{literal} {/literal}
GOOD PROFESSOR

東京薬科大学
生命科学部 分子生命科学科

柳 茂 教授

やなぎ・しげる
1964年兵庫県生まれ。92年福井医科大学卒。内科臨床医をへて92年福井医科大学助手。94年米エール大学医学部留学。95年神戸大学医学部(生化学第一講座)助手。00年同助教授。05年より現職。02~06年科学技術振興機構研究員(兼任)。04年日本生化学会奨励賞受賞
ちなみに柳先生が主宰する研究室のアドレスはコチラ → http://www.ls.toyaku.ac.jp/Life-Science/lmb-8/

  • mixiチェック

細胞内伝達機構の分子レベル研究の最先端

柳研究室のある東京薬科大学生命科学部研究棟
晩秋における東京薬科大学の正門

今週ご紹介する東京薬科大学生命科学部分子生命科学科の柳茂教授は、21世紀の分子生命科学分野を背負って立つホープとして嘱目されている若き世界的研究者だ。先生が在籍する生命科学部が東京薬大に誕生したのは今から13年前。この種の学部として日本初のパイオニアであった同学部の特徴から話してもらおう。

「それまでの生命科学分野というのは、大学の医学部をはじめ薬学部・理学部・理工学部・農学部などでそれぞれが独自に研究していました。そうしたアカデミズム各分野の垣根を取り払って、学際的に融合し共同で生命科学の研究をしていくのを目的に開設されたのが本学部ということになります」

医学部出身の第1号教授として東薬大生命科学部に迎えられたのが柳先生先生その人なのだ。若くして現在は「分子生化学教室」を主宰する。

「この教室(研究室)のスタッフのうち4名のうち医学部出身でMD(医者)なのは2名、残り2名は医学部大学院(大学院医学系研究科)の出身者でして、細胞のなかのシグナル伝達機構の研究をしています。分子のレベルでタンパク質や遺伝子が担う高度機能を明らかにする研究ですね。この分野では世界的レベルの最先端研究をしているという自負はあります」

その自信を裏付けるかのように、柳先生の研究には世界初の発見や同定といった功績がズラリと並ぶ。

「わたし自身の研究テーマとしては、まず『神経回路網形成のシグナル伝達機構の解明』があります。ヒトの身体が複雑な神経のネットワークで構成されていることは中学・高校でも習っていることと思います。つまり発生段階で神経細胞が軸索(神経細胞から発する長い突起でニューロンの構成要素のひとつ)を伸展させて他の神経とシナプス(神経細胞と神経細胞または他の細胞との接続接合部分)を形成してネットワーク化し、それらがヒトの高次機能の基盤になっています」

「こうした神経ネットワークがどのように形成されていくのかについての分子レベルの解明はほとんどがまだ今後の課題なのです。神経細胞の軸索の先端には外界からのシグナル(信号)を感知する『成長円錐』という器官があって、それがシナプスを形成する相手を探しながら成長し相手を見つけて結び合うのを繰り返してネットワークに組み上げていきます。そうしたメカニズムをさらに解明するのが主要な研究テーマとなります」

これらの研究過程において柳先生は、外界を感知する細胞のなかに「CRAM」というタンパク質が存在することを世界に先駆けて発見。そのCRAMが成長円錐の形成に必須の役割を果たしていることも解明した。さらに、このCRAMに結合するGTP結合タンパク質「CRAG」を世界で初めて同定したのも先生の手によるものなのだ。

そして、このCRAGの組成を変えることによって「神経変性疾患」に治療効果をもたらす可能性が出て来た。こうした世紀の解明が柳先生の研究によって次々となされつつある。

「神経変性疾患」難病への画期的治療法への可能性

東京薬大の八王子キャンパス全景
実験室における柳先生と学生たち

ここでの神経変性疾患とは、パーキンソン病やアルツハイマー型痴呆症・筋萎縮性側索硬化症などの疾患・症候群等を総称するもの。いずれも現代医療のあらゆる理論・技術をもってしても治療法が見つからないとされる難病だ。

柳先生のCRAG組成研究が実を結んで新治療法として実用化すれば、こうした神経変性疾患に苦しむ世界中の難病患者にとって一筋のまたとない光明となることだろう。しかしその研究内容については「まだ途上」とのことであり、また先生自身もまだ論文発表にまで至っていないので、これ以上の言及はできない。ただし動物実験では良好な結果が得られていることだけは付記しておこう。

このほか生体細胞のなかでエネルギーを生み出す細胞小器官・ミトコンドリアについての研究も柳先生のもうひとつの柱となるテーマだ。そして、ここでも世界初となる新タンパク質のいくつかを発見しているという。

これだけの世界最先端レベルの研究を次から次と我が物としながらも、それらを誇示するような雰囲気など柳先生の周りには全くない。むしろ実直で地味な感じがするくらいで、それだけ研究一筋の姿勢で立ち向かっている真摯な日々が窺える。

科学研究においては常に「世界初」が求められる

学部生が4年次に進級すると各教員の研究室の配属になって1年間の卒業研究に励む――こうした流れは東京薬科大学生命科学部でも同じだ。柳研究室では、例年定員いっぱい16人の学部生を受け入れる。ということは応募者は定員を毎年はるかに超えており、選抜によって16人に絞られているのだ。柳先生の人気の程もうかがい知れよう。

「研究室入りした学生には、まず各自の希望をじっくり聞くようにしています。そのうえで神経や免疫・ミトコンドリアなどの各研究グループに所属してもらいます。それで先輩院生の下について実験研究のトレーニングを積み、その中から卒業研究のテーマを各自見つけてもらうようにしています」

柳研究室では毎週1回メンバー全員参加のゼミを開く。もちろん学部生もそこで自らの研究内容や実験の進行状況の報告をする。その報告内容それ自体が大事なのは当然のことだが、むしろ柳先生としては大勢の人の前で論理的に説明する訓練の場として位置付けているとも。そうした学生・院生たちに対する指導方針については――

「とにかく実験をどんどん行なうことですね。くよくよ頭で考えているより手を動かして(笑)、研究や実験の面白さを知りなさいということ。それも自分で考えて計画・研究・実験をしまくって、いかに自分の思ったようには自然現象が全然ならないかを思い知る。そうした失敗の数々が後々生きてくるのです。そのためには時には白紙の状態で研究に入ることも必要ですね」

こうした学生指導の成果については柳先生自身として手ごたえも感じている。その証明のひとつとして、研究室メンバーの就職率は毎年100%にのぼり、それも大半の人がいわゆる大手製薬企業・研究機関等への就職を果たしているらしい。

なお東京薬大生命科学部では来年08年度から入学定員を60人増やす予定で、現在の2学科制から4コース制へと変更される。これら諸改革もこの学部への人気の高さに対する対応だという。

インタビューの最後に、分子生命科学・薬学のカテゴリーを超えて一般的に「科学すること」の意義について次のように語ってくれた。

「私たち科学研究者にとっては、自らの研究内容の独創性・オリジナリティーが何より重要となります。科学の世界において2番せんじは全く評価されません。ですから常にパイオニアをめざして研鑚していないといけないのです」

こう科学研究の日々の「厳しさ」を強調する柳先生。しかしその一方で、逆にその「厳しさ」を愉しんでいるようにも端からは感じられた。まさに一生モノの頼もしいプロフェッサーといえよう。

こんな生徒に来てほしい

何よりもまず研究そのもの(あるいは研究者という生き方)に対して憧れを持ってほしい。それに自ら世界初の発見・研究を成し遂げるという強い気概も必要です。アメリカでの留学経験でわたし自身感じたことですが、日本の若手研究者にありがちな画一的な発想や価値観にくらべ、彼の国の若者たちはそれぞれ「自分は自分である」というしっかりした考え方をもっているんですね。
多少とも見当違いでも構わないので、現役高校生諸君といえども、他人と自分との違いくらいは認識したうえで大学に入ってきてほしいですね。
※東京薬科大学生命科学部は08年度からの学制改革に伴い入試要項も変更になります。詳しくは同大学のURLにアクセスするか、同大学入試課(TEL0120-50-1089)まで問い合わせてください。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。