早稲田塾
GOOD PROFESSOR

明治薬科大学
製薬学科

高橋 邦夫 教授

高橋 邦夫(たかはし・くにお)
1970年北里大学薬学部卒。75年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。薬学博士。理化学研究所特別研究員を経て、76年から明治薬科大学薬学部講師。94年より現職。専門は生薬学。

  • mixiチェック

人類の遺産である生薬は医学発展の祖

テストのプレッシャーで胃が痛くなる、お腹を下す、勉強のしすぎで目が疲れる……。塾生のみなさんが日々感じるように、受験生をはじめストレスいっぱいの現代人が体調を維持していくのは、なかなか大変なことなのである。漢方薬のお世話になっている人も多いのではないだろうか? 今回のグッド・プロフェッサーは、誰もが一度は飲んだことのある「漢方薬」と、その素材などを研究する「生薬学(しょうやくがく)」が専門の明治薬科大学・高橋邦夫先生だ。

生薬とは植物や動物・鉱物など天然から得られるものを医薬原材料にしている薬のことで、いわゆる病院などで処方される薬(西洋薬)とは違う。 「なぜ私が生薬を研究しようと思ったかといえば、小さかったころ身体が弱かったのですよ。よく寝込んでいると、母が決まってネギを焼いたものを首に巻いてくれたり、庭に生えているドクダミを干してお茶にして飲ましてくれました。みなさんは知らないでしょうけれど、みんな昔の日本人はこうして身近にある植物を薬にして、つまり生薬として用いていたのですね。そんな小さいころの経験がもとで、生薬に興味を持ったのです」

漢方というと、身体にやさしく副作用が少ないようなイメージがある。

「そもそも生薬とは、数千年ほど前から中国をはじめヨーロッパ・インド・南米などで生活の知恵として用いられてきました。いま生薬と呼ばれているものは、この長い歴史のなかで人々が多種多様な植物に対して知恵を絞り、試行錯誤を繰り返しながら、人体に有効だと認めたものが残ってきたわけです。

とくに『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』という後漢時代に書かれたとされる古い中国の書物があるのですが、この中で生薬を上・中・下の3薬に分けています。上薬はいくら服用しても副作用がなく、体を元気にしてくれるもの、中薬は毒にも薬にもなるから使用法に注意すべきもの、下薬は効果が著しいので症状が治まったらただちに使用を止めるもの――などと分類されているのです。もちろん生薬といえども薬ですから、服用するにはきちんと処方する人のタイプを見極める必要があります。身体にやさしいというのは、上薬の人参に代表されるような生薬のイメージがあるからでしょうね」

いやはや漢方が数千年余りの歴史があるとは驚きであるが、それが現在も医療現場の第一線で活用されているのだ。

「いま私は、抗がん剤などの副作用による嘔吐を止める薬の研究をしているのですが、最初に行ったのは古典を紐解くことでした。そうしたら、嘔吐を抑えるという記述のある数十種の処方がありました。

そこでどのような生薬が使われ、その生薬のどの成分が吐き気を止めるのに有効なのか分析し、新しい薬が創れないかと実験するわけです。やみくもに無数の材料に当たっていくよりも、せっかく古人が残してくれた人類の遺産ですから、活用しない手はないと思っています」

未知の植物に新たな生薬資源を探す  高橋先生は古いものにばかり目を向けているわけではない。

「他に研究している分野の一つに菌類があります。それは古典でも研究されていない分野で、いまでも意外と研究者が少ないのです。しかし皆さんが食べているキノコっておいしいですよね。でも、中には毒キノコもあります。毒になるということは、体内で何らかの作用をしているということですから、生薬としての可能性も秘めていると思います。  

海洋生物についても同様で、地球の7割が海で、海洋生物は無限だというのに、材料を手に入れずらいせいからか、今までの研究は陸地のものばかりでした。陸生植物で生薬として研究されているものは、全体の1割にもなりません。残りの9割には、必ず新しい生薬資源があると信じています」

遠く中南米にサボテンを見に行ったり、ハワイの地衣植物を採りに行ったり、物静かで誠実な人柄と研究にかける情熱を慕ってくる学生は多い。

「私の卒論生は、全員違ったテーマで研究論文を書きます。グループにすると誰かがサボるからというのではなく、逆にそんな学生をつくるのが可哀想だからです。みんな3年生まで一所懸命頑張ってきているのですから。実習ではA+B=Cなどと結果がわかっているものを実験していましたが、研究では結果がわかりません。方向性はあっても結果がわからない、そういうものを一人ひとり、たとえスピードは遅くても、自分で考え、やり遂げる。これを実感として知っていれば、社会に出て全く異なる環境に身を置いても、やっていけると思うからです。結果が判らない分、学生たちは苦労してやっていますが、みんな明るいですよ」

薬剤師や病院だけでなく、企業や公官庁など製薬学科卒業後の学生たちの姿はさまざまだ。ただ一ついえることは、巣立ちの時まで伸び伸びと成長できるよう、見守ってくれる師がここにはいるということだ。

こんな生徒に来てほしい

やはり薬が好きで、興味がある人に来てほしいですね。「良薬は口に苦し」ということわざのように、薬という人の命に関わる学問だけに、勉強や実習は他学部に比べてかなり厳しいかもしれません。しかし、好きなら夢と探究心でもって突破できるはずです。壁の向こうには無限の可能性があるのですから。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。