{literal} {/literal}
GOOD PROFESSOR

学習院大学
法学部 政治学科

井上 寿一 教授

1956年東京生まれ。’81年一橋大学社会学部卒。’86年同大学院法学研究科博士課程単位取得退学。’86年一橋大学助手。’89年学習院大学法学部助教授。’93年同教授。’05年より法学部長。主な著作に『アジア主義を問いなおす』(ちくま新書)『昭和史の逆説』(新潮新書)『日中戦争下の日本』(講談社選書メチエ)などがある。

  • mixiチェック

日本政治史に新たな光を当てていく

井上研究室と学部長室のある東2号館
伝統を感じさせる学習院正門

今回ご紹介する一生モノのプロフェッサーは学習院大学法学部長でもある井上寿一教授だ。まずは同大学法学部の特徴からお聞きしよう。



「これだけ変動の激しい時代にありまして、本学の法学部で学んだ学生たちには、日本社会や国際社会が今後どう変わっていこうとも、即応できるものを身に付けて卒業してほしいというのが基本的な目標となります。そのためには、問題対象に対して、自力で『考える』『表現する』『行動する』という市民リテラシーがたいへんに重要で、そうした世界市民の人材育成をめざしています」



学習院大法学部は法学科と政治学科からなり、政治学科には特別選抜(FT)コースも設けられている。これは、選抜された少人数学生を対象に、英語能力と政策実務能力を中心に鍛えるコースで、成績優秀者は飛び級制度によって、最短5年間で学部から大学院修士課程までを修了することができる。

戦前ニッポン国際連盟脱退をめぐる新事実を発掘

目白キャンパス全景
中庭の紅葉の彩りが美しい

井上先生ご自身の所属は政治学科で、専門は「日本政治外交史」と「歴史政策論」だ。前者の日本政治外交史の分野において、従来の定説とされていたものを覆す発見をしたことでも広く知られる。



戦前の1933年のこと、中国東北地方を植民地化させた「満州国」の不承認決議を不服として、大日本帝國は国際連盟を脱退する。これまでの近現代史研究の定説では、この脱退は日本政府の総意であったとされてきた。



「ところがあの時の連盟理事会に出席していた、日本代表・松岡洋右外相をはじめ当時の政府首脳も外務省も陸海軍も(あの関東軍でさえ)、連盟脱退にはおおむね反対の意向であったのです」



こうした歴史的事実を各種資史料から初めて「発見」したのが井上先生なのだ。松岡代表が決然と席を蹴って退場した逸話は有名だ。当時、そうした各界全体の意向がありながら、それではなぜ現実の日本政府は無謀にも連盟を脱退してしまったのか? そして、さらなる国際的孤立、破滅的敗戦へと続く軍国侵略主義への道を歩むことになってしまったのか?



「実はこのとき、帝国陸軍は満州国の熱河地方に軍事侵攻する作戦を計画中でした。このタイミングで侵攻作戦を展開しますと、日本は国際連盟の決定に不服で軍事行動を起こしたと解釈されかねません。そうなると、国際連盟規約で経済制裁を受けることになってしまう。それを避けるために苦渋の決断をした末の連盟脱退だったのです」



歴史の裏に隠されたこの新事実を発掘したことで、各方面から高い評価を受けた井上先生。以後、日本外交史研究に没頭することになる。さらに最近では、戦後の外交交渉の当事者であった、元外交官などの人物に直接面談して聞き取りをする「オーラルヒストリー」の研究を精力的に進めている。



「公式文書などの資料ではうかがい知れないことを、肉声を聞くことで埋めていき、外交交渉の新たなる真実の発掘に迫っていきたいと思っております」

オーラルヒストリー手法実践で学生も変わっていく

赤穂浪士・堀部安兵衛が立ち寄った言い伝えがある「血洗いの池」

学習院大学法学部政治学科のゼミ演習は3・4年次学生が対象で、両学年合同で行なわれる。ゼミ生は1学年7~8人までに限定している。



「わたしのゼミで学んでくれた人たちとは一生つき合っていきたいという想いがあります。卒業して社会に出ると辛いことも多いでしょうが、いっしょに学んだゼミの仲間たちと集い合い、励まし合っていける関係でありたいということですね。その意味でも1学年7~8人のゼミ生数が適当ではないかと思っています」



さらにゼミ運営が3・4年次合同でなされるため、両学年合わせて15人前後というのもちょうどいいらしい。ゼミ全体として毎年テーマを決めているが、’08年度のテーマは「日本の外交をデザインする」だという。



「具体的なゼミの運営進行ですが、まず1学期早々にグループ分けをし、グループ内討論・全体討論の順で進めてゼミ生個々の考え方を鍛えていきます。2学期に入ると各グループにテーマを与え、それをもとに政策研究成果報告書にまとめてもらいます。研究テーマとして与えられるのは、『北朝鮮の核問題』『安保理常任理事国入り挫折後の国連外交』『領土問題』『空洞化する日米同盟』などで、21世紀初頭のいま、日本外交が直面している諸問題から選ばれます」



各グループのメンバーは、それぞれテーマに沿って研究し、政策研究成果報告書にまとめていく。その研究手法の条件として、関係者へのインタビューを報告書に盛り込むことになっている。このインタビューの経験が、ゼミ生たちに社会性を身に付けさせ大きく成長させるとも。

学生指導のスローガンは「書を持って街に出よう」

最寄りのJR目白駅はすぐ近く

そうした学生たちへの指導方針については次のように語る。



「調査方法など技術的なことは私のほうで教えます。ですからゼミ生たちはテーマについてよく考えてほしいのです。社会的なことでも、身のまわりにある小さな問題でもいいですから、『なぜ?』という疑問をもって、それを解決する道を探ってほしいですね。そうした日ごろの態度によって、人間的成長が促されていきます。寺山修司の『書を捨てて街に出よう』ならぬ、『書を持って街に出よう』こそが私のゼミのスローガンなのです」



なお井上ゼミでは’08年に初めて、他大学ゼミとの合同ゼミを開いた。双方のゼミ生に刺激や啓発を受ける人が多く、意義深い合同ゼミになったそうだ。インタビューの最後に、そもそも歴史を学ぶことの意義について井上先生に聞いてみた。



「現代人はだれでも不確実な時代に生きています。つねに次の行動を選択しながら生きているわけです。このとき何に基づいて行動の選択をしているのか? その選択の基準・根拠になるのが過去にあった事例・経験であり、それらを参考にし、類推し、次の行動を決めることになります。この『歴史に学ぶ』ということこそが、また歴史を学ぶことの最大の意義にもなります。こうしたことは個々人の行動ばかりでなく、国や大組織の政治的・経済的な運営についてもいえます」





学習院大学の公式URL(http://www.gakushuin.ac.jp/univ/)にアクセスし、法学部政治学科「教員紹介」の井上先生のページを開くと、歴史を学ぶ意味についてさらに詳しい記述がある。現役高校生にとっても、多くの発見があるエッセーも載っているので、ぜひ一読をお勧めしたい。

こんな生徒に来てほしい

入試で高得点を取ることのみを目標にしているような人よりは、学習院大学法学部に入ったら、自らの可能性をいろいろ試してみたいという人に来てほしいですね。そうした目標のある人には、我々教員の側でもサポートする態勢が出来ているつもりです。また、学習院大学といいますと特殊な大学だと思われているところがありますが、決してそんなことはありません。ごく普通の落ち着いた大学ですし、一部皇族のご子弟が在籍するのは例外的なケースです。そのへんの誤解をぜひ解いていただければと思います。




公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。