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GOOD PROFESSOR

早稲田大学
大学院 法務研究科

高林 龍 教授

たかばやし・りゅう
1952年生まれ。76年早稲田大学法学部卒。76年司法修習生から東京地方裁判所裁判官・最高裁判所調査官などを歴任。95年早稲田大学法学部助教授。96年より現職。主な著作に『標準特許法 第2版』(有斐閣)『ケースブック知的財産法』(共編著・弘文堂)『アメリカ著作権法とその実務』(訳書・雄松堂出版)などがある。

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日本の知的財産法研究の地平を拓く

高林研究室のある新装なった法学部8号館

早稲田大学大学院法務研究科(学部は法学部担当)の教授である高林龍先生は、教職に就く前に東京地方裁判所裁判官・最高裁判所調査官など法曹実務の最前線で働いてきた異色の経歴をもつ。

「裁判官をしていた17年間すべてで民事訴訟を担当していました。その間の東京地裁3年間と最高裁調査官の5年間の合計8年間では、知的財産権の訴訟を専門に担当することになりまして……」

自身そう語るように、知的財産権の法曹実務に長く携わってきた高林先生はその道のエキスパートだ。

「知的財産権は大きく2種類に分類されます。特許庁が扱う特許権や商標権・意匠(デザイン)権などの『工業所有権』、それに特許庁が直接扱わずに文化的創作物にかかわる『著作権』の2つからなります。現代でのビジネスや生活において知的財産権に無縁では生きられません」

「高校生にも関心の高い携帯電話などは特許の固まりのようなものですし、商標・意匠権にも大きくかかわり合っています。著作権についても、音楽や動画をダウンロードするにあたっての問題など高校生諸君もよく知っていると思います」

高林先生は長く法曹実務の現場でこれら知的財産権の問題にかかわってきた。そんな先生から見ても、まだまだ新しい法律分野だけに現実の訴訟事例のほうが先行していて、法学・学問としての理論的体系化は遅れている分野なのだ。

前職である最高裁の調査官というのは、先行して世の中に起こっている訴訟事例に理論づけを行なう(実務と理論とをつなげ「架橋」する)のが主な仕事。当時からまるで法律学者のような気分だったらしい。

ならば、いっそのこと研究者になって知的財産法理論を実務と「架橋」して体系化することについて専門に研究してみよう――そう思い立った高林先生は法曹界から大学教員に転じることになる。その時点の日本において、知的財産権なかでも特許についての「架橋」の問題の研究者は高林先生ひとりだけだった。

知的財産判例データベース化に挑む

高林研究室のある新装なった法学部8号館

ちなみに特許問題にかかわる社会人必携の書『標準特許法』(有斐閣)を著したのも高林先生で、特許問題理論家の第一人者とされる。そんな先生が現在取り組んでいるのは、日本を含む東アジア諸国の知的財産権に関する判例の英訳データベース化だ。

「フィリピンやシンガポールなどを除く東アジア諸国は日本も含めいわゆる英語圏ではありません。そのため知的財産権に関する判例はほとんど英訳されておらず、欧米の法曹関係者など内容も知らぬまま一段低く見ているのが現状です。そうした誤解を解くためにも、我々の判例を英訳してデータベース化しようと今その作業に取り組んでいます」

この知的財産権判例のデータベース化の対象国は日本だけでない。中国をはじめ韓国・台湾・タイ・ベトナム・インドネシアにまで及ぶ。知的財産権の問題に限るとはいえ、これだけの国々まで含むとなると膨大な判例が日々生まれてきてエンドレスの作業となりかねない。このような多くの判例を集めて英訳までしようというのだから、これは一研究者レベルの計画ともいえなくなってくる。

「確かにかなり大変な作業なんですね(笑)。ただし国連のWIPO(世界知的所有権機関)からも高い評価を受け、東アジア以外はWIPOが引き受けて共同で行なうことになったりして、そんなことを励みにやっています」

にこやかにかつ決然とそう意気込みを語る高林先生の姿がそこにある。

もうひとつ文部科学省が主催選定する「21世紀COEプログラム」において早稲田大学法学部では「企業法制と法創造」(拠点リーダー・上村達男法学部長)を学部をあげてテーマに取り組む。そのうち知的財産権の部門では、そのために「早稲田大学知的財産法制研究センター」を設立して専門的に研究している。もちろん、このセンター長を務めるのは高林先生の他に余人はいない。

法学部学生たちが熱演する「模擬裁判」

大隈重信翁銅像の隣に立つ法学部8号館

早稲田大学法学部のゼミ演習は2年次後期からで、その定員は毎年10人。人気のある高林ゼミには定員の3倍にも及ぶ入ゼミ希望者が例年殺到するという。

「基本的な進行としては、知的財産権の重要テーマごとにグループ研究をして、その結果をゼミの時間に発表してもらいます。早大法学部には卒業論文の提出義務はないのですが、わたしのゼミでは必修としています」

さらに高林ゼミは、日本における法学部ゼミでは唯一ここだけという知的財産権をテーマにした「模擬裁判」をすることでも知られる。しかも係争テーマの設定から裁判の進行まですべてゼミ生自身によって行なわれ、原告や被告をはじめ証人・弁護士・裁判官までもが全ゼミ生に役を割り振って演じられる。これが年を追うごとに扱う内容も高度になっていて、近年は迫真の法廷ドラマを見るようだとも。

「この模擬裁判にしても普段のゼミ演習にしても学生たち自身がすべて考えつつ進行しています。わたしの役目は法律的に間違っている場合などに指摘してちょっとアドバイスをするだけ(笑)。じつに優秀な学生たちで私の誇りでもあります」

先輩から後輩への指導や引き継ぎの的確さ、そして先輩を引き継いだ後輩たちの少しでも先輩を超えるものをという努力――それらの積み重ねが素晴らしい高林ゼミの実績に結実しているのだろう。

真の「早稲田らしい」学生になって

イチョウ並木の黄葉と西早稲田キャンパス正門

学生たちへの指導方針について高林先生はあらためて次のように語る。

「とにかく大まかな方向づけ以外はすべて学生の自主性に任せています。それぞれ自分で興味あるものを見つけて、どんどん自分から積極的に研究に取り組んでもらいたい。そして、いい意味での早稲田的な学生に育ってほしいと思っています」

さすがに元裁判官だけあって高林先生の淡々とした語り口には非常に高い信頼感のようなものが感じられる。さらに人間的にも温かみのある人柄が伝わってくる。ただ学生指導には厳しいことで知られてもいるようで、一般的には「ちょっと怖い先生」とも思われているらしい。

「ゼミでも一般講義でも遅刻と無断欠席は絶対に許しません。わたし自身ルーズなことが嫌いなのです。早稲田での教員生活も10年を超えまして、そのへんは徹底されて遅刻も無断欠席もほぼなくなりましたね(笑)」

ややもすると今風のカジュアルな学生気質に迎合しがちな先生が多いなか、厳しい指導を貫く姿勢は今どき貴重ともいえよう。最後に、人生の岐路に迷っているかもしれない現役高校生諸君に対する高林先生のアドバイスをお送りしよう。

「高校までの勉強というのはレールが敷かれたうえでの学習になります。しかし大学にはそのようなレールなど基本的に敷かれていません。これは早稲田の法学部の特徴ともいえますが、コース制のカリキュラムなどを学部として用意することはしていません。デパートのように専門分野の授業を揃えておいて、学生たちの選択に幅をもたせる方針としています。そういうわけで『宝物』は大学のいろいろなところに埋まっています。それらを掘り起こすのは学生諸君らの自らの努力でしかないのです」

こんな生徒に来てほしい

高校生くらいの年齢では何を将来やりたいのか明白でない人も多いと思います。それを見い出すのが大学での4年間ということなので、そんなに焦る必要はありません。ただ、いつも好奇心をもち続けていないと「宝」を見過ごすことにもなりかねません。とくに知的財産権を学ぶ人にはこれが重要です。ある特許のテーマに関心をもつとしたら、ついでにその技術的な成り立ちまで調べ切るような旺盛な好奇心。そういう若者らしい積極性を維持し続けられるような人なら、こちらとしても教え甲斐がありますね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。