早稲田塾
GOOD PROFESSOR

中央大学
理工学部 土木工学科

山田 正 教授

やまだ・ただし
1951年兵庫県生まれ。77年中央大学大学院理工学研究科博士課程土木工学専攻中退。77年東京工業大学工学部土木工学科助手。81年防衛大学校土木工学科講師。85年同助教授。86年北海道大学工学部土木工学科助教授。91年中央大学理工学部土木工学科助教授。92年より現職。主な著作に『水文・水資源ハンドブック』(分担執筆・朝倉書店)『豪雨・洪水災害の減災に向けて』(共著・技報堂出版)『石狩川治水の曙光――岡崎文吉―』(分担執筆・北海道開発局)などがある。土木学会論文賞(96年)はじめ受賞多数
なお山田先生が主宰する「中央大学水理研究室」のWebサイトはコチラ →http://www.civil.chuo-u.ac.jp/lab/suiri/index.html

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世の中で人々が困ることの全てが研究対象

山田研究室のある中大理工学部3号館
中央大学後楽園キャンパスの正門

とにかく豪快な先生らしい。自らの研究室に所属する学生や大学院生に向かって厳しい怒声を浴びせるのは日常茶飯事。そして、その興味の対象は専門の垣根を越えてどこまでも幅広い。いま専門としている分野を順に挙げてみるとまずは土木工学、そして防災工学・水工水理学・流体力学・気象学、さらに水文学(天文学にちょっと似ているようだが『水の諸現象』を研究する学問分野)にまで及ぶ。さらに、おびただしい数の政府委員や審議員・自治体委員も長年務める。中央大学理工学部土木工学科の山田正教授その人こそが今週ご紹介する一生モノのプロフェッサーだ。

そのなかでも本道のカテゴリーともいえる土木工学について概説を求めると、こんな意外な答えが返ってくる。

「あくまで私の個人的な定義ですが、『世の中で困っていることがあって誰もやり手のないもの』そういうような問題はすべて土木工学の扱う分野といえます」

禅問答とも聞こえてしまう言だが、もちろん山田先生は本気そのもの。そして日本における河川・水問題の第1人者であることは衆目の一致するところなのだ。そんな先生の現在は研究テーマについて次のように語る。

「個人的な興味としては、自然界の数理的構造を研究する――そのことに尽きます。そして、そうした研究過程で知り得た知見を社会に還元することですかね。具体的には洪水災害の対策であったり、水質問題であったり、河川水量の多寡問題、さらに都市の景観設計などにも最近は興味があったりします」

実際これらの研究作業は山田研究室において日々行なわれている。とくに都市の景観設計においては中国・四川省の成都市の景観デザインを任されて話題を呼んだ。水質問題から洪水対策、はては都市景観デザインまでとその守備範囲はとてつもなく広い。単なる土木工学研究者の域をとび抜けて、もはや伝説的な領域に入り込んでいるのかも知れない。

科学・工学の両面からのアプローチ

中央大学理工学部正門のプレート
研究室眼下に広がる「東京ドーム」等の景観

「そんな「知の巨人」山田先生は気象学にも通じる。世界各地で近年とみに頻発する異常気象のひとつとして局地的な集中豪雨があるが、これについては次のような見解だ。

「異常豪雨の原因にはいろいろあって、①地球温暖化と都市のヒートアイランド現象の相乗化②都市部の人口の集中化③河川の水路の不足などが考えられます。水の問題はその地独特の歴史や風土に密着していますから、外国の都市で成功したからといってその対策方法をそのまま日本の都市でやっても必ずうまくいくとは限りません」

治水・河川問題というのは古代文明の時代から一筋縄では解決しない人類にとって永遠の難問ということか。

「私たちのやっていることは、サイエンス(科学)としての興味とエンジニアリング(工学)としての使命の両面からの挑戦ということで、ある意味では大変に困難な仕事なんですね。しかし私は楽しみながら日々やっていますので滅多に疲れたりはしません。旅に出たときなども景観を眺めながらこれは次の仕事に生かせるのではないかなどとつい考えてしまうことが多くて、我ながら呆れるというのはありますけれど(笑)、基本的に疲れている暇などありませんよ」

そう豪快に笑う山田先生。この人の周囲には大人たいじんのオーラも漂うほどだ。

豪快にして緻密な山田式学生指導法

中央大学理工学部土木工学科の学生は3年次の1月から各教員の研究室に配属されて、翌年・4年次の卒業研究に備える。山田研究室では例年7~10人を受け入れるが、社会的にも面白い研究テーマがそろうだけに、数年前までは入ゼミ希望者が殺到して選抜に苦労したらしい。

ただ近年は山田研究室に入ると研究作業がとにかく超ハードで遊ぶ暇もなくなることが学生間の評判として定着(?)したせいか、現在は7~10人程度に落ち着いたとも。逆にいうと、現在の研究室メンバーは本気で取り組もうとする意欲的な精鋭たちということにもなる。

「この研究室に入ってまず初めにやってもらうことは私のスケジュール表づくりです。行政や企業との共同研究をはじめ膨大な数の研究と実験を日々していますので、スケジュール表をつくることで私の研究室でやっていることの全貌を理解してもらいます。まずは下働きからということですよ(笑)」

さらに日夜この研究室にはひっきりなしに電話と来客があり、その応対の仕方についても結果的にみっちり学ぶこととなる。冒頭において「豪快な先生」と評したが、とことん緻密な研究手法を練る山田先生はその学生指導においても万事怠りなどあろうはずもない。

また4年次学生の卒業研究のテーマ選定については、研究室で行なわれている研究・実験テーマから自分の興味のあるものを自由に選んで研究することとなる。

「ただ個人の卒業研究については学生のほうから相談に来ない限り私の方から積極的に教えたりはしません。もちろん相談にくれば懇切丁寧に指導してあげます。でも細部まですべて教えることは敢えてしません。学生自らが解く余地を残さないと、学生の力が伸びませんからね」

どうしたらその学生・院生の力が伸びていくのか? 1人ひとりの性格を見極めながら教えるようにもしているとも。これこそが、豪快さの中に繊細さを込めた山田先生独特の指導法なのであろう。

「自らのテーマ」を探す厳しさを知れ!

あらためて山田先生の中心的研究テーマとも位置付けられる土木工学を学ぶ意義についてお聞きしておこう。

「土木工学に限らずあらゆる学問分野が日進月歩で内容が深まっています。ここで学ぶ側として注意しないといけないのは、大学4年間で学べることなど大半は19世紀ごろまでの学問成果に過ぎないということです。20世紀ましてや21世紀になってからは新しい技術・理論など目覚ましい勢いで発展していますから、とても4年間で教えきれないのが世界中どこの大学でも実情なんです。その専門的な知識・技術を習得して社会に出てすぐに役立たせるためには、やはり大学院までを見据えて学ぶ姿勢が必要になるでしょうね」

理工系の学部学生の大学院進学傾向は実質的にすでに定着しつつあるとも語る。そしてインタビューの最後に、学問研究の道に新たに歩もうとする有意な高校生諸君に向けてのアドバイスも贈っていただいた。

「学生たちの多くから『先生の研究室では自分の好きな研究が自由にできるのですか?』などといった質問を受けることがあります。私としては『好きなことをすれば良いでしょう』などと答えるようにしていますが、しかし、学部学生の段階において何が問題で何をテーマにすれば良いのかを独力で発見できるのならそれこそ大したものなんです。そういう質問をしてくる学生ほど漠然とただ資料などを眺めていることも多い。実際には、きちんと意味のあるオリジナルな問題・テーマの発見ができたら、7割方その問題を解決したのも同然なのです。残念ながら、この国の理系教育の伝統として問題発見の仕方など教えられていませんから、今も昔もそれが一番の弱点になっていますね」

ただし中央大学理工学部・山田研究室に所属する若者たちには、こうしたニッポン的教育の「負の宿命」の克服に向けて心熱き師からの叱咤激励の日々が待つ。そうして徹底的に鍛えられ、一皮も二皮もむけた雄々しい姿となって次から次へと実社会に巣立っていく。

こんな生徒に来てほしい

自然現象の不思議さ・面白さに好奇心のある人。自ら学んだことを世のため人のために役立てたいと思っている人。このいずれかの人にぜひ来てほしい。世の中で困っていることは何でも土木工学の研究対象になりますから、その研究テーマは実質的に無数ということになります。土木工学に対する俗な固定観念に囚われずにどんどん扉を叩いてほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。