早稲田塾
GOOD PROFESSOR

一橋大学
社会学部 大学院 社会学研究科

浅見 靖仁 教授

あさみ・やすひと
1960年愛知県生まれ。87年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。88年タイ・タマサート大学大学院修士課程修了。92年米ハーバード大学大学院博士課程コースワーク修了。93年東京大学大学院博士課程単位取得退学。94年一橋大学社会学部専任講師。96年同助教授。00年同大学院社会学研究科助教授に配置替え。06年より現職。主な著作に『東アジア政治のダイナミズム』(青木書店)『東南アジア・南アジア:地域自立の模索と葛藤』(大月書店)『アジアのソーシャルセーフティネット』(勁草書房)などがある(著作はいずれも共著)。
浅見先生のWebサイトアドレスはコチラ → http://phrik.misc.hit-u.ac.jp/Asami/

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アジアの人々の側からの「開発学」

浅見研究室のある一橋大学東本館。文化庁「登録有形文化財」に指定されている。
浅見研究室のある一橋大学東本館。文化庁「登録有形文化財」に指定されている。

今回紹介する浅見靖仁先生は一橋大学大学院社会学研究科(社会学部)の教授である。まずは、一橋大学社会学部の特徴について話してもらおう。

「学部の名称が社会学部になっていますが、狭義の『社会学』だけを学ぶのではなく、いろいろな社会現象を『社会科学』のさまざまなアプローチを使って総合的に考察することを重視しているのが特徴です。ひとつの分野を究めたい人から、複合的な領域について研究したい人まで、どちらの人にも満足してもらえるカリキュラムになっているのも本学社会学部の特徴です」

ただ、間口の広いこうした学部で学ぶためには明白な目的意識がないと流されてしまう危険性もある。そこでゼミ演習の指導に力を入れたり、カリキュラムにフレキシビリティーをもたせたりなどの対策も講じられている。

ところで浅見先生自身の専門は「地域研究」と「開発学」だ。

「地域研究というのは、特定の地域に絞って地域の政治的・経済的・文化的・社会的な事象を総合的に研究する学問分野です。わたしの場合はタイを中心にした東南アジア諸国地域を研究対象にしています」

ここでタイの話になったが、この国やそこに暮らす人々に向ける浅見先生の目がとても温かい。

「日本の社会では何でもガチガチに管理されがちですが、タイは非常にゆるやかで自由な国です。学問的には異説もありますが、民族名や国名に使われる『タイ』という言葉についても、『束縛のない自由』という意味の語が元になっているとタイ人の多くは考えています。だからといって西洋的な個人主義の国ではなく、共同体における人と人の結びつきも強く居心地のよさがとても感じられる社会ですね」

「ですから、後進性を研究するとか援助はどうあるべきかというような観点だけでタイという国を私はとらえたくありません。むろんタイの社会に問題がないわけではありません。ただ、問題を抱え遅れたアジアの国という視点だけでは見たくないのです」

浅見先生がタイという国と人々に出会ったのは、学生時代の気ままなバックパッカーの旅においてだった。タイの人々の自由な生き方に強く惹かれたという。

先ごろタイでは軍事クーデターが発生し、NHKテレビ『クローズアップ現代』でも緊急特集番組を放映したが、この番組にコメンテーターとして出演したのが浅見先生だ。いまやタイ問題における日本屈指のエキスパートなのだ。

簡単にだまされない人間になろう

一橋大学国立キャンパスの東側正門

一橋大学社会学部のゼミ演習は3・4年次の学生が対象(1年次後期から2年次学生を対象にした「社会研究入門ゼミ」もある)で、「主ゼミ」および「副ゼミ」まで複数のゼミが選べるようになっている。浅見ゼミは社会学部でも人気の高いゼミのひとつだ。

「わたしのゼミでは3年ゼミと4年ゼミを別々に行なっています。3年ゼミでは、4月から夏休みまで開発や民主化についての文献講読を行ないます。文献は英語で書かれたものが中心で、あわせて英語力を身につけてもらう狙いもあります」

「毎年ゼミの3年生を東南アジアに連れて行くようにしています。これは現地での調査や情報収集に英語の使用が不可欠だからです」

そして3年次後期のゼミにおいては、東南アジアでの調査・研究から毎回テーマを設定し、全員で議論・討議をしていく。形式張った研究発表の形式をとらないのが浅見ゼミの特徴だとも。

さらに4年次のゼミ生はそれぞれ卒業論文作成に集中していく。そうした学生たちへの指導方針について先生は次のように語る。

「まずは全てのことを疑ってかかりなさいということです。書物や論文に書かれていることがすべて正しいとは考えないで、どこか間違ったところがないか考えながら読むということです。かといって頭から全部否定的に読むのもよくありません」

「要するに、簡単にだまされない人間になるということです。そのうえで自分自身のことばで自分の意見がきちんと述べられるようになってほしいと思いますね」

ゼミ生同士でそれぞれの問題点や疑問点を指摘し合うのも浅見ゼミの特徴らしい。なかなか自分の欠点には気づきにくいもので、それを指摘し合うことで互いに啓発され高められていくというわけだ。

知識だけで満足せず自らの目で見よう

晩秋のある日の一橋大学の学生たち。

ところで「地域研究」や「開発学」の研究において何より大事なのは何なのだろう?――とにかく自分の目で現地を見ること――浅見先生はそのことを強調する。

「そのためにもゼミ生を東南アジアに連れて行くのを毎年欠かさないようにしています。書物のなかで書かれている東南アジアの人々のイメージとしては、どうしても貧しい人々あるいは弱い人々というのが付きまといがちです。ところが現地に行ってみますと、貧しいことは事実としても、決して弱い人々の集合体ではないことが分かってきます」

貧しい生活の中でも逞しくしたたかに自由に暮らし続けるタイの人々の姿。そこから自分の目で見ることの重要さを学んでほしい。そう熱く語る浅見先生だ。

「そうした現地の人々の生活を見たうえで、では自分に何ができるのかをよく考えてもらいたいと思います。実はあまり何もできないんですね。たまたま先進国に生まれて高等教育を受けることができたというだけで、途上国の人たちよりもすぐれた能力をすでに身につけていると勘違いをしている学生が時々います。しかし実際には日本の大学生は非常に無力です」

「なにか現地でアクシデントが発生したときの現地の人たちの知識とか判断力のすごさを生で見てほしい。安穏な日本にいて机に向かってお勉強しているだけでは得られない真の知識がそこで身に付くはずです」

そして最後に浅見先生はこうまとめてくれた。

「そんなにすごい人たちの集まるタイの社会なのに、なかなか開発がうまくいっていないという現実もあります。それは何故なのかを同時に考えてほしいのです。そこにこそ社会科学的な考察が必要となってくるわけです」

こんな生徒に来てほしい

何事にも疑い深い人。自分自身の頭で考えようとする人。その自分の考えを堂々と発表できる人。頭のなかで考えるだけでなく、実際に行動できる人。そんな人に来てもらいたいですね。実際の行動においても、インターネットなどを使ってNGO(民間開発協力団体)などについて調べて日本の事務所を訪問してボランティアとして活動に参加している高校生もいます。受験勉強などとは全然違うそうした世界もあることは知っておいて損はないでしょう。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。