早稲田塾
GOOD PROFESSOR

成城大学
法学部

田嶋 信雄 教授

たじま・のぶお
1953年東京生まれ。78年北海道大学法学部法律学科卒。85年同大学院法学研究科博士課程単位取得退学。この間82~84年西独トリーア大学およびボン大学留学。85年北海道大学法学部助手。89年成城大学法学部助教授。92年独フライブルク大学客員研究員。96年より現職。現在、成城大学メディアネットワークセンター長(兼任)。主な著作に『ナチズム外交と「満洲国」』(千倉書房)『ナチズム極東戦略』(講談社)『太平洋戦争』(分担執筆・東京大学出版会)などがある。
なお田嶋先生が主宰する「田嶋信雄研究室」Webサイトのアドレスはこちら → http://homepage2.nifty.com/nobuotajima/

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「戦間期」の政治秘史をあぶり出す

田嶋研究室のある5号館建物
成城大学正門に続くイチョウ並木

今回、成城大学法学部教授の田嶋信雄先生にお会いしての第一印象は――温厚篤実でまじめな先生――というものに尽きる。取材が始まってもその印象は変わらないのだが、さらに研究のみならず教育についても並々ならぬ情熱を傾けていることが分かってくる。そんな先生の専門は「国際政治史」。第1次世界大戦期から第2次大戦期(いわゆる「戦間期」)のヨーロッパと東アジアの関係史を研究している。

「わたしの場合この戦間期の『日・独』『中・独』『中・露』『日・露』『独・露』の関係に興味がありまして、これら多国間の関係を複眼的に追いながら当時の国際政治の動きをずっと研究してきました」

通常この種のテーマにおいては、日・独なら日・独、あるいは独・露などのように2国間の関係を専門とする研究者が多い。ところが田嶋先生はこれだけの多国間の関係を輻輳させつつ、そこから「歴史の谷間」に埋没している新事実をあぶり出すという画期的な研究をしてきた。

枢軸ナチスドイツは中国軍を援助していた!

晩冬期の成城大学建物群の全景
キャンパス内にある「成城池」

1937年7月に日中両国軍が衝突し、それが8年間にわたる日中戦争(そして太平洋戦争をへて45年敗戦=無条件降伏)へとエスカレートしていく。

「実はこの日中戦争の初期において、ドイツ軍は中国・蒋介石軍に軍事顧問団を送って指導助言をし、兵器の供与まで行なっているのです。当時の日独関係で考えますと『日独防共協定』を締結して最友好国のはずでした。当時ナチスドイツにとって日本は重要な枢軸同盟国のはずでしたが、それ以上に大国・中国のほうがより重要だったわけですね」

日中戦争時におけるドイツ軍の中国軍への援助について日本の公式戦史にはほとんど触れられていなかったが、田嶋先生は他国間の歴史研究からこの事実を初めて探り当てた。学会で発表したときは、歴史を塗り替える新事実として大いに注目されたのは言うまでもない。

このほかにも戦争など大きな国家間の関係に翻弄された個人の消息等についても具体的に研究をしている。幾人かの興味深い例を話していただいたが、紙幅の関係もあって今回これらを紹介できないのが残念だ。

高校までに学ぶ歴史の授業は大学入試に照準を置いているため、ややもすると歴史的事象の年号や人名を記憶するだけの無味乾燥な作業になりやすい。しかし田嶋先生の話はワクワクするような興奮に満ちていて、歴史を学ぶ真の楽しさがよく伝わってくる。

新世紀市民として習得すべき教養・技術とは

成城大学法学部は少人数制教育をうたって、それを特徴にしていることで知られる。現在これをさらに推し進めようという計画が進行中らしい。

「現在は教員25人で指導していますが、近くこれを30人にまで増やす計画です。こうした少人数制によって、教員と学生(あるいは学生同士)との距離が近くて、非常にいい雰囲気になっています。また、教員同士も学閥等に関係なく良くまとまっていて、そうしたことも他大にない特徴といえるでしょう」

研究実績もさることながら、教育熱心な教員が揃っていることも成城法学部の特色だろうとも語る。学部の講義でも国際政治史を講義する田嶋先生だが、当時のニュース映画のビデオ映像やPC上のプレゼンテーションソフト(パワーポイント)などを駆使して自らの専門である「戦間期」の国際関係について学生たちの興味をひくような工夫をしている。

法学部の専門ゼミは3・4年次の学生が対象で、両学年合同で開かれる。07年度の田嶋ゼミのメンバーは11人。しかもゼミ演習が必修な3年次生だけではなく、自由選択の4年次生も卒業論文の執筆をめざして参加している。

「わたしのゼミにおいて国際政治史の研究が中心となるのはもちろんのことです。ただ、ゼミ生たちが社会に出てから役立つようなリテラシーや技術の習得もむしろ重視しています」

実社会に出て求められるプレゼンテーション能力について言えば、①パソコン上の文書作成ソフト(ワードなど)による執筆機能をマスターすること②きちんとした文章が書けるようになること③ちゃんと相手に伝わる報告ができるようなること――等の習得にも力を入れるようにしているとのことだ。

「歴史リテラシー」なくして世界を語れるか

3年次における田嶋ゼミ生の国際政治史の研究は個人研究が原則となる。たいてい研究テーマについては先生のほうから提示される。なかには自らテーマを決めて研究したいという学生もいる。もちろん先生としては大歓迎でOKということになる。毎年度末にそれらの研究リポートや卒論を1冊の論文集にまとめて、ゼミ生にプレゼントするのを恒例にしている。

そんな田嶋先生が学生指導で心掛けていることは――

「大学においては、国際政治およびその歴史についてその具体的な内容を詳細に暗記してもあまり意味がありません。それよりも、自分なりの歴史の見方を身につけることの方が重要だろうと思います。歴史上の出来事をどのように見るべきなのか、歴史や社会について調べるにはどのような手練手管があるのか――など学問としてのリテラシーをきちんと修めてほしいですね」

研究者にしろ他のゼミ生にしろ人が書いた論文・リポートの良し悪しをきちんと評価できるような目をもってほしいとも語る。さらに先にも述べたように、社会人として必要なコミュニケーション力や文章力・説得力も身につけてほしいとも。そしてインタビューの最後に田嶋先生はこんな話もしてくれた。

「高校では日本史を専攻していたから(あるいは世界史を専攻していたから)国際政治史なんて受講しても付いていけないのではないか心配――というような相談を学生からよく受けることがあります。高校において日本史か世界史かを選択して学ぶのは、大学入試のための便宜的なものですから、あまり固定的に考えない方がいいと思います」

「わたしの講義は日本史も中国史も世界史もいろいろ交じり合って出てきます。むしろ日本史しか知らない(あるいは世界史しか知らない)ということでは、いざ将来的に国際的に活躍しようというとき恥ずかしい思いをするのは間違いないでしょうね」

昨今のマスメディアやネット上などの論調を見ていると、過去の歴史的事実を度外視して声高(かつドメスティック)に論じられることの空虚さが21世紀ニッポン社会を覆う。ますますポピュリズム(大衆迎合主義)が大手を振ってあらゆる論議が「劇場化」し消費されてしまう不透明な時代だからこそ、きちんとした「歴史リテラシー」をもって総合的に歴史を見る目を開いた者こそが、この国の未来を切り開くことになるのだろう。

田嶋先生の下で歴史を見る目を開眼すること――そのことは21世紀市民として一生モノの指針を手にすることともなろう。臆せず真実の門を叩くべし!

こんな生徒に来てほしい

社会に対する関心を常に持っていてほしいと思います。断片的な知識だけでなく、新聞や本(必ずしも難しい専門書でなくて新書版程度のものでも十分です)をじっくり読み切るという習慣をぜひ付けてほしいですね。そうやって社会に関心をもつ人であれば、これまで特に歴史に興味がなかった人でも構いません。受験勉強とは全然別の新しい歴史を大学で学ぶのだ――そのくらいの気持ちで来てくれたら嬉しいですね。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。