
早稲田大学
基幹理工学部 情報理工学科
小松 尚久 教授
こまつ・なおひさ
1956年東京生まれ。81年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程(電子通信専攻)修了。81年日本電信電話公社(現NTT)入社。89年早稲田大学理工学部講師。91年同助教授。96年同教授。07年基幹理工学部教務主任。ほかに日本規格協会バイオメトリクス標準化調査研究委員会委員長・日本バイオメトリクス認証協議会(JBAA)会長など各種委員を歴任。主な著作に『IT Text情報セキュリティ』(共著・情報処理学会)『情報セキュリティ』(共著・昭晃堂)『電子透かし技術』(監修・東京電機大学出版局)などがある。画像電子学会論文賞などの受賞も多数
ちなみに小松先生が主宰する研究室のWebサイトのアドレスはコチラ → http://www.kom.comm.waseda.ac.jp/
世界標準を見据えたIT情報理工学


今年2007年4月から伝統ある「理工学部」(1学部13学科)を3学部(学部)17学科に改組・再編することになった早稲田大学のゆくえに注目が集まっている。今回の一大改編に理工学部教務主任として携わった小松尚久教授はその主な目的と内容についてこう語る。
「ここ大久保キャンパスにおいて早稲田大学はいわゆる理学と工学の2つを理工学部としてやって参りました。しかし近年の理工学分野の発展の速度にはインターネットIT分野などを中心に目を見張るべきものが多々あり、もはや『理工学部』というひとつの枠では収まり切れない部分も出てきました」
なにせ学部生・大学院生合わせて約1万人というマンモス学部に大成長した私大屈指の理系ブランド「理工学部」。その内訳は13学科・14専攻・1複合領域コースというもので、その教員スタッフも250人近い大所帯に膨れ上がっていた。
「何事においても組織が大きくなり過ぎますとフットワークが悪くなりがちになります。そこで研究領域の近いグループごとに大きく3つに分割して、小回りのきく新体制にしようというのが今回の理工学部改革の目的なのです」
早稲田「新理工3学部」改編のねらい


新たに誕生する「理工3学部」の構成は「基幹理工学部」「創造理工学部」「先進理工学部」からなる。
これら3学部の特徴としては、「基幹理工学部」が科学技術の基幹を担う数理科学・情報科学・機械科学・材料科学・電子光科学・表現科学、「創造理工学部」が人間・生活・環境をキーワードとする科学技術の観点からの社会諸問題へのアプローチ、「先進理工学部」が自然科学を基礎に生命科学やナノテクノロジーといった先端的な学問領域――という各研究カテゴリーを新たに扱うこととなる。
「理系志望の高校生の皆さんの立場からすれば、理工系の学問領域の枠組みがスッキリとなったはずです。これで進学先の学部・学科を決めるのが多少とも分かりやすくなったのではないでしょうか」
さらに基幹理工学部では学部一括入試を採用している。入学後の1年間で専門分野の内容と自分の適性を知ってから、2年進学時に希望学科を決める。このように、これまで以上に受験生に優しくなった早稲田大学新理工3学部――という印象を受ける。ちなみに小松先生は基幹理工学部情報理工学科の所属となる。
個人認証・情報ネット研究のパイオニア

小松先生が現在おもに研究しているテーマは、①個人認証を中心としたセキュリティ技術②情報ネットワークシステムの品質(安全性・信頼性)についての2本柱が中心となる。そのうち個人認証システムについては、指紋・静脈のパターンや目(虹彩)・声などで本人確認をする生体認証(バイオメトリック認証)の研究の権威とされる。この分野の発達は目覚ましく、その実用化も急テンポで進む。
「新しいITネットシステムを実用化するにあたって一番問題になるのはセキュリティの問題となります。生体認証に関しては生体の情報の保護対策が重要な課題のひとつであり、その課題を解決するためにはどういうシステムにすれば良いのか? また使用する人に安心感を与えるためにはどのような方法が有効なのか――などに関連した課題がわたしの研究テーマということになります」
こうした個人認証・セキュリティ技術の研究においては国際的に研究組織などと連携していることが重要となる。たとえば世界標準の策定に貢献しながらも、独自の研究開発に勤しむことが大切となる。そうした研究環境ではこの分野の世界的権威と伍して技術開発をする努力が必要であり、まさにその位置に小松先生はいる。
また一方の情報ネットワークの研究についても、小松先生の視点はシステム自体の安全性・信頼性に重きを置く。
「この情報ネットの機能も日々進歩しています。そうして高度化したネットワークサービスを受けるユーザーがいかに安全に安心して利用できるシステム環境に整えるかという研究を私たちはしています。ここでも研究の中心になるのは、本人であることをどのように確認するのが社会的・国際的に有効かということです」
ちょっと話は変わるが、今回の取材にあたって、門下漢の筆者が訪ねる前から取材に必要な資料をすべて小松先生は用意してくれていた。そのパイオニア的研究での手法や意義はもちろんだが、何に対しても実直かつ誠実な人柄が伝わってくる。
好奇心を保ち続けられるかどうかが決め手
さて小松研究室に所属しているメンバーは例年30人ほどとなる。その内訳は大学院の博士課程履修者が2~3人、同修士課程が14~16人、学部4年生が10人前後という。学部4年生の研究室での活動スケジュールについて小松先生はこう語る。
「4月の新学期に研究室入りした学部生たちは、まずこの研究室で研究している技術の理解とプログラミング、それに英文技術書の文献講読を1ヵ月ほどかけて学習してもらいます。それから各自の卒業研究のテーマを決めていきます。研究室内にいくつかある大学院生の研究グループに所属して、その中でそれぞれの研究テーマを決めていくのが一般的となります」
自らのテーマが決まった学部生はそれぞれグループ院生の指導を受けながら研究を進めていく。そしてゼミ形式の授業において各研究の進行状況を発表し、小松先生らの意見を入れながら卒業研究にまとめていくことになる。そんな学生指導で心掛けていることについては――
「結果的にうまくいったとか失敗したが問題ではなく、その研究テーマへのアプローチ方法が問題になります。うまくいかなかった場合なぜそのアプローチでは円滑にいかなかったのかを考えることが重要なのです。そこで悩みながら別のアプローチを探して少しずつ前進してほしいと思って指導しています」
さらに小松先生はこの研究分野をめざす若き学究が心掛けるべきことについてアドバイスをしてくれた。
「研究にアプローチするうえで決め手となるのは強い好奇心を保てるかどうかです。つねに好奇心をもって考えていますと、重要な事柄を見逃すことなどまずあり得ません。そうした問題意識をもち続けられることで今の研究の先端そして自身の位置がどの辺りにあるのかも分かってきます。最前線を知らないと、どの方向に向かって研究すればいいのかも分からないことになりますからね」
こんな生徒に来てほしい
何に対しても興味をもつ若い人が私にとっては魅力的です。そして興味を感じたら、そのことについて自分でどんどん調べる習慣をつけてほしい。それと同時にスポーツなどを通して元気よく明るくいろいろな人と交わることも若き日には大切なのです。
ちょっとだけ最後に苦言を言わせていただきますと、昨今の学生諸君を見ていますと、もう少し読書する習慣をつけた方がいいと思いますね。理工系だから文章力など必要ない等というのはとんでもない間違いです。理工系だからこそ研究者とともに一般の方々にも分かりやすい文章力・説明力が必要なのだと知るべきです。
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