キャンパスと附属病院のモダンな建物群が広がる。今回登場願うのは、同医学部および大学院医学研究科教授で研究科長でもある大野茂男先生である。まずは横浜市大医学部の特徴から話してもらった。

「本学一番の特徴は、1学年の学生定員が日本一少ない(約60人)ことです。しかし教員の陣容は、他大学に決して劣らない医学生にとって最高の少人数制の教育環境が整えられているといえます。大学自体の規模が大き過ぎないことから、臨機応変に小回りがきくのも特徴で、安全倫理教育から先端医学研究・治験までを一貫して教育研究できる先進的な体制づくりも進められています。さらに臨床および医学研究のレベルを上げて日本の医療の発展に貢献できると考えています」

このほか海外の医科大学との共同研究や新たな人材発掘にも力を入れているとも語る。そんな大野先生の専門は「分子細胞生物学」。一体どんな研究分野なのか説明してもらおう。

「現在の医療の大きな目的は、〝標準医療〟といって、同じ病気やケガでしたら全国どこの病院に行っても同じ治療が受けられるような標準化が大きな目標とされます。しかし、患者というのは1人ひとりストレスのかかり方から成育歴・体質まで違います。それぞれの個人に応じた治療法を施すのが本来の医療のあり方のはずです。また、ご承知のように未だに診断法や治療法の確立していない疾患が多数あります。このような疾患に対して、さらには個人の特性に配慮した医療に向けてのロジック(理論)がまだ確立されていないのが残念ながら現在の医療の実情なのです」

この先「理想の医療のロジック」が実現するためには、そもそもの病気のメカニズムと人体の仕組みを各個人レベルまで徹底的に解明することが前提となる。「標準医療」をさらに一歩進めて究極の「個別医療」をめざす――気の遠くなるほど壮大なこの研究の第一人者、それこそが大野先生なのだ。

「私だけが第一人者というよりも、世界中の研究者が血まなこで競い合っている世界です。この研究分野の現状としては、ごく一部の悪性新生物(がん)についてはある程度まで解明されていますが、まだ他の大半のものは手付かずの状態なのです」

それだけに、これから医学部に進み研究をめざす高校生諸君にもチャンスの余地が大いにあることになる。しかし現実の医学生への評価はちょっと手厳しい。

「以前とくらべても医学部に入ってくる最近の若者は大きな夢を持っている人が少なくなりましたね。ほとんどの人が臨床医師をめざすばかり。たしかに臨床も大事ですが、将来の人類・医学のために研究者になってやろうという人があまりに少なくて、最近ちょっと残念なんですよ(笑)」

未来医療創成21世紀COE拠点リーダーとして

横浜市立大学附属病院の全景

さらに大野先生は大掛かりで学際的な研究プロジェクトを立ち上げ、その拠点リーダーを務める。横浜市大の21世紀COEプログラム「細胞極性システム研究に基づく未来医療創成」がそれだ。COEプログラムというのは各大学の世界的研究プロジェクトを国(文部科学省)が助成する制度だ。

このプロジェクトでは、がんや感染症・生活習慣病などいまだに対処法の解明されていない疾患の診断・治療法や新薬開発など次世代医療の基本原理の追究をめざすという遠大な試みに日夜挑戦している。

「このプロジェクト自体は大学院の学生や若手研究者養成をめざしたものです。ただ、この種のプロジェクトを通じて世界の最前線で闘っている教員・研究者・大学院生たちの姿を学部学生たちに逐一見てもらえることにも大きな意味があります。アイスクリームをなめながら歩いているようなごく普通の人間(笑)が実は非常にレベルの高い世界的な研究をしているという事実――その姿を日常的に見せることが重要なのです。そうしたことによって自身も世界的な研究に参加してみようかという気になる。自分にもできるのではないかという気になってくる。これこそが真の教育だろうと思いますね」

1学年60人の医学部学生のうち10人、いや5人でもいいから未来の医療に向けた基礎研究に向かう学生が出てくれれば――そう期待する大野先生なのであった。その肝心の21世紀COEプログラムの研究成果については次のように語る。

「人体を構成する細胞は、分裂して増殖するかあるいは死滅して無くなっていきます。さらに不思議なことに、各細胞はそれぞれの軸(細胞極性)を持っています。こういう細胞で人体は構成されているわけです。細胞の増殖や死にかかわる遺伝子、あるいは細胞の形を決める遺伝子――それらが傷ついたりすると、がん等に異常発展してしまいます。そのメカニズム(細胞極性遺伝子)を発見解明したのが我々のCOE研究グループなのです」

やや控えめに大野先生はそう語るが、これらの発見解明は世界初の快挙。そして多くが先生の個人的発想に基づく成果でもある。

「海外で研究されていることの真似事や後追いをしているような時代はもう終わりにしないといけません。医療に限りませんが、これからは新しいものを日本から世界に向けて発信していく時代です。それこそが世界に対する我が国の役割だと思います」

〝個人プレー〟で世界発信めざす若者に期待

附属病院背景に金沢シーサイドライン駅名プレート

「世界発信」をまさに実践している大野先生の言葉だけに非常に説得力をもって伝わってくる。あらためて医学部学生への指導方針について聞いてみた。

「サイエンスの世界は〝個人プレー〟というのが第一の原則です。医学もサイエンスの仲間ですから、やはり個人プレーが必要になります。個人が夢中になることがまず必要です。その動機づけを行なうこと、それが指導者や教員の役目だと思っています。もちろん、勉強や研究ができる環境を整えることも我々の大きな役目です」

「個人プレー」は多くの場合袋小路に入り込んでしまう。個人プレーと同様に大切なことが「連携プレー」。袋小路に入り込んでしまったときに適切なサゼスチョンを行なうこと、これが指導者や教師の第二の役目とも語る。

大野研究室の構成メンバーは博士号をもつ10名以上のプロの教員や研究者に加え、修士および博士課程を学ぶ大学院生と技術スタッフが中心となる。ただ、医学部のカリキュラムとは全く関係なしに学部学生の参加を推奨しており、実際に毎年数名の学部学生が各学年から研究室の研究に自主的に参加している。学部学生にも世界的な研究の一端に触れる機会を開いているのだ。

めでたく横浜市立大医学部に入学した暁には、ぜひ一度大野研究室の扉をノックしてみよう!

こんな生徒に来てほしい

若者らしく大きな夢と志をもっている人が来るといいですね。目の前の患者を救いたいというヒューマニティーあふれる心から医師をめざす人はもちろん必要です。ただ、そういう人に加えて、未来の人類にとって大きな貢献になるような基礎研究に向かうような人も同様に必要なのです。とても自分にはできそうもないという無用の恐れは全く不要です。必要なのは人間の身体の不思議さへの率直な驚きや畏敬の念、つまり医学への興味と熱意だけなのです。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。