{literal} {/literal}
GOOD PROFESSOR

横浜市立大学
国際総合科学部

重田 諭吉 教授

しげた・ゆきち
1953年神奈川県生まれ。’76年横浜市立大学文理学部物理課程卒。’76年横浜市立大学文理学部助手。’88年同助教授。’95年同学部改編により理学部助教授。’99年同教授。’05年同学部改編により国際総合科学部教授。’06年同大学院国際総合科学研究科長。おもな著作に『計算シミュレーションと分析データ解析』(分担執筆・丸善)がある。
ちなみに先生が主宰する「重田研究室」のWebアドレスはコチラ → http://surface.sci.yokohama-cu.ac.jp/

  • mixiチェック

次世代の半導素子開発の地平を拓く

重田研究室のある3号館「総合研究教育棟」
横浜市大金沢八景キャンパスの正門

横浜市立大学国際総合科学部教授にして大学院国際総合科学研究科長の職にある重田諭吉先生。そのプロフィール欄を見てもらえば分かるとおり、先生は学部を卒業しただけで大学院に進むことなくそのまま母校・横浜市大の教員に採用されている。こんな例は後にも先にも重田先生をおいてない。

重田先生のご専門は「固体表面科学」。まずは、あまり聞き慣れないこの学問分野から説明していただいた。

「これまでの物理学は、物質の本体部分(塊)の解明が大半でした。結晶の性質や、電気伝導などの諸テーマについては、既にかなり研究が進んできました。物質の塊には必ず表面がありますが、この表面部分の解明はまだ途上といえます。塊の性質が、表面上にも維持されているのかどうかについても解明していこうというのが、『固体表面科学』ということになります」

物質本体と表面との違いを解明する「固体表面科学」

並木とシンボル時計台
金沢八景キャンパス全景

難しい物理理論などを端折って結論的にいえば、固体物質の表面は、その塊本体に比べてかなり特殊なことが多いということらしい。その固体表面の特殊性があるからこそ、人類にとって非常に応用の利く、人類未知の原理や技術がたくさん存在していることにもなる。たとえば鉄の表面に酸化膜をつくればサビ止めになるのがいい例だ。

こうした一連の技術は「薄膜技術」とも呼ばれる。それを利用した代表的なものが「半導体」になる。そこで、重田先生ご自身の研究テーマについて、もう少し詳しくお聞きした。

「現在は、超高真空状態のなかに置いたシリコンなどの表面素材に、いろいろな原子を散布して、その結晶がどのように成長していくのか等について研究しています。原子の結晶を『島』とも我々は言いますが、それらは丸型になったり星型になったりします。これを走査型のトンネル顕微鏡(STM)で観察してみますと、びっくりするほどに美しいですよ」

すでに工業的に利用されている半導体素子は限りなく小さくなって複雑化し、現行のプリント配線方式では限界に来ているといわれる。重田先生たちの研究は、それらに替わる次世代素材や方式について探るという、世界最先端に位置している。

「シリコン(高分子有機ケイ素化合物)の表面上に別シリコンの原子をまいて結晶(島)をつくり、さらにその上に金あるいは銀の原子を置いてやりますと、素材本体のシリコンではなく、島のシリコンに反応して化合物ができること――そうしたことが私たちの研究室の実験で分かってきました」

これも世界初の発見で、次世代の半導素子の研究開発に大きな道を開くとして、大きな話題を呼んだ。さらに、その「島」の大きさを自由に安定的につくる方法についても模索を続けている。

このほか重田先生が手掛けている研究プロジェクトには、①STM顕微鏡によるDNA(deoxyribonucleic acid、遺伝子の本体となる化学物質・デオキシリボ核酸)を観察して生命系のなぞに挑む研究②ナノ構造物性測定用の「Dual Tip STM」(ナノスケールのテスター機能をもつSTM顕微鏡)の試作③反射型電子線回折装置の開発④表面原子の位置を変えながらその構造解析――等々があり、じつに広範多岐にわたっている。

きめ細かな理学指導が特徴の「基盤科学コース」とは

「走査型トンネル顕微鏡」を操作する重田先生
大学正門へはこんな細い道を進む

’05年度に横浜市立大学は学部改編が行なわれ、国際総合科学部と医学部の2学部制になった。同時に国際総合科学部は学科制を排してコース制が採用された。重田先生は国際総合科学部の「基盤科学コース」(理学系)に所属する。あらためて同コースの特徴について伺った。

「この基盤科学コースは旧理学部から発展したものです。旧理学部はすばらしいコンセプトのもとに教育・研究がなされていました。現在の基盤科学コースもそのコンセプトを多分に踏襲しています。自然科学というものは、その基盤に数学があり、そのうえに物理や化学・生物などの学問群が重なる階層構造になっています。それらが次第に融合されて1つに統合されていく方向にあり、そこから物質科学という観点で、総合カリキュラムとして切り出したのが基盤科学コースということになります」

物理と化学をベースにしながら生物体までが研究対象になり、それに対応するレベルの高い教員陣がそろっているのが特徴だともいう。基盤科学コースの学生は、3年次後期から各教員が主宰する研究室入りをする。その定員枠は各研究室とも2~3人なのだが、現実には各学年から1人ずつの在籍だそうだ。

これは重田研究室でも同様らしい。ということは世界的に高名な先生からマンツーマンに近い指導が受けられるということを意味する。なんとも羨ましい限りだ。

「たしかにきめ細かな指導ができるのは事実です。そのせいかどうか、大学院まで進む学生が多いですね。3年次後期に研究室に入ってきますと、まず、自分の研究に関係する論文と、ベーシックな英文テキストの講読から始めます。それから各自のテーマで実験に入ることになります」

いまこそ技術立国ニッポンの未来を支える理学を学ぼう

重田研究室では、大学院生から学部生まで1人ひとり別々のテーマで研究実験に臨む。これも研究室メンバーが少ないからこそできることで、それぞれが数百万から数千万円もする最新の実験機器を独占して使用できる贅沢も許されている。まれに見るほど恵まれた研究環境といえよう。

「こういう環境ですので、できる限り学生自身がやりたいことを自ら積極的にやってもらうようにしています。これまでに人が研究していないことをやって、新しいことを発見してしてほしい。そのために、自分で新しい装置をつくってしまうくらいの気持ちが大事です。そんなやる気のある人を育てたいですね」

このように自主性を重視する指導方針を強調する重田先生。インタビューの最後に現役高校生に向けてこんな話もしてくれた。

「今も昔も資源小国である日本の展望を考えると、理系技術による立国が重要な前提となるのは間違いありません。日本経済を成り立たせていくためにも、いまこそ若い優秀な技術者の育成が急務なのです。そうした時代状況にもかかわらず、この国の理学教育の浸透度はいまひとつという感じが否めません。もう少し理学を身近な対象として捉えてほしい。特にこれからの日本を支えていく高校生の皆さんには、目先のことに囚われることなく、このことを真剣に考えてほしいと思いますね」

こんな生徒に来てほしい

たった1つでもいいから、人生において何かをやり遂げてみたい。自分の何かを残してみたい――そのような心構えを持つことの重要さは、21世紀初頭の、先の見えにくい時代だからこそ重要になっています。これからさらに技術立国していくために、若い人たちが成し遂げるべきことは無限にあると言ってよいでしょう。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。