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GOOD PROFESSOR

神奈川大学
人間科学部

永野 善子 教授

ながの・よしこ
1950年東京生まれ。津田塾大学学芸学部(国際関係学科)卒。国立フィリピン大学大学院フィリピン研究プログラム留学。一橋大学大学院博士課程修了。米ウィスコンシン州立大学東南アジア研究センター客員研究員。国立フィリピン大学経済学部客員研究員。神奈川大学外国語学部教授をへて、’06年より現職。発展途上国研究奨励賞(’87年・アジア経済研究所)。主な著作に『砂糖アシエンダと貧困』『フィリピン経済史研究』(前著ともに勁草書房)『フィリピン銀行史研究』(御茶の水書房)などがある。

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新たな新事実に迫るアジア経済史研究

永野研究室のある「17号館」

神奈川大学人間科学部は2006年に開設されたばかりの比較的新しい学部だ。この新学部の立ち上げから参加し、教授職を務める永野善子先生に人間科学部の教育理念や特徴からお聞きした。

「この学部のねらいは、人間という存在を『心』『からだ』『社会』の3つの面から研究していこうというものです。人間科学などというと何か堅苦しいイメージもありますが、ここでは多様的・総合的な人間理解をめざしています」

いわゆる学科制を敷かない神奈川大学人間科学部は、「心理発達」「スポーツ健康」「人間社会」の3コースから構成される。各コース間の垣根を低くして、教員と学生が講義やゼミ演習に相互に出席できるようにという配慮がうかがえる。

「学部開設から3年目を迎えての個人的な感想になりますが、なかなか良い相乗効果を示しつつあると思いますね」

そんな永野先生がいま所属するのは「人間社会コース」。同コースの概要は次のとおりだ。

「社会学・地理学の視点を中心に、日本社会や現代社会について学び理解していきます。将来、ボランティア活動などに携わりたいと希望する学生が多いコースでもあります。現代社会は若い人にとって過酷な状況が続いていますが、私たち教員は、そうした荒波を乗り越えるたくましさをも身につけてほしいと思って指導しています」

人間社会コースは、各教員が持ちまわりで地元・横浜に材を採った「横浜学」を講義することでも知られ、永野先生も’09年度は「在日外国人問題」について講義する予定だ。

「飢饉の島」ネグロスの経済史研究が支える国際的活動

東門からの横浜キャンパス外観

さて、永野先生ご自身の専門は「国際関係論」である。具体的にはどのような研究分野なのかを伺った。

「文字どおり、現実の国際社会の関係性について、構造的な分析をしていく学問分野です。主な分析手法に、①グローバルな分析②ある特定の地域についての分析――の2つがありまして、終始この2段構えで研究がなされます。具体的な研究内容は、国際社会がどんな力学で動いているのか、またその要因について、構造分析をすることになります」

永野先生が研究対象にしているのは「アジア社会」。なかでもフィリピンについての研究で知られる。

「ここのところは主としてフィリピンの経済史を研究してきました。この国は80年代初頭までは砂糖の輸出国として知られ、ASEAN諸国のなかで唯一輸出産品をもつ豊かな国、という側面もありました。ところが80年代半ばに砂糖価格の大暴落という事態が起こると、それまでサトウキビ生産地として潤っていたネグロス島などは、一転して『飢饉の島』に様相が変わってしまいました」

当時の日本の報道において、ネグロス島などフィリピンの貧困部分についての情報・分析は皆無に等しかった。

「ネグロス島について研究していた専門家が当時少なかったこともあって、日本中のNGOなどの民間団体からの問い合わせが私のところに殺到しました。人々の窮状を救うために、どんな活動をしたら良いかといった内容が多かったですね」

米植民地下フィリピン経済史に隠された新事実を発掘

神大の象徴的なモニュメント

その後も永野先生の研究は進む。1910年代後半、アメリカの植民地下にあったフィリピンにおいて、国立銀行が重大な経営危機に陥るという大事件があった。その原因として、①近代的な銀行経営手法に無知なフィリピン人を総裁に据えたこと②砂糖産業に過剰な融資をし過ぎた――などが挙げられた。要するに「悪いのはフィリピン人」の側でアメリカ統治政策のせいではないというのが当時の定説だった。

このフィリピン経済史の定説を覆すほどの研究発表をしたことで、永野先生は国際的にも広く知られるようになる。

「わたしは調査のために渡米し、まずフィリピン経済とそれにリンクする政治についての基本的な研究書を読み漁りました。そのうえでワシントンの国立公文書館を訪ねて、当時交わされた米比間の膨大な外交文書について調査しました。その結果わかったのは、フィリピンに導入した貨幣システムとその根拠となる通貨基金について、アメリカが間違えた認識をしていたことでした。要するに、当時まだ新興国に過ぎなかったアメリカが、その帝国主義的な植民地経営に慣れていなかったということですね。その失政の責任をフィリピン側に無理やり押し付けたというわけです」

こうした歴史の闇に埋もれていた事実の掘り起こしが、世界初の快挙であったことはいうまでもない。

他者に伝えられるリテラシーの構築から全ては始まる

故・網野善彦博士ゆかりの日本常民研究所

神奈川大学人間科学部の専門ゼミ演習は2~3年次学生の必修で、両学年とも合同で開かれる。先にも述べたが、同学部生は所属するコース以外のゼミも取ることが許されるようになっている。なお、4年次の卒論研究は選択となる。

「わたしの専門ゼミは2・3年生それぞれ2人ずつの計4人で、このうち2人は心理発達コース所属の学生です」

永野ゼミの最大の特徴は、ゼミ生が一番関心のあることを研究テーマに選べることである。自らの研究に対するモチベーションを上げて、研究の内容を高めるという、先生の考えによるものだ。そうしたこともあってゼミ生たちの研究テーマは、「アジア研究」「映画論」「ボランティア活動」「村上春樹論」など、バラエティーに富んでいる。

「わたしの専門領域を超えるようなテーマも時にありますが、そのときは私が学生からも学ばせてもらうという姿勢でいます。基本的な指導方針は、どんな問題、あるいは悩みでもいいから、客観的なことばで第三者に伝えられるようになること。そこまでリテラシーを高めたところで大学レベルの研究に取り組めば、おのずと自分の頭で考え、自分の足で立ち、自ら行動できるようになると信じて指導しています」

こんな生徒に来てほしい

いまの日本をめぐる社会情勢は大変な時期にあります。しかし嵐のような状況の次には、必ず新しい時代がやってくるのが歴史の必然です。その新しき時代に向けて、明るい可能性を見つける努力を大学の4年間でしてほしいですね。わたしたち教員もできるだけお手伝いしたいと思っています。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。