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GOOD PROFESSOR

東京外国語大学
外国語学部 日本課程

望月 圭子 教授

もちづき・けいこ
1959年大阪生まれ。86年東京外国語大学大学院外国語研究科(中国語専攻)修士課程修了。88年中国復旦大学中国語言研究所高級進修課程修了。04年台湾國立清華大學言語學研究所博士課程修了。89年東京外国語大学外国語学部日本語学科助手。93年同専任講師・97年同助教授をへて03年より現職。著作に『一冊目の日本語』(東洋書店)『日本語と中国語の自動詞・他動詞』(近刊予定・出版社未定)がある。
望月先生が主宰する「望月圭子研究室」のWebアドレスはコチラ → http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/mkeiko/

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東京外大「日本課程」で学ぶ意義

望月研究室のある「研究講義」棟
ゆとりのある東京外大キャンパス全景

東京外国語大学は、外国語学部を中心として「大学院地域研究科」「アジアアフリカ研究所」「留学生日本語教育センター」を擁する外国学研究の唯一の国立大学。その外国語学部の構成は7課程26専攻を誇る。つまり26もの世界中の言語文化研究が可能なカリキュラムが完備されているのだが、そのひとつに「日本課程・日本語専攻」というちょっと不思議な専攻があることを君は知っているだろうか? 外国語学部でなぜ日本語専攻なのか? そのあたりから同課程教授の望月圭子先生に説明してもらおう。



「本学には『留学生日本語教育センター』という世界における日本語教育のリーダー的な機関があります。東京外大の大きな特色のひとつは、日本語教育の世界でリーダー的な地位にあることです。外国語学部日本課程は、こうした環境のなかで1学年に留学生30人・日本人学生15人の計45人が日本語学・日本文化・日本事情などを多角的な視点から共に学ぶ国際的な課程です。そのうち留学生については高度な日本語能力・英語力・思考能力を要求する独自の入学試験を実施しています。日本人学生については、多角的な視点から日本語・日本文化・日本事情をとらえる高度な能力を備え、国際社会で日本学を発信し活躍できる人材の育成を目的にしています」



日本語を母語とする日本人学生にとって「日本課程」など与しやすいなどと一見おもえそうだが、実はこのハードルが意外に低くない。まず1~2年次にわたりアラビア語と朝鮮語(韓国語)の履修が必修となる。アラビア文字やハングル文字の学習においては、非漢字圏の日本語学習者が漢字を学ぶ心理プロセスを実感することができる。このほか副専攻語として英語の授業も多い。日本語学と日本語教育・日本文化・日本事情の必修の授業では日本人学生と留学生が共に学ぶ。



もちろん1科目でも落第すると進級できない。とてもじゃないが生半可な興味本位な動機など許されない濃密なカリキュラムが待ち構えているのだ。

日本語・中国語・英語との対照研究学とは

1階には学生食堂が入る「大学会館」
冬枯れの東外大キャンパス内の雑木林

さて望月先生自身の専門は言語学・中国語学・日本語教育だという。現在研究しているテーマは「日本語・英語・中国語との対照言語学」ということになる。



「この3つの言語のそれぞれの文法における普遍性と個別性について研究しています。一見するとこれら日中英の3言語に共通するものなどないように思われるかも知れません。しかし、人間の赤ちゃんが短期間のあいだに一様に母語の習得ができるからには人間言語としての普遍的な体系があるはずです。一方で、言語間にはある一定の範囲のなかでの相違もあり、その相違が言語の個別性ということになります」



じつは日英語の対照研究事例は多いのだが、日本語・中国語・英語の3言語に焦点を当てた対照研究となるとかなり珍しい。また、この3言語の対照研究は日本語教育・英語教育・中国語教育への応用も試みられている。たとえばグローバルCOEプログラム「コーパスに基づく言語学教育研究拠点」プロジェクトにおいては、イギリス・中国・台湾の交流協定大学と協力して、英語・中国語のネイティブ(母語話者)による日本語誤用コーパス(言語資源)の収集やデータ分析がなされ、言語教育への応用が目指される。



ところで学部における望月先生の講義のひとつに「日本語教育学研究Ⅱ」がある。これは先の日・中・英語の対照言語学について講義するものだ。



「春学期については日本語で、秋学期については日本語が分からない交換留学生にも講義を開放するため英語で講義しています。わたしの講義にはすべての専攻語の学部生(日本人学生・留学生)だけではなく、イギリスやアメリカ・オーストラリア・カナダ・ロシア・ドイツ・フランス・イタリア・スペイン・チェコ・韓国・台湾・香港などのトップ大学からの交換留学生や市民聴講生(主にベテラン日本語教師の方)なども履修・聴講していて、10代から70代の方まで幅広い年齢層の受講生がいます。こうした受講する側の国際的多様性と学びたいという熱気は教える側にも大いに知的刺激となります」

「先日の講義でも、チェコ・カレル大学日本語学科からの交換留学生が、2年の日本語学習歴にもかかわらず「授受表現」(英語の『give』という動詞は『あげる』『くれる』『さしあげる』『やる』『くださる』という日本語の5動詞に対応。こうした用法は日本語教育上大きな学習困難点となる)のミニテストの答えをスラスラと完璧に黒板に書いてくれました。マイクを渡して自己紹介してもらうと、黒澤明映画を観て日本に魅了されてカレル大学日本語学科に入り、日本語を一所懸命勉強していると話してくれました。こういうシーンなどは日本人学生にとっても大きな刺激になるでしょうね」

真の国際性に目覚める一生モノのゼミ体験

東京外大のゼミ演習は3年次から始まる。望月ゼミにおいては主に日本語・中国語・英語専攻の学生が多いが、東外大の他ゼミと同様すべての専攻語から履修可能で、毎年10人前後のゼミ生を受け入れている。ただ同ゼミの特色として、3・4年次の学部生以外にも、先輩の大学院生や外国人研究生(大学院入学をめざして学ぶ国費留学生)・外国人研究者も多い。さらに東京外大の公式Webサイトで望月ゼミを知ってぜひ参加したいという全くのゲストまでもが参加している。



「学部の講義と同じように私のゼミでは、いろいろな背景や国籍をもった方々が集まって、そうした人たちと一体となって言語研究に取り組んでいます。ゼミ全体の統一的な研究テーマは、日中英3言語の文法の対照研究と言語教育への運用です。対照研究は、それぞれの言語のネイティブ同士がペアを組んで行ないます。たとえば日中語の対照研究でしたら、日・中国語それぞれのネイティブの学生たちがペアを組むというように。中英・日英についても同様で、こうしたチームワークの良さが私のゼミの大きな特徴になっています」



外国人のほうが圧倒的に多いというこの望月ゼミの国際的な雰囲気は、東京外大にしても珍しいことらしい。また望月先生は英リーズ大学と台湾大学との交流担当でもあり、ゼミ生たちの中には両大学からの交換留学生たちのチューター(生活上のお世話と日本語のサポートをする学生)役も務める人もいる。まさに一生モノのゼミ体験によって人生観すら変えてしまう日本人学生も毎年いるらしい。



「日常的に留学生に接するなかで、異文化を尊重しつつも人間としての個人対個人の関係や感情などは大して変わりがないこともぜひ体感してもらいたいですね。また東京外大は世界各地域のトップ大学65校と交換留学制度があるので、こうした留学も海外の高い知性と交流する意味でもお勧めです。国際社会でリーダーとして活躍するためには若き日のこうした経験が糧となります」



これは東京外大・日本課程で学ぼうとする日本人学生への大いなる期待でもあろう。望月先生の周りには淑やかな雰囲気も漂うが、そうした優美さのなかに確固たる信念と強い意志を潜ませているように初対面ながらお見受けした。

ゼミ学生の運営による「リンガハウス」とは

望月先生が顧問を務める「リンガハウス」
ゼミ生たちと一緒にリンガハウスにて

そもそも望月先生が中国語や言語の研究を始めたのは父親の影響が大きい。



ご尊父である故望月八十吉・大阪市立大学名誉教授も東京外大中国語学科の卒業生で、戦後の日本における中国語教育と中国語学研究に一生をささげ、『中国語学習のポイント』(光生館)『中国語と日本語』(光生館)『現代中国語の諸問題』(好文出版)『中国語常用虚詞辞典』(江南書院)『現代日中辞典』(光生館)等の著作を残し、NHK教育テレビ「中国語講座」の初代講師(64年より70年まで)をも務めた。大学退官後は母校・東京外大近くに風水住宅の自宅を構え、リンガハウス(Lingua House、ことばの館の意)と命名。書斎カフェ・文化サロン・教室としてその1階部分を地域社会に開放し、自らも中国語を教え続けた。しかし07年きしくもリンガハウス5周年の記念日の朝に逝去。その運営は、後輩にあたる望月ゼミの大学院生が中心となって東京農工大・東京学芸大の学生とともに引き継がれている。



「イギリスやアメリカ・カナダ・シンガポールからの留学生が英会話を教え、パリからの大学院生がフランス語を、台湾からの大学院生が中国語を教えています。また日本語教育専攻の大学院生は近所のアメリカンスクールの子どもや父兄に日本語を教えたり、中高生のための作文道場講座を開いたりしています。英語専攻の学生たちは英検講座を開いたり、中高一貫私立学校で使われているプログレス英語の指導をしたり、通訳・翻訳講座や通訳コンテストを企画したりと、東外大のマンパワーを最大現に生かした教育・文化活動を行なっています。わたしはボランティア顧問として言語教育上のアドバイスをしています」

「また国際交流フェアと称して、東外大の留学生支援の会のチャリティーのために韓国人留学生とイギリス人留学生が韓国・イギリスフェアを主催したこともあります。また私は、海外の大学からのお客様も多いのでリンガハウスで歓迎会を開くことも年に数回あります。こうした個人的なもてなしがキッカケで国際シンポジウムや共同研究へと発展することもあります。リンガハウスに来られた海外のお客様からはよく『impressive…』(感銘を受けた)とおっしゃって頂いております。月に1回、ゼミOBたちと有志で言語学の勉強会もリンガハウスで開いていますが、ときどき東外大で招聘した著名な言語学者が飛び入り講師になって下さることもあります」



このリンガハウスには東外大の先輩スタッフもいて、カフェスペースとして一般にも開放されている(http://www.lingua-house.jp/)。東京外大への進学をめざす高校生諸君は一度訪ねてみてはどうだろう。

こんな生徒に来てほしい

英語だけでなく、日本語もきちんとできて思考能力が高い学生さんに来てほしいですね。東外大を卒業して社会に出ますと「言語の専門家」として英語力のみならず高度な日本語力が当然のごとく期待されます。そして、できれば中国語も副専攻語で履修してほしい。これからは中国語ができるというのは職業人として必要なことになるでしょう。東アジア漢字文化圏の一員として中国語を知るということは、自らのアイデンティティ(帰属意識)を知ることにもつながり、ますます必要な教養となると思います。そして異文化へのしなやかな寛容さと「日本力」をしっかり身につけて、世界に「日本」を発信していくことに興味をもつ人に来ていただきたいですね。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。