早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京農工大学
大学院 共生科学技術研究院

朝倉 哲郎 教授

あさくら・てつお
1949年神奈川県生まれ。72年東京理科大学理学部第一部化学科卒。77年東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻博士課程修了。78年日本学術振興会奨励研究員。80年日本大学松戸歯学部理工学教室助手。81年東京農工大学工学部助教授。93年同教授。この間90年 米フロリダ州立大学化学科招聘教授。主な著作に『基礎高分子科学』(共著・東京化学同人)『バイオ新素材のはなし』(共著・日刊工業新聞社)『SOLID STATE NMR OF POLYMERS』(監修および分担執筆・オランダの出版社より刊行)などがある。高分子学会賞・繊維学会賞など受賞多数

ちなみに朝倉先生が主宰する研究室のWebアドレスはコチラ → http://www.tuat.ac.jp/~asakura/

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シルク由来の再生医療材料が続々と誕生

朝倉研究室のある12号館建物
東京農工大学小金井キャンパスの工学部正門

今回紹介する東京農工大学大学院共生科学技術研究院(学部は工学部生命工学科)の朝倉哲郎教授は、まさに本欄にピッタリの一生モノのプロフェッサーといえよう。朝倉先生の専門は「高分子構造解析学」「蚕糸昆虫利用学」「再生医療工学」。これらが素人から見ても実に将来有望な研究分野ばかりなのだ。

アイデアあふれる研究手法が次々と

朝倉研究室においての集合写真
実験室における朝倉先生と院生

「わたしの研究のキーワードは『シルク(絹)』と『NMR(核磁気共鳴)』です。要するに最新の分析手法であるNMRを用いてシルクの構造を徹底的に解析し、その成果をもとに新しいシルクを設計、それを実際に大腸菌を培養して作成し、新しい再生医療材料を創るといった一連の研究をしています」

インタビューの冒頭そう話す朝倉先生は他にもいくつかの研究の成果を見せてくれた。たとえば絹糸を溶かして水溶液からつくった目の角膜に使用するフィルム。これは透明度が高いうえに酸素を透過しやすい性質をもつ。あるいは極細の絹糸を編んで作った人工血管。これまでの人工血管は径4㎜以下では血栓が生じて詰まることが多かったが、絹製の血管では径1.5㎜まで血栓の生じないことが動物実験で証明されている。

さらには絹糸の溶液をもとに固化させてつくる絹スポンジ。これを元に耳軟骨細胞を培養して人工外耳および中耳の再生をする。このほか歯や骨の再生材料としても利用されるという。

「シルクは人体への影響が少なく、長年にわたって外科手術用の縫合糸として使われてきました。私どもが行なっている実験では全て絹の素材はスキャフォールド(足場材)として使われ、組織の再生が完了すると消滅するような新しいシルク材料の研究を進めています」

何ともすばらしい研究の数々。これらの実用化を一日千秋の思いで待つ国内外の人々も多いことだろう。

まず大事なのは「モノを創る」こと

朝倉先生が館長を務める「工学部附属繊維博物館」
繊維博物館内の展示物の前にて

また現在のシルクの再生医療材料への応用研究や実験は天然のシルクを加工して応用する方法が大半だが、細胞の接着性が十分でない等の問題点がなくもない。そこでシルクの分子構造そのものに手を加えて、再生医療用のスキャフォールドとして最適なシルクに改良する試みもなされている。そして、この研究分野において世界中でも他の追随を許さないトップランナーなのが朝倉先生その人なのだ。

いかにも朝倉先生は頭の柔らかなそうな印象の人だが、その考え方も非常に柔軟性に富んだアイデアマンそのものといえよう。

たとえば人工血管の素材はシルクを編んで創られているが、この編みの技術以外に、日本に古くから伝わる組みひもの手法を利用しようとしている。そのため、東京農工大の繊維博物館そして組みひも・シルクサークルの婦人たちの協力を得てシルクでいろいろな組み方を試みてもらい、人工血管に最適な組み方を生み出そうという意向だ。

また朝倉研究室の特徴として、大手繊維メーカーを定年退職した技術者数人が非常勤研究員として雇われていることがある。彼らは化学繊維製造の技術者だが、糸を紡ぎ出すことについては大学の研究者にはない長い経験からくる豊富なノウハウがある。その長い人生経験は若い大学院生や学生に多大な影響・啓発を与えるはずだという朝倉先生の考え方の反映でもある。

世界的な研究者にして国立大学の教授でありながら、朝倉先生はこうしたアイデアを肩ひじ張らずに軽やかに現実化していく。つねに笑みを絶やさず偉ぶるところなど微塵もない。

未知へのチャレンジが報われる一瞬

農工大名物(?)生協白石さんへの「ひとことカード」

そんな朝倉先生が学部で担当しているのは工学部生命工学科。この学科の特徴についても語ってもらおう。

「この生命工学科では、化学をベースにしつつ、高分子から生化学・分子生物学まで大変に広い範囲をカバーしています。また研究内容が多彩でみんな非常に魅力的で、海外を含む学外の研究者との共同研究はもとよりお互いの研究に興味をもった教官同士の共同研究が盛んに行なわれています。多彩で魅力的な研究テーマばかりですから、この学科に進んだ理科系志望の学生さんたちを失望させることはまずあり得ません(笑)。興味や関心を惹くテーマがきっと用意されているはずですよ」

その学部生たちが各教員の研究室入りするのは3年次の後期からとなる。それぞれの研究室の定員は5人程度だが、どの研究室入りをするのかは学生同士の話し合いで決められるのが暗黙の決まりらしい。朝倉研究室での研究内容については次のように語る。

「わたしの研究室ではまずモノを創ることを第1にやってもらいます。それは合成でもいいし、培養でもいい。とにかくモノを創ることを経験してもらいます。さらにそれをNMRで解析してもらいます。このモノ(材料)を創ることと、その解析(方法)については全員に身に付けてもらっています」

学生たちへの指導方針については――

「何といってもチャレンジ精神ですね。といっても、ただやみくもにチャレンジするのではなく、社会に役立つ方向性をもったチャレンジですね。とくに再生医療の世界ではコストの計算も重要になります。工学を学ぶということの2本柱は材料の解析とモノづくりですから、この2つをしっかり身に付けてもらいたい。そして研究者として独り立ちのできるように育ってもらいたいと思ってやっています」

最後に朝倉先生はこんな話もしてくれた。

「若いころ私は日本大学歯学部で助手として働きました。わずか1年足らずの短い期間でしたが、ここでの経験が再生医療研究への道を拓くことになり、その後の人生を決める貴重な経験となりました」

「そもそも研究というのは他の誰もやっていないテーマについていろいろな方向からトライして成果を出すことだと思います。研究成果が出るまでには様々な困難があるのが普通です。そうした困難にくじけずに継続する努力が大切で、まさに『継続は力なり』です。そして様々な方向からアプローチしてきたものが1本の筋としてつながったときの喜び、それこそ何ものにも替えがたいものがありますね」

そう話しながらも目を輝かせる朝倉先生。一生の師として仰ぐのに何ら不足のないエクセレント・プロフェッサーがここにもいた。

こんな生徒に来てほしい

わたし自身もそうでしたが、いろいろなことに興味をもっている若い人に期待したいですね。おのおの興味のあることを何らかのかたちで工学に結びつけてほしい。それを生かすための方法論については、この学科に来ていただければ詳しく指導してあげられるはずです。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。