早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京医科大学
医学部 神経生理学講座

金子 清俊 主任教授

かねこ・きよとし
1958年長野県生まれ。83年新潟大学医学部卒。91年同大学脳研究所神経内科助手。93年東京医科歯科大学神経内科助手。96年米カリフォルニア大学助教授。99年国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第7部長。05年東京医科大学医学部生理第二(現・神経生理学)講座主任教授。現在、厚生労働省科学審議会、同省伝達性海綿状脳症対策調査会、農林水産省食料・農業・農村政策審議会、(独法)医薬品医薬機器総合機構の委員・専門委員を兼任。主な著作に『組織切片上の未知の超微量蛋白質同定法の確立と新しいプリオン関連蛋白質同定への応用』(国立精神・神経センター)『プリオン病の謎に挑む』(岩波書店)『科学者が語るBSEのはなし』(コープ出版)などがある。
金子先生が主宰する東京医科大学「神経生理学講座」のWebサイトアドレスはコチラ↓
http://www.asahi-net.or.jp/~zd8k-knk/

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プリオン病・神経難病のなぞに挑戦し続ける

新宿副都心にキャンパスを構える私立医科大学・東京医科大学の設立は1916(大正5)年にさかのぼる。当時の某医学専門学校の学生約450人が学校運営をめぐる紛糾によって同盟退学し、その学生たちだけで創立したという歴史的経緯――等々こうした東京医大の創立の由来についてインタビューの冒頭に説明してくれたのは、今回登場願った同大学医学部神経生理学講座の主任教授・金子清俊先生だ。

「学生たちの手で創立された事情もあってか、本学の校風として『自主自学』が伝統的に伝えられています。学生の自主性を尊重して各人のやる気を起こさせるというような気風ですね。逆にいいますと人々から尊敬されるよい医師になるためには人頼みでは駄目だということ、そして学生のときから自ら判断する力を身につけろということにもなります」

東京医大のこうした自主的校風は学ぶ側にとって決して楽とばかりは言えない。しかし「自主自学」という学習・研究環境こそが医学を志す者の将来にとって大きな力になるはず――そう熱く話す金子先生。その姿には教育者としての情熱的な一面も垣間みえる。

BSE調査会座長代理の職を辞しても

そんな金子先生の専門は神経にかかわる難病の研究で、とくにプリオン(タンパク質性の感染因子を有するタンパク粒子)病における世界的権威とされる。

日本におけるプリオン病についてのガイドラインを主任研究員としてまとめたり、プリオンはじめ「タンパク質凝集病」におけるアンフォルジン(タンパク質高次構造を破壊する因子)による高感度診断法を世界で初めて開発する等々――。いずれも金子先生の輝かしい功績の数々ということになる。

「我ながらアンフォルジンによる高感度診断法の開発は画期的だと思っています。ただ、これも私ひとりの功績ではありません。私たちの研究室には若い優秀な研究スタッフが揃っていますから、そのチームワークによる成果だと思っています」

世界的権威たる研究者にありながら決しておごらず偉ぶらず――そんな謙虚な金子先生の人柄が取材する側にも伝わってくる。しかし一方で次のような勇ましい一面もある。

今なおイギリス発の世界的パニックが続く例の牛海綿状脳症(BSE)対策問題において、アメリカ畜産業界サイドからの政治的圧力などもあって生後20ヵ月以下の牛は検査対象から外す政府案が出されて大問題となったことを覚えているだろうか。その当時「食品安全委専門調査会」の座長代理であった先生はこれに反対して調査会座長代理の重職を辞す。この国の高名な専門家にありがちな処世術と一線を画す気骨ある学究の人なのだ。

金子先生の研究室「神経生理学講座」においては、このほかにも神経に関する諸難病の原因や治療法について数多くの研究が日夜なされている。それらの中にも世界初となるべきものが幾つも含まれている。

医学研究者たるもの臨床医を経験すべし

さて、ここからの記述はいつもとスタイルを変えて、今回の取材において現役高校生諸君のために金子先生が語ってくれた言葉のいくつかを紹介してみたい。基礎医学の世界的研究者としての心構えとともに、先生のやさしい人柄もびんびん伝わってくる至言の数々だ。

「基礎医学の研究をしていくうえで最も大切なのは『意味のある研究テーマ』を探し出せるかどうかです。実際それで研究者の質が決まってきます」

「優秀な研究者というのは、芸術家に似て神業に近い発想が必要となります。すでに世の中でブームになっているものや他の研究者と同じ課題を追いかけているようでは、一生かかっても意味あるものなど何も発見できないでしょう」

医学の基礎研究を職業として選んだ以上は、昨今の若い人にありがちな人頼み指示待ちスタイルでは全く駄目です。学生時代から自ら判断して道を切り開いていくような訓練を日ごろから心掛けないといけません」

「基礎医学の研究を一生の仕事にするにしても、いきなり研究生活に入るよりはまず臨床医になっておくべきです。実際の病気の姿や患者の様子などを知ったうえで研究生活に入ったほうが効果的な気がします」

金子先生自身も臨床医からの研究コースを辿ったが、いまでも最初に担当した患者さんのことが忘れられないという。その若き日の経験こそが、その後の先生の基礎医学研究の励みともなってきた。

教わるのでなく自ら方法を作り出す

さらに金子先生の熱弁は続く――

「「研究をするにあたって『人類のために』とか『医学の発展のために』とか初めからあまり大きく構えて取り組むと、そうした考えに捉われてかえって可能性を狭めてしまうことにもなりかねません」

「医学の研究といいますと、ややもすると所属する研究室・医局の伝統やスタイルを守りがちになります。しかし今やそれでは学問的進歩に追いつけません。過去の伝統や成功体験にとらわれることなく、若々しく新たな発想を大切にすべきです。そのためにも自分たちの研究室でなければできない独自性や独創性を常に模索するようにしています」

「『こうしなければならない』というような決まった規則や法則・方法など医学の研究にはありません。研究とは何もないところから始めるもので、法則などというものは自らどんどん作り出せばいいのです」

「欧米と日本の研究者とを比較するとき、よくこんな象徴的な話がなされます。日本の研究者は研究成果を批判されると意気消沈してしまいがちです。一方で欧米の研究者は『批判されるのは注目されている証拠だ』とかえって大喜びしたりします」

批判や常識にとらわれているようでは最新医学の進歩などあり得ない。ましてや時の権力におもねり真理を曲げるような「御用学者」たちなど輝かしい科学の歴史とは無縁の存在でしかない。

「古今東西すぐれた学説でも最初は異端とされることがよくあります。勇気と信念をもって訴え続けることで学説として認められ、人類は文化を発展させてきました。自身の信念を貫くためにも、他人から教え与えられたものではなく自ら探し出した研究成果であることが条件となります」

「これが正しいという信念をもって研究を貫けるような本物の医学研究者を育てたいというのが私の究極の願いなんです。だからといって私のミニコピーのような研究者ばかり育てても意味がありません。それぞれの独自性を出していくためにも、やはり自分で考え抜ける能力を身に付けることが大切なんです」

あくまで「自主自学」の精神を学生指導においても心掛けていると金子先生は強調する。日ごろから上からがんじがらめに規制しないように気を付けているという。そして……

「医学生にとって医師国家試験にクリアすることは現実的な第1目標となります。ですから、そのボーダーライン上にあるような人のサポートには力を入れざるを得ませんね(笑)」

「じつは医師国家試験を簡単にクリアしたような人より、苦労して国家試験をパスした人のほうが患者さんの気持ちをよく汲みとれる良医になることが多いようなんですよ」

プリオン病研究の権威が不出来の医学生にここまで心配りをしてくれる。そして、心に染み入る金言の数々――

まさしく難関を突破した医学生が自らの一生を託せる名プロフェッサーといえよう。取材を今回担当した筆者にとっても貴重な体験のひとときとなった。

こんな生徒に来てほしい

何となく研究者にもでもなってみようかなぁ――というような人が最近とみに多くなってきた気がして残念に思います。そういう「でもしか」医学生は私たちの研究室には無用です。ある病気を治したいとか、医学の進歩に少しでも役立ちたいとか何でもいいから強烈かつ明確な目標をもつ人――そういう学生にこそ来てほしいですね。そういう有意な若い人に出会えるかと思うと、こちらとしても教えがいもありワクワクしてきます。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。