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GOOD PROFESSOR

電気通信大学
電気通信学部 情報通信工学科

太田 和夫 教授

おおた・かずお
1954年東京生まれ。79年早稲田大学大学院理工学研究科数学専攻修士課程修了。79年日本電信電話公社(現NTT)入社。横須賀電気通信研究所勤務。特別研究員・主幹研究員などをへて01年退職。この間91~92年米MIT客員研究員。95~98年電気通信大学大学院情報システム学研究科客員教授。99年米MIT客員教授。01年より現職。主な著作に『ほんとうに安全? 現代の暗号』(岩波書店)『情報セキュリティの科学――マジックプロトコルへの招待』(講談社・前著とともに共著)『暗号理論』(共訳・岩波書店)などがある。
ちなみに「太田・國廣 研究室」のWebアドレスはコチラ → http://www.oslab.ice.uec.ac.jp/

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暗号理論ネット研究のパイオニア

太田研究室のある電通大総合研究棟
総合研究棟1~3Fは「附属図書館」

電気通信大学電気通信学部情報通信工学科の太田和夫教授は「情報セキュリティー」の専門的研究で知られる。日本電信電話公社(現NTT)の研究所が暗号理論によるインターネットの情報セキュリティーの研究プロジェクトをスタートさせたのは1983年。先生はその創立メンバーで、この分野の草分けにしてエキスパートなのだ。

「インターネットにおける情報セキュリティー問題をめぐってはいろいろなシステムごとにテーマや論点がありますが、私のばあい暗号理論に特化して研究してきました。暗号理論とはどんなものかと言いますと、他人に見られては困る情報を隠して見られないようにしたり、情報を受信した相手が当人であるかの本人確認ができたり、さらに受信した相手に改竄されていない正しい情報が伝わるようにする方法の研究を指します」

こうした目的を達成するアプリケーションやツールの開発もそうだが、それらを運用することによる安全性の確度についての証明も研究のテーマに含まれる。むしろ数理学者としてはそちらの方に知的好奇心がそそられると言って笑う先生でもある。

では、その暗号理論による情報セキュリティーの安全性はどのように証明されるのか? このあたり太田先生はこう説明する。

「暗号を解読することが、非常に難易度の高い数学の問題、たとえば素因数分解を解くのと同じくらい難しいことが証明できればいいわけです。つまり500桁の大きな合成数を2つの250桁の素数の積に分解するようなことですね。これを解くのは容易なことではなく、実際には現代の人類には事実上解けない代物です。それをもって、この暗号方式を破れる人はこの世に存在しないことが証明されるわけです」

インターネット上を流れる機密情報は国家レベルのものから個人レベルのものまで膨大な数にのぼる。そして、その解読を試みようというハッカーなど「悪意ある第三者」などの存在もある。そうした「見えない敵」を相手にこの分野の第一人者として研究に励む日々なのだ。

成果が見えやすく暗号理論研究は面白い

かなり派手な大学ロゴ看板が目をひく
冬枯れの電通大調布キャンパス全景

そんな太田先生は電気通信学部情報通信工学科に所属する。同学科の特徴についてはこう語る。

「ハードウエアとソフトウエアの両面についてのネットワークやコンピューターについてバランスよく学べること。それが本学科の大きな特徴になります。わたしの研究分野はソフトウエアに属しますが、研究室に入ってくる学生はそれまでに情報工学や通信工学・電子工学などを幅広く学んできますので、単にソフトウエア理論や技術だけを学んできたというような学生とはちょっと違うと思いますね」

そして暗号理論の分野の研究に向いているのは数学(とくに幾何)が得意な人だろうとも。

「情報セキュリティーというのは数学的なところの割合が多い分野なのです。高校生諸君で数学(なかでも幾何学)の証明問題を解くのが得意だという人は暗号理論を研究する適性があるといえます。さらにいえば理論と現実とが非常に近い分野ですから、すぐに成果が見えてきて研究していてとにかく面白いですよ(笑)」

電通大の情報通信工学科の学部生が卒業研究のために研究室入りするのは3年次の3月からとなる。太田先生の研究室の受け入れ学生は例年10人程度とやや多いが、これは准教授との共同研究室になっているためだ。

「わたしの研究室に入った学生たちには、まず直近の学会で発表された約300点の論文集を渡します。そして春休み中にその中から自分が面白いと思うものを見つけ出し、4年次の新学期に発表してもらいます。それを発展させたものが各自の卒論のテーマになるわけです。まず自ら興味をもった論文を完全に理解するまで精読してもらい、そのうえでその論文の内容をさらに発展させるテーマ、問題点があればその解決法、さらに機能を拡張するのであればどんな機能を付加させるのかなどについて研究していくことになります」

「じつは初めこんな方法では乱暴すぎて卒研になど結びつかないかも知れないという危惧感もありました。ところが学生自身が興味をもったテーマですので、不明なところがあれば自分で調べるし、研究方法もいろいろな角度から試みるなど非常に積極的な姿勢となるのですね。我ながら名案だったと思いますね(笑)」

21世紀に求められる「技術者像」とは

入門書として定評ある訳書『暗号理論』は08年春の慶応義塾大学商学部試験にも取り上げられた

当然のごとく研究室の人気も高い。ただ太田先生のとにかく厳しい指導ぶりが学内に知れ渡ってきたこともあり、最近は研究室入りを希望する学生の数はほぼ固定化されてきているそうだ。逆にいうと、いま研究室入りをしてくる学生たちはその厳しさを承知のうえで入ってくる気骨のあるメンバーでもある。その関門を超えた先この研究室で得るものが、それこそ一生モノの価値があることを予感しているからでもあろう。

じつは研究所勤務時代に新入社員の採用や育成を担当したこともあり、世の大企業が求める人材について太田先生はよく熟知している。あらためて学生指導の方針については次のようにも語る。

「21世紀のいま企業が求める技術者というのは、正解のない問題を自ら設定して正答に近い結論を導き出せるような人なのですね。いわば卒研はそのミニチュア版ということになります。それまでのカリキュラムを真面目にこなしていれば自然に答えにたどり着くというようなレベルの学習とは違うということです。ですから私の研究室では卒研を非常に重視しています。それにコミュニケーション能力ですね。相手にいかに説明して正確に伝えるか、その技術を磨いてほしいと思って常に指導しています」

インタビューの締めくくりに太田先生はこんな話も披露してくれた。

「現役高校生・受験生諸君が大学進学するにあたって学部あるいは学科を選択して決めるときは、やはり自分が興味や関心のもてる科目や教科から選ぶのがいいと思います。○×学部の就職率がいいからというような理由で選ぶような傾向もあるようですが、そんな間に合わせの選び方はして欲しくないですね。世の中がこれだけ目まぐるしく変化しているなかで、大学を卒業する4年後(あるいは大学院修士課程を修了する6年後)にどう変化しているのか誰も予測などつきません。ですから心の底から自ら興味と関心のもてる分野に進んだほうが間違いないし後悔しないと思いますよ」

こんな生徒に来てほしい

好奇心の旺盛な人、自分ならではの興味の対象をもち続けている人。そうした学生こそが私の望む人ですね。高校までは敷かれたレールの上を走っていれば良かったわけですが、大学に入ってからは自分で興味をもって自分で考え自分で動いて走らないと前には進めません。自立的・自律的な大人であるという前提のうえで大学では全てが始まります。なかでも卒業研究ではそれが厳しく問われます。高校生の段階でこれらがすべて完成していなくてもいいとは思います。ただ、そう心掛けて覚悟のある若人にこそ期待します。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。