早稲田塾
GOOD PROFESSOR

成蹊大学
文学部 国際文化学科

堀内 正樹 教授

ほりうち・まさき
1952年長野県生まれ。76年東京外国語大学アラビア語学科卒。88年東京都立大学(現首都大学東京)大学院社会科学研究科社会人類学専攻博士課程満期退学。91年二松学舎大学文学部専任講師。95年広島市立大学国際学部助教授。98年同教授。02年より現職。主な著作に『世界の砂漠』(二宮書店)『中東』(明石書店)『国際文化研究の現在 境界・他者・アイデンティティ』(成蹊大学文学部国際文化学科編・柏書房)などがある(著作はいずれも共著)。
ちなみに先生が主催するWebサイトのアドレスはコチラ → http://www.fh.seikei.ac.jp/~horiuchi/labas/index.html

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文化人類学の視点からイスラムの秘密に迫る

堀内研究室のある10号館「研究室棟」
成蹊大学正門の校名ロゴプレート

いま成蹊大学文学部の教壇に立つ堀内正樹教授が東京外大に入学したのは1970年。当時まだ大学紛争・全共闘学生運動の余波が全国的にくすぶっていたころで、入学早々半年間もの休校措置がとられた。ここで筆者をふくめ凡庸な小人だと「ラッキー!」とばかりに無為な日々として遊び呆けてしまいがちなところだが、若き日の堀内先生はまったく違った。ハードなアルバイトで旅費をつくった先生は、一念発起して初めての海外への旅に出る。

いまでこそ学生の海外渡航など珍しくもないと思うかもしれないが、円の価値の低い当時の事情はまったく違う。いったん海路でソビエト連邦(現ロシア)に渡り、そのあと陸路でシベリア大陸を横断し、次いで東ヨーロッパを通ってエジプトから中東諸国、さらにインド・ネパール・東南アジアの国々を経て帰国するという壮大な旅程となった。

「19歳で初めて日本を脱出して世界のいろいろな国々や人々を見て回って、それこそ一生モノの貧乏旅行体験ともなりました(笑)。こんなにも違う言語・違う文化・違う宗教をもって地球上では多様な人種・民族の人々が暮らしているのか、そのことに大変驚かされました。まさにカルチャーショックを受けた気がしましたね」

その後も大学を休学しては海外の旅に出ていくようになる。そのうち次第に中東から北アフリカのイスラム文化圏(アラビア文化)にひかれていく。やがて「文化人類学」という新しい学問分野の存在を知り、大学院に入ってそれを学び直し、本格的な中東文化研究に取り組むことになる。当初はイスラム市井に暮らす人々の日常的な研究から始めた堀内先生だが、やがて「部族」というキーワードに行き当たる。

アラブ世界独特のネットワークを「発見」

歴史の重みを感じさせる学園本館
冬枯れの成蹊大学キャンパス全景

「アラブ世界といいますのは、部族システムとイスラム法学者のネットワークで成り立っています。たとえ世俗的な政治システムが崩壊したとしても、こうしたネットワークによって社会秩序が維持されるようになっているのです。ただし部族といっても、日本の農村的集落のように一定地域に集団で生活しているものとはイメージが異なります。部族のメンバーたちは汎地球規模に散らばっていて、驚くほど緻密かつ重層的なネットワークを構築しています」

このイスラム社会独特のネットワークの仕組みについて世界に最初に紹介したことで堀内先生は広く知られる。このネットワークは外部からは見えにくく、また常に変動している。アラブ世界の内部に深く入って粘り強いフィールドワークを繰り返した先生ならではの「発見」でもあった。そして現在の先生の専門分野は、モロッコとシナイ半島を中心とする「アラブの音文化」についての研究ということになる。

「いわゆるイスラム法は文字化されてはいるものの専らことばによる口承で伝承されてきました。ですからコーランをはじめ対話や音楽すらもがこの法典のなかには含まれています。したがってイスラム文化を理解するためには音の世界にも分け入る必要が出てくるのです。ここでいう音楽という概念も、鑑賞する対象としてといった西欧流の狭いとらえ方では全然ダメなんですよ」

こうして堀内先生のフィールドワークの旅は長期のものだけでも何と25回にものぼる。そのフィールド調査においては、砂漠の民・ベドウィンと行を共にしたりサハラ砂漠を縦断したりといった過酷な取材旅行が自然と多くなる。古典音楽や口頭伝承の探索についての現地調査もモロッコやシナイ半島の住民のなかに入って研究しつづけており、あと1年くらいをメドに一応の結論を出したいとする。

そんな堀内先生が在籍するのは成蹊大学文学部国際文化学科。あらためて同学科の特徴について紹介してもらおう。

「ここの国際文化学科は、①国際関係研究②比較文化・文化人類学③歴史・地域研究の3つの系列から成っています。このうち私が所属する『比較文化・文化人類学系列』では、主として外国の政治・経済を含めた文化の比較研究をしていて、アジアやアフリカ・中東・オセアニア地域に関心がある人に向いていると思いますね。本学は大規模な大学ではありませんが、それぞれ専門性の深い教員スタッフがそろっています。少人数制の対話型授業も実施されていまして、学生たちのニーズに合わせていろいろ展開できるのが大きな特徴になっていますね」

現地・原資料を大事にする文化人類学的手法とは

環境省選定「残したい日本の音風景100選」に選ばれた成蹊名物・ケヤキ並木

さらに国際文化学科では1年次から「基礎演習」というゼミ形式の授業も行なわれる(ちなみにこれは2年次まで)。これも1年次から大学生になったことを実感できると学生たちには好評らしい。そして国際文化学科における本格的なゼミ演習は3年次から始まり、4年次の卒業論文へとつながっていく。堀内ゼミは学科内でも人気があって、例年平均すると入ゼミ生は14人前後となる。ここでゼミの進め方について堀内先生は次のように語る。

「各ゼミ生の研究テーマについては、自ら見つけ出すことが第1の条件となります。さらにテーマが見つかったら、オリジナルの文献にあたったり自分の足で現地フィールドに赴き調査したりすること、こうしたことが第2の条件となります。こうして自分で調べたものをまとめて中間発表の形で全員の前で発表してもらいます。そして徹底的な討論(ディベートのレベルを超えてときに激しいバトル状態にもなるらしい)をへて研究内容を深化させていくという方法をとっています」

具体的な卒論テーマについては、人間に関するもので文化人類学の研究手法で考察できる課題であれば「何でもOK!」という。そうした堀内先生の指導方針については――

「他人が書いたり言ったりしていることを簡単に信じないこと。そして常にオリジナルに当たってその混沌のなかから自分の心に響く真実を探しなさい。それだけです」

これなど文化人類学に限らずすべての学問カテゴリーに通ずる科学的な研究スタイルでもあろう。まさに簡にして要を得た至言といえよう。

「この国に西欧流の近代的な学問研究手法が導入されて100年余になりますが、そこには長所もあれば短所もあることを知っておかないといけません。その短所として最大のものは研究対象(人間もふくめ)をグループに分類して見ていこうとする視点だと私は思っています。文化人類学でいえば、『日本人とは』『中国人とは』といった一般的・常識的な視点で民族性や文化を括ってしまうような見方はもはや陳腐すぎて21世紀にはとても耐えられません」

こんな生徒に来てほしい

日ごろから世の中のことに疑問を感じてしまう人、常識とされることが自分ではちょっと違うかなと思ってしまう人、そういう受験生向きでないような人(笑)のほうが実は大学に入ってからは面白いかもしれません。とくに全ての通念や思いこみを排して自分自身を含めて事実を客観視できるような学生のほうが文化人類学向きだといえるでしょうね。現役高校生諸君にとって今後ますます何かと生きにくい難時代も予想されますが、こうした文化人類学的なリテラシーは折々の人生にとってもきっと役立つことだろうと思いますよ。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。