早稲田塾
GOOD PROFESSOR

千葉大学
法経学部

倉阪 秀史 教授

くらさか・ひでふみ
1964年三重県生まれ。’87年東京大学経済学部経済学科卒。同年4月環境庁(現環境省)に入庁。地球温暖化対策やリサイクル問題・企業環境対策などを手がける。’94年4月から’95年7月まで米メリーランド大学Center for Global Change客員研究員。’95年7月から’98年3月まで企画調整局環境影響評価課課長補佐。’98年4月より千葉大学法経学部助教授。’08年4月より現職。総合政策学科所属。’04年より21世紀COE「持続可能な福祉社会に向けた公共研究拠点」公共政策セクションリーダーおよび千葉大学環境管理責任者(教員系)をそれぞれ務めている。
倉阪先生が主宰する「倉阪環境研究室」のURLアドレスはコチラ→
http://www.hh.iij4u.or.jp/~kurasaka/

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ルール変更で解決に向かう環境問題

千葉大学の環境マネジメントの頭脳が集まる環境ISO学生委員会室。学生の笑顔が印象的

「けっして企業が悪いわけではないのです。悪いのはこの国のルールなのです」

「環境政策論」や「エコロジカル経済学」を専門とし、「環境に優しい社会」の実現に向けて大活躍を続ける、千葉大学の倉阪先生はそう断言する。「環境に優しい社会」のためのルール改正として分かりやすいのは、二酸化炭素の排出量に応じて課税する政策だろう。二酸化炭素の排出を有料化すれば、排出量が少ないほど企業の利益は増す。そのために各企業は努力し、結果として国レベルの二酸化炭素排出量が減るという仕組みだ。

「ルールさえきちんと変われば、環境負荷の低い持続的な経済活動が、ある程度実現すると思いますよ」

倉阪先生は言い切る。が、それはかなり難しいのではないか、と疑問を持つ人も少なくないだろう。しかし倉阪先生は、多くの人間が無理だと諦めてしまうような事例に対して、さまざまな変化を起こしてきた。その武器として用いるのは「政策提言」と「話し合い」――それだけである。

千葉大生が夢中になれる「環境」を提供する

千葉大環境マネジメントについてシンポジウムを開催。中央の発表者は杉原学生委員会委員長

1億4000万円。千葉大学がこの3年間で節約した光熱水料費だ。CO2にして14%もの削減に成功したことになる。’07年には、環境マネジメントの国際規格である「ISO14001」も全キャンパスで取得した。これらのプロジェクトの旗振り役で、環境管理責任者を務めたのが倉阪先生だ。

「光熱水料費の削減に関しては、当時の学長が率先して動いたことも大きかったと思います。しかし学内の環境マネジメントが成功した一番の理由は学生たちの頑張りでしょうね。それぞれが自分で工夫しながら主体的に活動していますから」

千葉大の環境マネジメントが学生の活動に支えられていることは、広く知られている。たとえば、学生の提案で始まった生協でのレジ袋有料化は大きな混乱もなく、初年度の’06年度は、96%の学生がレジ袋を断る成果を上げた。スーパーなどでの有料化が推進されるよりもずいぶん前の話だ。そして’07年度には98%もの学生がレジ袋を使わなくなったという。これは間違いなく大成功といえるだろう。

その陰には、学生たちが主体的に活躍できる「場」と、モチベーションが上がるように環境を整える倉阪先生らの活躍があった。このプロジェクトが動き出したときも、学生主導で進めていくことを学内で合意し、環境マネジメントにかかわる教員と学生を、同じ大学の構成員として対等な関係に置いた。さらに学生がプロジェクトを進めるための部屋やネット環境、コピー機などをそれぞれのキャンパスに設置。そのうえで環境マネジメントの活動を「環境マネジメントシステム実習」として単位化し、3年間の活動後には「千葉大学環境マネジメント実習士」という資格を与え、履歴書に記せるようにしたという。

千葉県や市なども注目する「授業」とは

「地球温暖化防止と生物多様性保全」推進きゃらばん隊の出動式で学生委員会が宣言。堂本県知事とともに気勢を上げた

「学生がいつも集えるようにしないとダメだと思いました。だから部屋を確保したのです。最近はいつ部屋に来ても誰かがいます。授業は大丈夫かなぁ等とこちらが心配になるぐらいですよ」

インタビュー中、「仕事」をしながら倉阪先生の話を聞いていた学生たちから笑いが起こった。「先生、授業はちゃんと出てますよ~」といった声も飛ぶ。環境ISO学生委員会室に集う「千葉大学環境ISO学生委員会」のメンバーたちだ。

「環境マネジメント実習を通して、学生は実務経験を積むことができます。学外のインターンシップやボランティアなどと同じです。2年生になれば新しい学生が入ってきますので、いきなり10人もの『部下』を抱える『上司』になるわけです。これだけの部下を指導する経験は、実社会では10年勤務のベテランでもなかなか積めないですよね。しかも学生の活躍が新聞などで報じられたこともあって、千葉県や千葉市などから廃棄物政策に関する意見を求められたり、審議会への参加を求められたりと、いろいろな仕事が外から持ち込まれるようにもなっています。今年’08年はこの委員会をNPO法人化して、外部からの仕事が受注できる形を整えたいと考えています」

このように学生たちの成果はきちんと公表され、それによってさらにモチベーションが高まっていく。そして活動の環境もさらに整っていくという好循環が千葉大の授業で起こっている。前述のレジ袋削減プロジェクトでは、生協が買わなくてよくなった袋代や学生が有料のレジ袋を買った代金などを「れじぶー基金」として貯めている。これは学生自身が使い方を発案し、例えば’07年度は大学生協で販売する「マイバック」や「マイ箸」の制作や価格補填に充てられた。

環境ISO学生委員会の委員長を務める杉原崇之さんも、このプロジェクトの面白さに魅せられていった人物のひとりだ。彼はこう言う。

「1年生のとき環境マネジメントシステム実習を選んだのは、たまたま時間が空いていたからで、とくに理由はありませんでした。でも実際の活動が始まってみると、どんどん面白くなっていきました。現在は大学全体の取り組みもわかるし、教職員の学生への期待も強く感じるので、それがやり甲斐につながっています」

福田前首相も取りあげた環境研究の成果

千葉大内で開催した省エネイベント2008にて。県公式マスコットキャラ「チーバくん」と記念撮影

倉阪先生の研究が与える影響は学内の環境マネジメントだけにとどまらない。今年’08年6月に発表された政府のCO2削減の基本方針「福田ビジョン」には、自然エネルギーによる発電量が、民間の電力需要を上回る市町村が全国に76もあったという先生の研究結果が盛り込まれた。ダムなどに頼らず、川の水を利用する小水力発電が、自然エネルギーによる電力供給の60%を占めるという驚きの研究結果も、今後の日本のエネルギー政策に大きな影響を与えていくことだろう。

こうした政策提言には先生が環境庁(現環境省)に勤務し、環境基本法の成立などに取り組んでいたことが大いに関係している。

「環境庁では担当する政策実現に大きな力を発揮できますが、同時に色々なことには手を出せません。一方、研究者は適切なタイミングで声を上げることが出来ます。政策の実現には『合理性』と『引き金』が必要になります。どれだけ合理的な政策を立案し法律を整備しても、だれが、いつ、どう発表するかで影響力はまったく変わってしまいますので」

倉阪先生は大学の場から「引き金」を引くことによって、この国の環境問題を解決に導こうとしている。そして、合理的な政策を考えながら勘所を外さずに「引き金」を引く能力と手法を、自らの実践を通じて学生に伝えようともしている。

ゼミ演習でも環境問題のプロジェクトを学生に推進させながら、ディスカッションやゲーム形式でプレゼンテーション能力やロジックを組み立てる能力、さらに意見を調整する能力などを培っているという。こうしてゼミや環境マネジメント実習の場で、学生の企画・提案・実行力は確実に磨かれている。環境に高い意識を持ち、続々と巣立っていく彼らは、きっと社会の中枢で大きな働きをするようになるだろう。そのときこそ、さらに環境に優しい好循環がこの国で起こるのではないかとの期待も膨らむ。

こんな生徒に来てほしい

何事にも好奇心をもってトライできる学生でしょうか。ゼミ生たちの進路は、環境系に進む人や一般企業に入社する人さらに大学院へ進む人と等さまざまですが、ゼミで鍛えた自分の考え方を伝える能力は就職活動などでも役立っているようですよ。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。