早稲田塾
GOOD PROFESSOR

横浜国立大学
工学部 生産工学科 大学院 環境情報研究院 環境情報学府

後藤 敏行 教授

ごとう・としゆき
1952年東京生まれ。81年東京工業大学大学院総合理工学研究科物理情報工学専攻博士課程修了。81年富士通研究所入社。画像処理・パターン認識研究に携わる。90年横浜国立大学工学部助教授。96年同大学院工学研究科教授。01年より現職。情報考古学会論文賞(05年)・FIT論文賞(06年)など受賞多数。
なお先生が主宰する「後藤研究室」のWebアドレスはコチラ → http://gotoh-lab.jks.ynu.ac.jp/GOTOH_HP/index.html

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医用画像と福祉情報における先進的研究

後藤先生の研究室・教授室がある環境情報1号棟
教授室からのYOKOHAMA眺望。あいにく曇天で残念

横浜国立大学大学院(学部としては工学部生産工学科)の後藤敏行教授の研究室は「環境情報1号棟」最上階の9階にある。その窓からは横浜ベイエリアが一望できる最高の眺望に恵まれている。「とくに夜景がすばらしいのですよ」とこの部屋の主も大絶賛する。そんな後藤先生に、学部で担当する生産工学科と機械システムコースについてまず説明してもらった。

「21世紀ハイテク時代の基幹を支えている分野のひとつ、それが言うまでもなく機械になります。その機械についての材料や加工技術・システムまで体系的に学ぶのが生産工学科の主旨です。この学科は①材料設計②機械プロセス③熱流体④機械システムの4つのコースからなっています。このうち私が担当している機械システムコースでは、設計工学ですとかメカトロニクス・制御・情報工学など機械のシステム化の全般について学ぶことができます」

あらためて横浜国立大学生産工学科の特徴について伺うと……


「まず少人数制クラスであること。それに基礎教育を重視していて、1年次から数学や力学の演習が繰り返し行なわれます。そのため4年次で卒業研究に上がってきたときの学生はすでに高度な学力がついている人が多いように思いますね」

さすが俊英ぞろいの横国大生というべきか。自ら指導している学生たちを高く評価するのをプロフェッサーから直接聞けるのは実にすがすがしく気持ちがいいものだ。

点字楽譜の自動作成システムは実用化目前

「5線楽譜」と「視覚障害者用点字楽譜」の一例
ヒトの肺臓の3次元立体画像の一例

後藤先生の専門は、「コンピューターの画像処理」とくにコンピューター・グラフィックス(CG)を中心にした医用画像処理技術では他の追随を許さない。そんな先生がいま集中しているテーマは「視覚障害者用点字楽譜の自動生成と解析」の研究だという。まずはそちらの方から解説してもらった。

「いわゆる晴眼者のための5線譜を視覚障害者用の点字楽譜に自動翻訳するシステムの研究開発になります。最近の5線譜においては電子楽譜が普及して、パソコン上などで音楽として聞くことができるようにもなっています。この電子楽譜はデジタル使用することが前提になっていますので、独自の文法や定義が確立されて作成されています。それを活用する形で目の不自由な方のための点字楽譜に自動翻訳しようというわけです」

このシステムは99.9%ほぼ完成し、利用希望者は後藤先生の研究室のURL(プロフィール欄参照)にアクセスすると電子楽譜を翻訳しながら無料でダウンロードできる。ただ後藤先生としてはあくまで100%の完全翻訳をめざして改良工夫を重ねる日々らしい。まさに妥協を許さない研究者魂を見せつけられる思いがする。

医用画像の動画化新処理システムを実現

理工専門書の蔵書を誇る「理工学系研究図書館」
春緑の丘に林立する横国大キャンパス建物群

もうひとつの後藤先生の研究の柱は、いわずと知れた「コンピューターによる医用画像処理システム」の開発だ。現在の最新医学機器であるMRI(Magnetic Resonance Imaging 核磁気共鳴診断装置)やCTスキャン(Computer Tomography コンピューター断層撮影装置)などで得られるのは人体や臓器の断層像で、静止画の3次元像や2次元で動画像は普及しているものの大きい臓器を3次元の動画像で観察するには限界がある。また、臨床医師らは連続するそれらの画像を見ながら頭のなかで立体的に再構成しつつ診断を下す。そのため数多くの経験を積まないと正確な診断が下せないという難点もあった。それを根本的に克服しようというのが後藤先生の開発システムというわけだ。

「ここで我々がめざすのはMRIやCTから得た臓器の2次元データを3次元の立体画像に変換し、かつ動いている画像(動画化)として見られるようにするシステムづくりです。動画化にあたって心臓のように鼓動が一定なものは比較的容易なのですが、複雑な動きをする肺臓の画像を定量的に解析するシステムの開発にいま取り組んでいます。その原理としては、時間差を設けて撮影した断層画像を集約して3次元化・動画化を試みることが基本となります」

この研究にあたっては世界一線級の医師や医学部教授などのアドバイスを取り入れながら進めており、数年後には実用化される見込みだという。

このほか後藤先生が手掛けている研究としては、①車両に搭載したカメラの画像で前方走行車両の車種を特定するシステム②人間の視線方向を画像処理で自動的に検出するシステム③古代の打製石器(黒曜石)の3次元計測法の開発④神経細胞内粒子の動きの解析からアルツハイマー病などの新薬をスクリーニングする技術の研究(横浜市立大学薬理学研究室との共同研究=特許取得)など多方面にわたる。その研究意欲の広範さ・旺盛さは驚嘆に値する。

じつは後藤先生のテーマと同じ目的で研究している学者は世界中に数多い。しかし、それぞれアプローチの仕方が違うため、実用化に至ればどれもが世界初の快挙になるはずという。ちなみに点字楽譜翻訳と車載カメラによる車種特定はすでに実用化の域に入っている。

未知の課題に自ら挑戦できる人を育てたい

早春の候を迎えた横浜国立大学正門報学府

横浜国立大学生産工学科の学生たちは、4年次になると各教員の研究室に配属される。そして大学生活最後の1年間を卒業研究に充てる。後藤研究室においても機械システムコースの学生2~3人を例年受け入れている。その卒業研究指導の方針については次のように語る。

「わたしの研究室ではいわゆるグループ研究方式は採りませんので、それぞれ個人別にテーマを決めて研究してもらえれば良いわけです。ただしコンピューターの画像処理が中心となりますから、プログラムを自由に組めることが条件となります。そのための特訓を1ヵ月ほど集中的にやってもらい、その後それぞれの研究テーマを決めて卒研に入るというパターンが一般的です」

横国大生産工学科の特徴として卒業研究の中間発表が頻繁に行なわれるということがある。そのため卒研生たちは毎年6月末に予定されている最初の中間発表に向けてそれこそ寸暇を惜しんで研究に没頭する。インタビューの最後に、そうした学生指導にかける後藤先生の熱意あふれる寸言を現役高校生諸君にお届けしておこう。

「いわゆる学習と研究とが決定的に異なることを認識していてほしいですね。学習とは正解が用意されている問題を解くことをいい、小・中・高校から大学3年次までの勉強がこれに相当します。しかし大学4年次以降そして大学院での研究はだれも挑戦したことがない未知のテーマに取り組むことを指します。ですので自ら問題点を明らかにし、そこから自力で解答を導き出すような本物の実力をつけるようにと指導しているつもりです。ちょっと考えてみても解決法が見当たらないからとかいって何も考えずに質問に来たりすると、かなり激しく私から叱られることになります(笑)」

低音ながらよく通る声でそう語って表情を崩す後藤先生。2度とは来ない青春の日々・大学時代を預けるのにこれほど頼もしいプロフェッサーも滅多にあるまい。

こんな生徒に来てほしい

まず第1に「ものづくり」自体が好きな人ですかね。それに自らの頭で考えられる人、ちょっとくらい不器用でも実直な人、何かに熱中した経験のある人、そういう人ならこの分野に向いていると思いますよ。さらにいえば数学や物理の難問を解くにしても、進学塾などで与え教えられた「定石」をただ暗記して当てはめて解くのではなく、何時間もかけて自分流で解いてみたりする人ならさらに大歓迎ですね。少し時流から外れている人、いい意味でのオタク的な人、そういう生き方はあまりスマートではなく非効率なやり方である一面も確かにあります。しかし、そういうタイプのほうが大学以降では伸びる可能性を秘めていると思いますし、そのほうが個人的には好ましいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。