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GOOD PROFESSOR

横浜市立大学
国際総合科学部 大学院 国際総合科学研究科

高山 光男 教授

たかやま・みつお
1955年群馬県生まれ。80年工学院大学工学部工業化学科卒。80年東邦大学薬学部研究補助員。00年同上席技術専門員・同助教授をへて、01年横浜市立大学大学院総合理学研究科助教授。05年より現職。主な著作に『タンパク質入門』(内田老鶴圃)『これならわかるマススペクトロメトリー』(共著・化学同人)『ゲノミクス・プロテオミクスの新展開』(分担執筆、エヌ・ティー・エス)などがある。

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質量分析とイオンの基盤科学研究

高山研究室の入る「環境ホルモン研究施設」
晩冬の金沢八景キャンパス全景

21世紀初頭のニッポン、一部に景気回復の兆しがあるとはいえ、世に漂う閉塞感と格差感には拭い去りがたいものがある。「第2の産業革命」等と一時もてはやされたIT技術もなかなかに先行きが不透明で、将来の目標や予測を立ててもすぐに陳腐化するような空しさだけがこの国の人々にまとわり付く。こういう不透明な時代と未来に備えて学ぶ者にあっては広く多様な知識を習得して将来の大変化に備えるべき――こう主張するのは、横浜市立大学大学院国際総合科学研究科教授で、学部としては理学系基盤科学コースのコース長でもある高山光男先生だ。

「これからの社会情勢は企業の合併吸収がさらに盛んになったりして将来どうなるか予測がつきません。こうした厳しい時代に学ぶ若い皆さんには同情を禁じ得ません。ただ、確実にアドバイスできることとして様々な学問領域を広く体験しておく方が有利ということはあります」

「そういう意味でも本学の国際総合科学部には国際教養学系・理学系・経営科学系の3学系に7つものコースが用意され、複数コースの履修やコースの変更も行なえるカリキュラムになっています。それらを上手に活用して広く学んでほしいと思いますね」

戦後(あるいは明治維新後)に限っても、これほどまでに未来を楽観視しづらい心象的「空気」に満ちた時代が日本歴史上あったろうか。それほどに今までにないパラダイム大転換が求められる激動の時代だからこそ、未来に備えて学ぶ者たちに新しい学び方が必要なのかもしれない。そんな高山先生が所属するのは国際総合科学研究科理学系の「基盤科学」コース。いったいどんな学問分野なのだろうか……

「たとえば携帯電話を挙げますと、さらに多機能化してどんどん便利になっています。しかし、その便利になっていくプロセス自体は忘れられがちです。そうしたことを繰り返していると、いつのまにか個々の技術そのものが消え去ってしまい、いざ自分たちで作ろうとすると困ってしまうような事態に至ることが考えられます。そういった非効率で不幸な状況にならないように、過去・現在における科学の基盤技術をきちんと継承させていこうとする学問分野なんですね」

とりわけ高山先生の専門分野は「質量分析学」で、主にイオンについての研究をしている。この分野の研究者は少なく、国内でも貴重な存在のひとり。ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏なども同学の研究者仲間だという。まずは、そもそもイオンとは何なのか――そのあたりから説明してもらおう。

「イオンとは電気を帯びた原子や分子のことをいいます。逆にいいますと、原子や分子などの質量を計測するためにプラスあるいはマイナスの電荷を持たせたものでもあります。そうやってイオン化させたものを計測することによって、その原子なり分子が何なのか(酸素であるのか窒素であるのか)が特定できるわけです。今こうしたイオンを一番使用しているのは製薬会社でしょう。新薬を開発するときにその化学構造を知る必要があり、新薬の候補となる分子をイオン化して構造を調べる等といった使い方をしています」

自然・天候・水とイオンとの深い関係

横浜市立大のシンボル・時計台
市大交流プラザから附属校舎を望む

いま高山先生が中心的に研究しているのは、気体になって大気中や真空中に浮遊しているイオンについてだ。

「浮遊しているイオンや中性粒子を帯電させて加速させたり、磁石を通して曲がり方などからその質量を計測したりすることによって、イオンと天候との関係を研究しています。たとえば晴天のときプラス・マイナスどちらのイオンが多いのか、曇天時ではどうか、あるいは雷が鳴っている時はどうかなどを調べます。しかしまだ明白な相関は解明されていません。ただ酸性雨については、雨滴のなかに化学物質が含まれていて、それによって酸性雨になることがイオン研究から分かってきました」

欧州アルプスの登攀経験もある山男らしくガッチリした体躯を誇る高山先生だが、そのゴツい風貌からのイメージを裏切るような優しい声で自身の研究内容について丁寧な説明をしてくれる。ほかには「社会性昆虫」であるアリの身体から発する微量化学物質を分析し、その情報伝達機構や社会性機構の調査研究なども行なっている。

また横浜市の産・官・学を動員した「よこはま水の会」を主導・組織して、その代表も務める。

「元来、元町や山手など横浜は良質の水が湧出する地が多いことで知られていました。明治維新後の第1号開港として外国船舶が寄港し飲料水の補給をするようになりますが、横浜と神戸で調達した水だけはいつまでも腐敗しなかったそうです。横浜も神戸も岩盤の多いところで、その岩盤のなかに抗菌性のある鉱物が含まれていたのではと言われています。そして居留地に外国の人々が住むようになり、この良質の水を使ってビールをつくるようにもなります。日本におけるビール発祥の地でも横浜はあるのです」

横浜市立大のほかの物理・化学分野の教員・研究者の協力も得つつ、企業・役所などとも共同で「横浜の水」にまつわる歴史や伝承について2ヵ月に1回ほどシンポジウムも開く。市立大学の教員として、横浜市民および市への調査研究の還元という意味も高山先生個人としては込められている。いかにも豪快かつ律儀な「山男」先生らしい試みでもある。

世知辛い時代を乗り切るスキルこそを

質量分析装置を操作する高山先生

横浜市大国際総合科学部の理学系の各コースでは、学部4年次になった学生は各教員の研究室に配属される。高山先生の研究室でも例年3人程度の学生を受け入れる。ここで学生たちは卒業研究に1年間打ち込むことになる。

「学生たちの卒研のテーマについては、大学院生のゼミに自主的に参加させて、自ら興味をもった院生の研究グループに参加できるようにしています。私の方からテーマを与えてもいいのですが、自身が選んだものでないとモチベーションがなかなか上がりませんからね(笑)」

なお、この横浜市大理学系コースにおいては高度な先端研究機器の充実ぶりが特徴のひとつとされる。国立研究所や大手製薬メーカーの研究所並みの機器がズラリと並び、日本の大学の研究環境としては最高水準を誇る。ここでの高山先生の指導方針なのだが、これがまたなかなかにユニーク!

「もちろん卒業研究に真剣に取り組むのも大切なことですが、それよりも何よりも人間としてトータルなスキル向上を目指してほしいというのが私の考え方なのです。ですから、研究室のゼミとサークルの集まりやアルバイト・趣味などが重複した場合など、ゼミよりそちらを優先することを許すようにしています。ずっと研究室にこもっているよりも、サークル活動やアルバイト・趣味などで社会的に関わったほうが将来的な人格向上に役立つこともあろうと思うからです」

長いようで短い若き日の大学4年間において、これまでになく厳しく長くなりそうな人生において武器・ツールとして使える人間的・社会的スキルを身につけた方がいいとも。あくまで学生側に立って考えてくれる優しい高山プロフェッサーそのものなのだ。

こんな生徒に来てほしい

好奇心が旺盛でいろんなことに興味のある人ですね。それも理科系のことに限らず、古典文学に興味があるとか、社会や経済にも関心があるとか、そういった本来の意味での「リベラルアーツ」的な素質を備えた人にぜひ来てほしいと思います。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。