早稲田塾
GOOD PROFESSOR

千葉大学
理学部 物理学科 大学院 理学研究科

太田 幸則 教授

おおた・ゆきのり
1957年三重県生まれ。84年名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻博士課程修了後に英国科学・工学研究会議(SERC)研究員。名古屋大学助手・千葉大学助教授等をへて、07年より現職。おもな著作に『演習で学ぶ統計力学』(千葉大学理学部物理学教室)がある。
太田先生が主宰する「強相関電子系理論研究室 」のURLアドレスはコチラ ↓
http://physics.s.chiba-u.ac.jp/ohtal/

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人類知のすきまを埋める物理理論研究の真骨頂

太田研究室のある理学部「理学系総合研究棟」
あいにく梅雨時の小雨けぶる千葉大学正門

広大な千葉大学西千葉キャンパスのやや奥まったあたりに理学部系の建物群が並んでいる。その2号館「理学系総合研究棟」7階に、今回紹介する大学院理学研究科(学部は理学部物理学科)の太田幸則教授の研究室がある。まずは「物理学とは何か」から説明していただこう。

「それは物質の最小単位であるクォークなどの素粒子から原子・分子、生命、さらには星・宇宙にまでいたる自然界の普遍的な原理を追究する学問分野です。単に物理学といっても非常に幅広い分野を対象にしており、工学はじめ数学・化学・生物学・天文学までをも含めて扱います。理系の勉強が好きな人にとってはかなり満足してもらえる分野ではないかと思いますね」

ただ、高校で学ぶ物理と大学で学ぶ物理学はだいぶ違っているので、事前によく調べてほしいとも先生はアドバイスする。続いて千葉大学理学部物理学科の特徴について話してくださった。

「本学物理学科の定員は40人ですが、これに加えて若干名が高校2年修了で受験できる『飛び入学制度』で入学してきます。さらに大学を3年間で卒業できる飛び級制度も設けられています。学科には教員が23人いるため専門分野も多彩で、カリキュラムが非常に充実しています。こと物理学に関しては、教員すべてが人任せにしないで責任をもって指導することを方針としています。」

同学科の大学院進学率は約8割。物理学の知識を確実なものとするには大学院進学も念頭に置いてほしいとも太田先生は話す。

量子力学「強相関電子系」の普遍的構造に迫る

静寂な雰囲気が漂う千葉大学理学系の建物群
キャンパス内にはクスノキの巨木群が目立つ

太田先生ご自身の専門は、物性物理学の「強相関電子系」の理論研究である。

「固体の中にはたくさんの電子が存在します。電子がひとつだけでしたら電荷(電気量)とスピン(回転)により、量子力学の法則にしたがって運動します。それが固体中のように多数になりますと、相互に作用していわゆる「多体問題」が発生し、「超伝導」「スピンの秩序化」「電荷の結晶化」などいろいろな現象が起こってきます。わたしの研究は、そうした量子力学における多電子系の多体問題に含まれる普遍的な構造について、理論物理学の方法や大規模数値計算の解析などから解き明かそうとするものです。こうした強相関電子系の研究分野はいまや物性物理学の中心的な存在になりつつあります」

それだけに研究者の数が多く競争の激しい世界だが、逆にやりがいがあって面白いともいう。

「私たちの研究が何の役に立つのかと問われますと、うまく答えられないところも確かにあります。しかし50年ほど前に半導体について研究していた研究者たちも、今日の半導体全盛の時代は予想もしなかったでしょう。私たちの研究も将来の社会に大きく貢献するかもしれませんし、そうでないかもしれません(笑)。といいますか、役に立つかどうかあまり考えたこともありません。物理学の理論研究というものはそういうものだと思います」

「物理学はまた実に深遠な世界でもある」とも語る太田先生は飾らない人柄で、人間的にも非常に温かい。ただ、こと研究となるとどん欲のようだ。専門分野のなかで少しでも興味ある現象を見つけると、次から次へと自分の研究テーマにしてしまうという。

千葉大理学部名物たる熱血指導を支えるものとは

学生の憩いの場である生協売店や食堂のコーナー

千葉大学理学部物理学科の学生たちは4年次に進級すると、各教員の研究室に入り、学部最後の1年間を卒業研究に充てる。太田研究室でも例年3~4人の学生を受け入れているが、他が1~2人というから先生の人気の程もうかがえよう。卒業研究のテーマについては、物性物理学であれば太田先生の専門分野を多少はずれても構わないという。そうした学生指導で心掛けている点については次のように語る。

「とにかく物理の研究をみんなで面白がろうということですね。ただ、その裏には辛い計算などの過程もありますが、それさえも面白さの対象にしてしまえばいいのです。これを可能にできるかどうかは、取りも直さず私が学生たちにどれだけの環境を提供できるか問われているところでもあります(笑)。その環境が、多少なりとも将来の彼らの血肉になってくれれば――そう思って日々指導しているつもりです」

そう謙遜しながら話す太田先生だが、じつは学生指導にかけるエネルギーたるや、常人とは異なるただならぬものがある。まず、個別指導や質問をもっぱら受け付ける「オフィスアワー」を特に設けていない。学生はいつ研究室を訪ねてもよく、先生も在室している限りは質問に答えてくれる。さらに、インターネット掲示板を駆使した「物理学バーチャルセミナー」も開講している。学部レベルの物理学の質問に先生自身が答えてくれるもので、千葉大学の学生と院生であれば誰でも利用できるという。

また太田研究室は物性物理の理論研究が中心となってしまうため、広く実験的研究をしている他大学の教員や研究所研究員などを招いて、2~3日間の集中講義も実施する。そのほかにも研究室主催の各種セミナー、他大学から講師を招いた特別セミナー、研究室セミナー、他の研究室メンバーも参加できる輪講などもある。飛び級の2年次および3年次学生を対象にした少人数セミナーを開いて統計力学を中心に講義してもいる。なおこのセミナーは希望すれば一般学生の参加も可能らしい。

これらに加えて、学部と大学院での講義があり、もちろん先生自身の研究もある。物理学の指導と研究に24時間臨戦態勢でいるのだ。その飽くなき情熱にはまさに頭の下がる想いがする。

ところで、その太田先生は単身赴任である。自宅は三重県津市にあって、いまも家族はそちらに住んでおられるのだ。

「毎週末には三重の家族のもとに帰るようにしています。地方の景色に触れて家族サービスをしてリフレッシュすれば、次の週にまた物理学へ没頭できるわけです」

そう言って晴れやかに笑う太田先生。その笑顔がまたとてもいい。

こんな生徒に来てほしい

まずは基礎学力のしっかりしている人です。とくに数学・物理・英語は高校時代までにしっかり身につけて来てほしい。それに学習や研究に生きいきと取り組んで、面白いと思えることも必要です。逆にいいますと、大学入学自体が最終目的化してしまって、受験勉強で疲れ切ったような人はダメですね。大学や大学院を卒業して社会に出るとき、この社会や人々を自分こそが支えていくのだというくらいの、気概と向上心をもった人だとさらに素晴らしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。