早稲田塾
GOOD PROFESSOR

埼玉工業大学
工学部 機械工学科

小林 晋 教授

こばやし・すすむ
1957年東京生まれ。79年東京大学工学部航空学科卒。84年同大学大学院工学系研究科博士課程修了。84年金沢工業大学助手。87年埼玉工業大学工学部機械工学科講師。90年同助教授。04年より現職。この間2000年独カールスルーエ大学留学。著作には『衝撃ハンドブック』(分担執筆・シュプリンガーフェアラーク東京)『流体力学(仮題)』(共訳・近刊予定)など専門書があるほか、探偵小説の翻訳書も多数
小林先生が主宰するWebサイトのアドレスはコチラ↓
http://www.sit.ac.jp/user/kobayasi/kobayashi.html

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人類知のすきまを埋める流体力学研究

小林研究室と実験室の入る6号館
田園風景の中の埼玉工業大学遠景

埼玉工業大学(埼玉県深谷市)工学部の小林晋教授には2つの顔がある。ひとつは本来的な工学部機械工学科における世界的気鋭のプロフェッサーとしての、もうひとつは海外の探偵小説翻訳家としての顔だ。ここではまず工学部教授としての小林先生から紹介していこう。

小林先生の専門は「流体力学」で、その研究業績のなかには世界初の発見となる「衝撃波の斜め反射現象における非自己相似性に関する研究」がある。

「衝撃波とは、水中や空気中を超音速で伝わる波のことをいいます。つまり音(音速)より速い波ですね。こうした衝撃波がある斜面にぶつかった場合、その反射現象では自己相似性が成り立つとされてきました」

要するに同じ強さの衝撃波が同じ角度の斜面に衝突したときの反射現象はどこでも同じ(相似形)になるというのが、これまでの「定説」だった。これを見事に覆してみせたのが小林先生その人だ。

「斜め反射は2つのタイプ、正常反射とマッハ反射とに大別されます。私たちの研究によっていずれの場合も伝播につれて変化していることが分かったのです。このことはこれまでの仮定を根本から覆してしまう事実です」(図面参照)

「ノイマン・パラドクス」解明に挑む

正常反射(上)とマッハ反射(下)の説明図
初夏の季節の埼玉工業大学の正門

この世界初の発見に引き続いて、いま小林先生は「ノイマン・パラドクス」の解明に挑んでいる。これも超音速気体力学分野における未解決のテーマだ。

「これはコンピュータの開発やゲーム経済理論などで有名なフォン・ノイマン(Von Neumann)の名前にちなんだ物理学上の超難問です。衝撃波の反射はノイマンによる理論と実験結果が合致するのが当然であるのに、ときに合致しないことがある。それは何故なのか長いあいだ解明できず、研究者のあいだで『ノイマン・パラドクス』と呼ばれてきました。これに、同僚の足立教授とともに発見した実験事実に基づいて仮説を立てれば疑問が解けるのではないかと、いま研究中なのです」

この「ノイマン・パラドクス」が解ければ、小林先生にとって2つ目の世界的快挙となる。こうした旺盛な研究手法の秘訣についてはこうも話す。

「私たちのやっている研究分野はこれまで謎とされてきたものに実験を重ねて解明していく基礎研究です。ですから解明されても即実用的に役立つということはありません。しかし科学の分野では、役立たないからと未解明のままにはしておけません。少しでも人類の知識体系における未知の分野を少なくしていくことが大切だと思うのです」

そう語る小林先生の周りには謙虚でまじめな「空気」が自然とただよう。門外漢の取材に対してもその研究内容をかみ砕いて丹念に説明してくれる。

世界的研究者にして熱血の学生指導

仏教系らしい雰囲気ただよう大学事務局21号館
実験作業中の学生とともに小林先生

「本学の工学部機械工学科の特色といえば、まず機械工学の原理原則を徹底して学生に理解してもらう体制になっていることです。力学をはじめ物理現象の基礎的原理や機械構造の基本などについてですね」

そうした工学的リテラシーの基本を身に付けたうえで、コンピュータや機械の設計製図・CADなどを学んでいく。そして3年次の後期からは各教員の研究室に配属され、4年生から本格的に卒業研究に挑む。小林先生の研究室では例年10人弱の学生を受け入れている。

「卒研のテーマについては、私のほうから定番的なメニューを提示したうえでグループあるいは個人で研究してもらいます。ただ、わたしのメニュー以外のテーマで個人的に研究したい人でももちろんOKということにしています」

その内容自体がよければ専門の流体力学の範囲外の研究テーマでも認めているという。「定番メニュー」のテーマにおいては無線操縦式の大型ラジコン飛行機を設計製作するグループが例年必ずいるという。そうした学生たちへの指導方針については次のように語る。

「こちらから一から十までの指示をすべて出してしまうと、一見能率は上がりますが学生の力は伸びません。ですから学生自身に常に考えさせるようにしています。それに学生指導そのものを大学院生に任せることはしないで、わたし自身ができるかぎり直接指導するように心掛けています」

世界的研究の傍らで学生指導にも手を抜くことをしない小林先生。いかにも優しく真面目な人柄を感じさせる。ただし、その指導の厳しさにおいては学内でも有名なほどで、試験の成績が悪いと容赦なく赤点をつけて及第させない強面の一面もあるらしい。

「それだけに努力して及第点に達すると、その達成感でみんな非常にうれしそうにします。多少評判が悪くても(笑)、学生に努力させるように仕向ける事それこそが本来の教育指導だと思うのですがね」

そう言って苦笑いの表情を見せる小林先生でもあった。

海外探偵小説翻訳と工学研究との共通点

さて、小林先生のもうひとつの顔である探偵ミステリー小説の翻訳家としての活躍ぶりについても紹介しておこう。イギリスの探偵小説作家であるレオ・ブルース(Leo Bruce)の作品を中心に11冊もの翻訳本をすでに出版し(うち2冊は近日刊行予定)、ほかに全集や文庫本への解説執筆なども数多い。畑違いともいえるこの分野においても先生の名は知れ渡っている。

「探偵小説については中学生のころから好きでよく読んでいました。レオ・ブルースを知ったのは大学院生のときでした。非常に面白い作品なのに当時日本語に翻訳されているのは1冊しかありませんでした。それでほかの作品を原書で次々と読んでみたのですが、これがどれもこれも面白いんですね。だれも翻訳しないのなら私がやってやろうと思い立ったわけです」

そのようにして翻訳作品を同人誌に発表していたのが出版社の目にとまって単行本として出版された。文系専門家・教授による海外小説の翻訳出版は多いが、理系教授が翻訳している例は小林先生をおいてないのでは?

「わたしたち理系・工学系の研究スタイルというのは一種の謎解きのようなもので、探偵小説の構成によく似ています。どういう実験をしてどんなデータをそろえるか、これが証拠固めになります。それによって何が証明されるのか、つまりどう謎が解けたのかということですね」

「それと翻訳をしていますと英語に馴染むようになるのも意外な利点ですね。おかげで本業のほうの専門論文の読み書きにも抵抗がなくなりました(笑)」

連日朝5時半には起床して、出勤前の1時間ほどを翻訳作業の時間に充てているのだそうだ。何事にも地道な作業をコツコツと積み重ねて大きな成果につなげる。これこそが小林先生の真骨頂なのだろう。

こんな生徒に来てほしい

21世紀初頭のこの国は変化の激しい時代をまさに迎えています。こんなときに必要なのはどんな時代にも対応できる「真の能力」を磨くことです。そのためには基礎的な力をしっかり身に付けておくことですね。それには地道に学ぶしかありません。以前イギリスの地下鉄の宣伝ポスターに書かれていたスローガン――未来を予測することはできないが、未来に備えることはできる――このことばを受験生諸君にお贈りしましょう。結局、頼りになるのは自分だけ、自分のことは自分でやるしかないんです。こうしたことは社会に出れば嫌でもわかることですが、早めに認識した方がいいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。