早稲田塾
GOOD PROFESSOR

千葉大学
法経学部 法学科

石井 徹哉 教授

いしい・てつや
1961年大阪生まれ。93年早稲田大学大学院法学研究科公法学専攻博士課程満期退学。日本学術振興会特別研究員・神奈川大学講師・法政大学講師をへて、02年奈良産業大学法学部助教授。04年千葉大学法経学部助教授。06年より現職。著作に『デジタル・フォレンジック事典』(分担執筆・日科技連出版社)などがある
石井先生が主宰するWebサイト「刑法の部屋」のアドレスはコチラ → http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ishii/

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21世紀的諸課題を前に模索し続ける刑法

石井研究室のある千葉大学法経学部棟
千葉大学の南口はJR西口徒歩2分の距離

高校時代にラグビー選手として鳴らしたというだけあって、千葉大学法経学部法学科の石井徹哉教授は立派な体躯を誇る。その石井先生が07年度の千葉大法経学部「ベストティーチャー」に選出された(同学部からの選出は1名)。この賞は順番で選ばれているだけで今年度たまたま私の番だったみたいなのです――そう謙遜するが、ラガーマン精神を遺憾なく発揮して学生たちと真っ正面から向き合っての熱血指導ぶりには定評のあるところ。今回の受賞もそうしたあたりが評価されたらしい。

そんな石井先生の専門は「刑法」で、現在2つのテーマについて研究中という。そのひとつが「刑法における主観的帰属の原理と構造」ということになる。

「ちょっと言葉で書くと難解そうですね(笑)。ある事件(刑事)が発生したとき、それが故意によるものなのか? そうでないのか? の判断が裁判における決定的な問題となる場合があります。もし故意であると判断したら、それを証拠で証明立てていく必要も出てきます。そこで、故意であると法律上認めるためにはどんな要件が求められるかについて研究するのが私の主要テーマのひとつなのです」

そのためには法学分野だけでなく、認知心理学や認知科学・言語哲学などの研究成果をも参考にして研究することになる。それだけにかなり厄介だが、逆にまた興味深く研究していても面白いとも語る。刑法学の世界でこのようなアプローチをとる研究者は少ないらしい。

情報セキュリティー法的規制のパイオニア

南口から正門に向かう桜とケヤキの並木
初冬を迎えた千葉大学建物群の全景

さらに、もうひとつの研究テーマとして「情報セキュリティーにかかわる刑事的規制」というものもある。

「世紀をまたいでの情報技術(IT)のすさまじい発達により、その安全性の問題が急浮上してきました。技術的な保護対策等については専門の技術者に考えてもらうとして、私たち法学研究者は法律でどう対応できるのか? あるいは法はどこまで踏み込めるのかを研究しなければなりません」

ビジネス書類にしても新聞・書籍にしても「情報」というのは昔からあった。コンピューターによる情報処理においても、フロッピーディスクやハードディスク・MO・CD・DVDなど物理的な記録媒体(メディア)に残しているだけの段階では、情報とメディアはずっと一体化していた。

「ですから10年ほど前まではメディアの扱いさえしっかり管理していれば、情報とそのセキュリティーを守ることが可能で、法的な規制も情報が記録された媒体を対象として行なえば足りたといえます。それがインターネットなど情報ネットワーク技術が汎用化する時代を迎えて、ネットそのものが記録媒体となってしまい、媒体がまるで「形のない記憶装置」のような仮想的存在となりました。とくにここ数年ほどはその傾向が顕著で、情報セキュリティーにおける法的な問題はますます難しくなっています」

情報セキュリティー規制の問題は今日的かつ緊急的な社会問題でもあるだけに法学研究者の関心も高く、この分野に参入してくる人も多くなってきた。草分けとして早くからこの研究に取り組んできた石井先生はそのリーダー的な立場で牽引役を務める。

少人数制の千葉大法学科で学ぶことの意義

歴史を感じさせる附属図書館の旧入口

つぎに石井先生の所属する千葉大学法経学部法学科の特徴について聞いてみよう。

「何といっても最大の特徴は1学年の学生定員が120人しかいないことです。おそらく全国の大学の法律学科としては一番少ないレベルの定員数のはずです。そのため教員の側から学生1人ひとりの顔がよく見えるのがいいですね。また、ここは法経学部ということで、法律関連の諸科目はもちろん経済学科の科目も履修することができます。これなど他大法学部等ではあまり例のない特徴でしょう」

このほか千葉大法学科のカリキュラムにおいては「法学・政治学」「経済学・政策学併習」の2コース制、年度を前・後期に分けた「セメスター制」や「GPA(科目成績平均値)」制なども採用している。また1年次から4年次までの学部生を対象にしたゼミ演習が用意されているのも大きな特徴だろう。このあたり石井先生から説明をお願いすると、

「まず1年次学生を対象にした『基礎(導入)ゼミ』というのがありまして、ここで刑法と民法の総論や憲法の人権論を必修で学びます。法学の入門的なことを集中的に学ぶのと同時に、大学に入ったばかりで友人をつくってもらうという目的も意識しています」

「さらに2年次になると希望者を対象にした法律の必修科目(刑法総論・民法総論・人権論)についてそれぞれ『復習ゼミ』が用意されています。復習と称していても、刑法についていえば1年次に学んだ刑法総論の内容からさらに一歩踏み込んだ内容を学ぶことになります」

法律もとに自らの表現で相手を説得していく

さらに3・4年次学生を対象にした通常の「石井ゼミ」の開講は前期だけの決まりだが、ここのところ学生たちの希望もあって通年で教えている。こうして学生のために労を惜しまないあたりも「ベストティーチャー」評価の対象になったに違いない。

「これは3・4年次の合同で開いているもので、両学年合わせてゼミ生10人前後で行なっています。そのうち前期は最近の判例研究で、後期は私のほうから事例をつくって全員で考えていくという方式です。とくに後期については、担当する当番とか輪番制を止めて、その場で担当者を指名して進行してもらうスタイルにしています。その日のテーマは事前に与えていますが、各ゼミ生たちは毎回真剣に予習して来なければならないので大変なようですね(笑)」

考えてみればこれほど身につく指導法もない。また裁判法廷や刑務所・少年刑務所等への実地見学も随時行なうようにしているとも。自分たちが学ぶ法律学の先に裁判や刑務所の現場につながっていることを観念的には理解していても、その実際を見るとゼミ生たちは一様に衝撃を受けて粛然となるという。

こうした日々の指導で心掛けることについては次のように語る。

「基本的には自分で物事を考えられる能力を身につけて欲しいということに尽きます。法の専門家として法律を扱うということは、いかに法によって相手を説得するかということに帰着します。そのとき根拠となる法律の条文だけを繰り返しているだけでは相手は納得しません。条文や判例等を自分なりに消化し自らの表現で相手を説得していくことの大切さ――日ごろから学生にはそれを強調しています」

最後に現役高校生諸君にこんな寸言も贈っていただいた。これは法学の世界だけでなく、生涯を通じて一般にも通じる真理であろう。

「みなさんが高校までに求められてきた暗記学習というのは受験勉強レベルの話であって、本当の意味における真の知識とはいえません。知識とは、自分なりに自由に使えて社会に役立つようになって初めて知識といえるのです」

こんな生徒に来てほしい

わたしは他の私立大でも教える機会をもちますが、それに比べても千葉大の法学科の学生は真面目でおとなしい人が多いですね。本音をいえば、もっと元気のある人にも来てほしい(笑)。学問・事実に対する誠実さはもちろん大切ですが、さらに若者らしく元気で積極性のある人だとより大歓迎ですね。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。