早稲田塾
GOOD PROFESSOR

武蔵大学
経済学部 経済学科

東郷 賢 教授

とうごう・けん
1961年東京生まれ神奈川県育ち。84年早稲田大学第一文学部美術史学科卒。86年同大学政治経済学部経済学科卒。86年日本輸出入銀行(現・国際協力銀行)入行(92年退職)。90年米エール大学大学院国際開発経済学修士号取得。96年同大学院経済学博士号取得。96年国際開発高等教育機構研究員。98年武蔵大学経済学部助教授。98年経済企画庁(現・内閣府経済社会総合研究所)経済研究所客員研究員(兼任)。06年より現職。06年経済産業研究所研究会委員(兼任)。おもな著作に『経済開発論』(分担執筆・勁草書房)がある。
先生が主宰する「東郷賢のウエッブ・ページ」のアドレスはコチラ → http://www.musashi.jp/~togo/indexJ.html

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貧困に苦しむ人々を救う経済学とは

東郷研究室のある武蔵大5号館建物
晩春を迎えた武蔵大学キャンパス正門

今週ご紹介する一生モノの恩師プロフェッサーは、武蔵大学経済学部の東郷賢教授。早大文学部の学生として当初は美術史を学んでいた先生だったが、その一方、自らの将来像が漠として見えずに悩む日々でもあった。そんな若き日の先生が人生の方途を開くのは、美術史の研究調査においてラテンアメリカ諸国を旅していたときのこと。

「そこで見た開発途上国の現実ですね。街にはストリートチルドレンであふれ、人々の暮らしの貧窮ぶりは衝撃的でした。どうしていまどき、こういう人々がいるんだろうという素朴な疑問を感じまして、その場で将来自分がなすべきことが見えてきました。こうした事実を知ってしまった以上、もう美術の歴史がどうのという心境じゃなくなってしまったわけですね(笑)」

早大第一文学部美術史学科を卒業した東郷先生は、同じ早大政治経済学部に学士入学し、開発経済学・国際経済学を中心に学び直す。卒業後に日本輸出入銀行(現・国際協力銀行)に入行して、希望していた発展途上国の開発援助業務を担当することになる。

と、これだけでも昨今めずらしいほどの志高い国際銀行マン誕生というエピソード。ただし東郷先生のストーリーには、さらに続きがある。

「輸出入銀行に入って途上国経済の分析業務を担当したのですが、この大半が世界銀行との共同プロジェクトでした。ところが世銀で働いている職員の多くが経済学の博士号保持者。彼らと自分との知識の差に気づくことにもなりました。それでアメリカの大学に留学して経済学について学び直そうという気持ちになったわけです」

エリート国際銀行マンとしての「約束された人生」に満足することなく職を辞した東郷先生は、一念発起の末に米エール大学大学院に留学。そして国際開発経済学の修士号と経済学の博士号を取得して帰国する。そのあと国際開発高等教育機構(FACID)に迎えられ研究員として活躍し、やがて大学の教壇に立って開発経済学・国際経済学を講じる立場になり、現在に至る。
熱い情熱と強い意志が、先生の研究者としてのキャリアを切り開いてきた原動力なのだ。

貧困や飢餓に苦しんでいる人を救うための経済学とは

練馬区保存樹の指定を受けたケヤキ並木

そんなわけで東郷先生が研究する専門分野が「開発経済学」と「国際経済学」であることは説明するまでもない。

「開発経済学というのは途上国の経済問題について研究するものです。そうした国や地域には貧困や飢餓に苦しんでいる人がいまも多数いますから、人々を救うためには経済学的にどう対処すればいいのかを理論と実証の両面から研究する学問分野ですね。国際経済学のほうも、わたしの場合どこまでも途上国がテーマとなるわけで(笑)、ますますグローバル化が進む国際環境のなかで途上国経済に有益な貿易や資本移動のあり方などについて研究を続けています」

「輸出入銀行時代はラテンアメリカ地域の業務の担当から始めまして、その後アジア諸国を担当しました。07年度から日本学術振興会の研究費をいただいてアフリカも研究するようになりまして、昨年はケニアやボツワナを訪ねました。今年08年はガーナを訪ねて調査研究する予定となっています」

そう自らの研究実績と抱負を語る東郷先生の周囲には、晴ればれと充実した空気が漂う。今後も実務および研究の中心フィールドはアジアに置きつつ、アフリカなどにも積極的に取り組みたいと意欲を見せる姿が印象的だ。

ゼミ独自のNPO援助活動体験

歴史を感じさせる大講堂と最新の10号館

大学教授としての東郷先生が現在所属するのは、武蔵大学経済学部経済学科だ。同学科の魅力について語っていただいた。

「この学科の一番大きな特徴は1年次から4年次までのすべてにゼミが用意されていることでしょうね。ですから学生さんが教員やゼミの内容を気に入ってくれれば、4年間同じゼミでひとりの教員から指導を受けることも可能です。それに少人数制を採っていまして、教員と学生の距離が近いのも特筆ものです。教員の側からいえば、1年次から受け入れることで学生を育て上げていけるのも魅力ですね」

武蔵大学経済学科のゼミ演習は1~3年次が必修で、4年次は選択制となる。しかし4年次学生の大半も引き続きゼミを履修して参加するらしい。1~4年次までのゼミ内容について東郷ゼミを例にとれば、以下のように展開していくという。

「1年次は『教養ゼミ』と『プレ専門ゼミ』からなり、論文リポートの書き方や経済学の基礎理論を学ぶゼミ入門編ですね。2年次は開発経済に関する文献講読で鍛え上げていきますが、全学を挙げて毎年12月に催される『ゼミ別発表会』に向けてのグループ研究が中心となります。3年次になると各自でテーマを決めて論文作成に取り組みます。そして4年次には、その研究論文に手を加えて修了論文(卒論)として完成させていきます。大体そんな段取りになりますね」

また東郷ゼミだけの特徴として、ゼミ生諸君の希望によって日本の援助プロジェクトの視察なども盛んに行なわれる。ちなみに07年度はベトナムに視察に行ったそうだ。

自分で考えられる真にグローバルな「市民」を育てたい

武蔵大キャンパスメーン通りの全景

自ら世の中の問題に対峙してきた先生だからこそ、ゼミ生たちに対する指導も熱い。

「とにかく世の物事について自身で論理的に考えられる人を育てたいですね。テレビでキャスターだか誰かが言っていたからとか、新聞やインターネットに書かれていたからというのでは全く話にもなりません。そうではなくて、事実として本当にそうなのかを疑問視して確認するリテラシーを自ら育て上げて、自分の頭で考え判断のできる市民に育ってほしいと思って指導しているつもりです」

ところで東郷先生のもとで学んでも、実際に途上国援助など国際的な仕事に就ける人は必ずしも多くはない。卒業生のほとんどの人は一般企業に就職してサラリーマンやOLとなる。しかし、先生はこうも語る。

「私のところを出て普通の会社員や主婦になったとしても、自分の身から半径何メートルかの卑近な問題だけに関心をもつのではなく、世界中の貧困問題や食糧問題などに関心を寄せて考え続けていく。むしろアジアの一員たる先進国ニッポンの普通の市民がそうした視点をしっかり持ち続ける。そのこと自体が大切ではないかと思って日々教えているつもりなのです」

21世紀初頭の現在、世界でも日本国内でも、貧困と格差の問題が以前にも増して際立つようになってきた。グローバルな開発経済学の知識と、そこから得られる視座は、そんな新しい世紀に生きる「市民」にこそ求められるものなのかもしれない。

自らの心の内の声を信じて次々と人生の岐路を切り拓いてきた東郷先生のお話をここまで読まれた高校生の中には、スーパーマンのような強さと決断力を備えた合理主義者というイメージを抱いた方もいるかもしれない。 しかし実際の先生は、人情味あふれる温かそうな笑顔が印象的なお人柄。そのことを最後に付記しておこう。

こんな生徒に来てほしい

やはり知的好奇心をもった前向きな人に来てもらえると教える側としては嬉しいですね。たとえば途上国はなぜ貧しいのか? その本当の理由を知りたい、あるいは援助の方法を考えてみたい、そうしたことに興味や関心を持てる人なら大歓迎します。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。