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GOOD PROFESSOR

国際基督教大学
教養学部 アーツ・サイエンス学科

海藏寺 大成 教授

1962年兵庫県生まれ。’86年早稲田大学商学部卒。’93年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。’94年国際基督教大学教養学部社会科学科助教授。’00年同准教授。’05年同教授。学科統合により2008年より現職。この間に’00年独キール大学経済学部客員教授。’04年独マックスプランク経済研究所客員教授。’07年スイス・チューリヒ工科大学客員教授。日本シミュレーション学会学会賞(’00年)
海藏寺先生が主宰するWebサイトのURLアドレスはコチラ → http://subsite.icu.ac.jp/people/kaizoji/japanese.html

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「経済物理学」のパイオニアが描く理論的野望

海藏寺研究室のあるICU「研究教育」棟
歴史を感じさせるICU大学本館

経済学の理論のうち、最も新しい分野に「経済物理学」というものがある。これは現実のさまざまな経済現象を最新の物理学の手法で解明しようという試みで、日本における先駆けとなったのは国際基督教大学(ICU)教養学部の海藏寺大成教授。今回ご紹介する一生モノのプロフェッサーその人だ。

経済学と物理学を組み合わせてみよう――そう先生が思い立ったのは東京大学大学院経済学研究科で学んでいたころだったという。

「そのころ東大薬学部の清水博教授が著した『生命を捉えなおす』を読んで、とても感銘を受けました。清水先生の考え方によると、生物とは、細胞などミクロなものが集合してマクロな個体を形成している。このミクロとマクロをつなぐ種によらない統一的原理があって、それこそが「生きている」ということ(つまり生命である)というものでした。わたしはこの考え方を経済学にも応用できるのではないかと直感的に思ったわけです」

そこで当時の海藏寺先生は思い切って清水教授を訪ねる。そのことを伝えると教授も理解を示してくれて、学部の垣根を越えて研究室入りも認められた。こうして経済学研究科の院生が、薬学部の研究室において物理学や脳のメカニズムを学びながら経済現象を読み解くというユニークな研究体制が整うことになった。

ただし当時は、海藏寺先生の新理論に関心や理解を示す経済学の研究者は皆無であった。経済学者たちから目を向けられないなか、先生はひとり孤独な研究を続ける。やがて救いの手は意外なところから差し延べられる。独キール大学のトーマス・ルックス教授からの誘い。いまから10年前のことだ。

最新の経済学理論「経済物理学」の現状と未来

晩夏の候のICUキャンパス点描

「ルックス教授は専門誌に発表していた私の論文を読んでくれていて、『我々もあなたの理論とよく似た理論を研究しています。よろしければ一緒に研究しませんか』と誘ってくれたのです。そのころの私はすでにICUの教員をしていましたが、ルックス教授の求めに応じてキール大学に客員教授として赴き、共同で研究することになったのです」

海藏寺先生がキール大学に赴いた当時のヨーロッパでは、経済物理学が新しい経済理論として認知されつつあるときで、ルックス教授はその中心的なトップリーダーであった。先生はここで多くの同学の諸士との知遇を得るとともに、経済物理学がひとつの学問分野として確立されていく現場に立ち会うことにもなった。

そして、いまやこの国におけるパイオニアとなった先生は、経済物理学の現状と将来についてこう語る。

「経済物理学は、金融市場や企業活動・個人所得などの膨大なデータを数理的に分析してその背後のメカニズムを究明してきました。既存の経済学では分析できなかった(あるいは無視されてきた)諸事実を発見し、焦点を当てることで、新しい学問分野が生まれたことは大きな成果ですね。今後の経済物理学はこれまでの発見をもとに、より実用性の高い新たな経済理論をつくり出す方向に広がっていくと思います」

メジャー制移行によって誕生する理想の研究環境

晩夏の候のICUキャンパス点描

ちょっと話題は変わるが、この’08年4月からICUはこれまでの学科制を廃してメジャー制に移行した。メジャー制においては31もの専修分野が用意され、学生は3年次から自分の関心のある1~2のメジャーを選択して履修していくことになる。この画期的な制度移行について海藏寺先生は次のように説明する。

「高校生のみなさんが高校卒業の時点で大学で学ぶことを決めてしまうのは、非常に困難が伴うことだと思います。そこで大学入学時の間口を広くして、1~2年次のあいだに学問領域にとらわれずに学びながら自分のめざす方向を決めていく。そして3年次から各メジャーに進んで専修分野を本格的に学んでもらおうというのが新制度のねらいなのです」

現時点では、この新制度適用は1年次の学生だけだが、各メジャーの基礎科目履修における反応は上々だとも。なお現在のメジャー制において、海藏寺先生は「経済学メジャー」および「経営学メジャー」で教鞭を執られている。

続いて現行のゼミ演習についても伺った。現・社会科学科のゼミは3~4年次の学生が対象で、各学年5~10人を受け入れている。海蔵寺先生のゼミは「マクロ経済学」研究が中心テーマとなる。もちろんゼミ生からの希望があれば「経済物理学」についても俎上にあげる。

「ゼミは週1を原則とします。3年次のゼミでは、マクロ経済学についての勉強会を中心に論文指導や個別指導・アドバイスなどを行なっています。そんな中からゼミ生それぞれ関心のあるテーマに絞っていき、4年次の卒業論文に向かうことになります」

マクロ経済学理論を武器に多様な研究テーマに取り組む学生への指導方針については――

いかにも荘厳な雰囲気の大学礼拝堂

「ICUの基本方針のひとつに、学生たちは自分のやりたいことを自ら探すというのがあります。ですから私も学生が個人的にやりたいと申し出た研究について、個別にアドバイスするように心掛けています。もちろん研究テーマについてはそれぞれの学生とよく話し合うようにしていますが、あくまで最終的に決めるのは学生自身ということですね」

そのためか海藏寺先生の指導のもとでは、少子高齢化問題や環境問題・株式市場暴落問題など様々な視点から考察するバラエティーに富んだ多くの研究成果や卒論が続々と生まれている。

インタビューの最後にあたって、日本の経済情勢についての見解をお聞きした。

「たとえば石油価格の極端な上昇という問題があります。これは、欧米を中心とした不安定な株式市場の動きに乗じた、ヘッジファンドといわれる一部の機関投資家がその投資先を原油市場に振り向けたことがひとつの原因だといわれています。また、リーマン・ブラザースの破綻など米国の金融危機も、ヘッジファンドなど一部の投資家が空売りという手法を使って経営危機にある金融機関の株式を売り浴びせたことがキッカケとなりました」
「こうした投機的な投資は倫理的にはとても褒められたこととは言えません。しかしルールとして禁止されているわけではない以上、制度的な矛盾・問題を抱えた市場や企業・国家を、グローバルな世界の経済活動が徹底して突いてくるのは当然予想されることなわけです」
「日本の経済システムの改革も、そうしたことを織り込んだうえで考えていかないとなりません。ところが今の日本の経済システムには、持続性の観点から多くの矛盾を抱えた部門があります。ひとつの原因としては、政府による産業に対する規制が多すぎることにあると思います。いまや世界経済は過酷な競争状況に至っている、というシビアな国際的視野に立って、矛盾のない経済システムを再構築することが必要だと思いますね」

こんな生徒に来てほしい

最高学府たる大学で学ぶということは、きちんと自分自身で考える力を付けるということが前提であり、最低限の目標ともなります。ですから、これから大学に入る生徒の皆さんには、自ら考えて行動できるようになってほしいと思いますし、学問的にも新しいことにどんどん挑戦してほしいと思います。ぜひそうした若者らしい気概をもって大学の門をくぐって来てほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。