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GOOD PROFESSOR

東京学芸大学
教育学部 自然科学系基礎自然科学講座 理科教育学分野

鎌田 正裕 教授

かまた・まさひろ
1959年東京生まれ。’88年京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻博士課程単位取得退学。’88年京都大学工学部助手。’91年鳥取大学工学部物質工学科助教授。’96年東京学芸大学教育学部理科教育学科助教授。’07年より現職。この間に’98年南アフリカ・ムプマランガ州立教員養成大学にて教育支援のための調査研究。主な著作に『發光二極體 不可思議的光』(共著・台湾で出版)がある。このほか小中学校向け理科の教科書を共著で多数執筆。
鎌田先生が主宰する「鎌田研究室」のURLアドレスはコチラ ↓
http://www.u-gakugei.ac.jp/~kamatam/

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「理科」を教えることの楽しさと難しさ

鎌田研究室のある東京学芸大自然科学棟
小金井キャンパス正門まで桜並木が続く

教育と研究の両面から、質の高い教員の養成を支えてきたことで知られる東京学芸大学は、日本全国に数多くの人材を輩出してきた国立大学だ。そのなかの自然科学系基礎自然科学講座・理科教育学分野では、理科の教員をめざす学生たちが日々学んでいる。今回の一生モノのプロフェッサー、同分野で教壇に立つ鎌田正裕先生に、自らが所属する理科教育学分野についてお話を伺った。

「ここは、理科の分野(つまり物理・化学・地学・生物という自然科学)について学生たちが高い専門性を身につけると同時に、それらを子ども達に効果的に教える方法を学ぶ分野ということになります」

そんな鎌田先生ご自身の専門は小・中学校の「理科教材」の開発だ。その具体的な話の前に、学校で教える理科の原理に基づく説明と、子どもたちが日々送っている実生活経験との間に食い違いが目立つようになり、従来の方法だけでは子どもが理解できるように教えることが難しくなってきたという事実最近の傾向についてまず、ご説明いただいた。

「たとえば小学4年生で『ものの温まり方』を学びます。おふろを沸かすとき温かいお湯は上のほうに集まって冷たい水は下にたまるとか、室内の暖房でも暖かい空気は上のほうに冷気は下にたまると教わりましたよね。こうした原理は私たちの世代が子どもだった頃はまさにその通りでよく理解できる例でした。しかし湯沸かし器やエアコンなどの住宅設備機能が向上した現代ニッポンにおいては、こうした原理的な現象が必ずしも起こらなくなっています」

こうした時代の変化にも敏感に対応しつつ、現代の子どもたちが理科教材で学んでいるうちに興味がわいて、自然に原理が理解できるように様々な工夫をすべき――そう鎌田先生は提唱しているのだ。

鎌田先生が開発したオリジナル新理科教材の数々

梅雨の候の学芸大小金井キャンパス全景
敷地内にある附属中学。小学校・幼稚園も

では、これまでに鎌田先生が世に送り出した理科教材のいくつかを紹介しよう。

【新型電流計「PIKOPIKO」】電流の流れを視覚化したもので、電流が流れると1列に並んだ10個のLED(発光ダイオード)が点滅して流れを表現する。電流の流れる方向や強さによってLEDの点滅する方向や速さが変化。’98年にメーカーによって商品化され、大ヒット教材になった。
【 直流と交流確認機「B10-5153」】点滅するLEDを素早く振ってできる残像によって直流と交流の違いを視覚化した装置。残像はオシロスコープとほぼ同じ波形であらわれ、動作電圧によって発光するLEDの数が変化するため、電圧による違いも確認できる。
【「ミニライト」キット】リチウム電池を電源にアルミテープで電気回路をつくってLEDを点灯させる小型懐中電灯用キット。このバリエーションとして赤・青・緑のLEDを組み込んで、光の3原色について学べるキットも考案されている。
【心臓(ポンプ)の仕組みを知る】太さの違うシリコンゴムのチューブを組み合わせて円環状につなぐことで、ポンプの原理が理解できる。ただ現代の生活では子どもたちがポンプを使う機会はあまりなく、先生はこれを心臓の仕組みを理解するためのものとして普及させている。

このほか①磁石で遊びながら磁力線について学習するセット②空気亜鉛電池が放電することで重量が増すことを知る装置③元素周期表を3D化し立体棒グラフで理解しやすくしたもの等々があり、いずれも鎌田研究室がオリジナルでつくり上げたものばかりだ。

鎌田先生が理科教材の開発に注目したのは、前任の鳥取大時代のことだった。自然界に存在する放射能(温泉の泉水、湯の花、過リン酸石灰など)のβ線を簡易型放射線測定器で測定する実験のなかで思いついたと語る。ここで温泉の泉水などを放射能測定用の教材にしたのが最初だったという。

自らの試行錯誤のなかで一生モノの実力を育て上げる

なごやかに指導する先生と研究室学生たち
新型電流計「PIKOPIKO」

東京学芸大学・理科教育分野のゼミ演習は3年次から始まる。鎌田ゼミの受け入れ人数は例年4~6人ほどで、原則的に3・4年次合同で行なわれる。理科教育に関する原書文献を全員で講読してディスカッションするスタイルをとる。そして毎回ひとりのゼミ生が最近講読した論文について紹介し、さらに毎回ひとりのゼミ生が自身の研究について中間発表をする。4年次のゼミ生には卒業研究が加わっていく。それぞれの卒研のテーマは、小・中学校向けの理科教材から選ばれることが多い。

そうした学生指導において心掛けていることを次のように語ってくれた。

「もう生徒・子どもではなく最高学府の学生なのですから、基本的に私の方からあれこれ指示などしないように心掛けています。自分で考え自ら判断して、いろいろ試行錯誤をやってごらんなさいというのが大原則となります」

端から見ていてその研究方針だと将来まず失敗するだろうと思っても、鎌田先生からはなるべく言わないようにしているとも。つまり、学生自身が気づくまで待つという指導スタイルを実践する。これは根気のいる指導法だ。だが、いま教わる側にいる学生たちも、やがて教育の現場において指導・苦悶する立場となる。そのときにこそ先生から受けた指導法が継承され、それが一生モノの生きる力となるのだ。

さて、最近は子どもたちの「理科離れ」という言葉を耳にするが、このことについて鎌田先生の見解を伺った。

「ゆとり教育の弊害で分数・小数の意味すら分からない学生・若者が増えたとか、いわゆる理科離れという世代批評がマスコミでもよく話題になっていますね。しかし、実態として果たしてそうなのかなぁと私は少し懐疑的にも思っています。とくに小学生くらいまでの子どもたち1人ひとりを見ていますと、みんな理科が好きで目を輝かせて先生の話を聞いていますしね。ただ前にも申しましたように、理科の授業で教えている事柄と子どもたちの実生活の乖離はかなり大きな問題になってきたような気がします。いまの子どもたちにマッチした、理解しやすい新しい教材や指導法について、教える側がしっかり考えていくべきだと思いますね」

こんな生徒に来てほしい

まず、自分自身でサイエンスが好きという人が最低条件となります。広範な理科知識を子どもたちに教えることに喜びを覚えるような人ですね。そして私の研究室に限っていいますと、自らいろいろと工夫をして手を動かしていくこと。ただ言われたことをするのではなく、自分で考えることが好きな人――そういう人なら向いているだろうと思いますね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。