早稲田塾
GOOD PROFESSOR

埼玉大学
教養学部

加地 大介 教授

かち・だいすけ
1960年愛知県生まれ。83年東京大学教養学部教養学科(科学史学科哲学分科)卒。89年同大学院人文科学研究科博士課程(哲学専攻)単位取得退学。93年埼玉大学教養部(哲学)専任講師。95年同教養学部助教授。05年より現職。主な著作に『環境のオントロジー』(共著)『穴と境界――存在論的探求』(前著ともに春秋社)『なぜ私たちは過去へ行けないのか――ほんとうの哲学入門』(哲学書房)などがある。


先生が主宰する「加地研究室」のURLアドレスはコチラ

http://www.kyy.saitama-u.ac.jp/~kachi/

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「時間」にまつわる普遍的な哲学研究

加地研究室の入る教養学部棟は改築中

教養学部だけの単科学部である埼玉大学教養学部は、学科制をとらずに5つの講座から構成されている。そのひとつ「哲学歴史講座」で教鞭を執っている加地大介教授。まずは同講座の特徴から説明していただいた。

「この講座はさらに2つの専攻(『哲学・人間システム論』と『歴史学』)に分かれ、哲学と言語学・歴史学を研究している教員が所属しています。わたしは哲学を専門として、前者の専攻の所属になります。学生はいずれかの専攻に所属することになりますが、講座内の他専攻の講義を履修することもでき、その自由度の高さが珍しいところといえましょう」

哲学歴史講座はいわゆるゼミ制を敷かない。それに替えて、3年次後期から仮の指導教員による卒業論文の予備指導が行なわれる。そして4年次になると、正式な指導教員のもと、本格的な卒論作成に取り組む。卒論の発表会は年度内に2回開かれるが、哲学の卒論発表時には哲学系の全教員が出席し、学生はその前で発表するのだという。

「同じ哲学でも教員ごとに研究している内容が違いますから、それぞれの立場から意見を述べてもらいます。そうした様々な評価や意見を参考にし、より質の高い卒論に仕上げていくわけです。といっても、必ずしもその狙いどおりに進まないこともありますが……」

そう言って笑う加地先生が哲学に目覚めたのは高校生のとき。ドイツの大哲学者ショーペンハウアー(Arthur Schopenhauer)のエッセーを読んだことが大きなキッカケとなったという。

できるだけ普遍的立場からの分析哲学・論理学

北浦和駅から続く「埼大通り」ケヤキ並木

それでは、そもそも「哲学とは何か」。

「ひとくちに哲学といっても、古今東西さまざまな哲学者・研究者によって非常に多様な考え方・立場があります。わたしはできるだけ一般的・普遍的な観点で、事物の存在性格を中心に考えていくべきと思ってきました。たとえば、鏡はなぜ左右だけを反転させるのか、というような些細な問題についてでも、『左右』という基本的概念の分析から始めて徹底的に論理的に考えていく――そうした姿勢が哲学することにつながると思っています」

あえて加地先生の研究分野をカテゴリー分けすると「分析哲学」と「現代論理学」ということになる。はたして、どんな哲学分野なのか?

「分析哲学とは現代哲学のひとつのタイプで、英語圏の国々では主流になっています。簡単にいうと、言語や概念の分析に基づきながら哲学的考察をしていくところが特徴です。個別の哲学的問題を、研究者の間でディスカッションしながら考察分析するという形式によって、主に研究されています」

「現代論理学は、文字どおり論理全般について考えるものです。それは、形而上学的(物事の本質や存在の原理を考察・直観などで究めようとすること)に、物と物とが存在する一般的な関係や形式的な関係について考えていくうえでも重要です」

過去と未来とは? 原因とは? 宿命とは?

正門を過ぎるとモニュメントがお出迎え
キャンパス全景

このうち加地先生の主要な研究テーマのひとつは「時間にまつわる存在論的諸問題」についての考察だという。その研究内容の中からこんな例も話してくれた。

「『ターミネーター2』というアメリカ映画がありましたが、あれは主人公が未来からやって来るという設定でした。言い方を変えれば過去へのタイムトラベルをテーマにしており、時間論的観点からしますと非常に興味深い内容になっています。つまり、この作品においては、過去に起きたことの原因が未来にあることになり、それが可能だといっているのです。映画スタッフはそこまで考えて製作していないのでしょうが、哲学をする者からしますと面白い命題が与えられたことにもなります」

さらに哲学における有名な大命題「親殺しのパラドックス」についても話してくれた。過去にさかのぼって自分の両親を殺害できると仮定したとき、現にある「私」という存在はどうなるのか? あるいは現に「私」が存在するからには、過去にさかのぼっても両親を殺害することはできないのか?

こうした考察については、大学に進学して一般教養課程で「哲学概論」等を選択すれば学ぶ機会が得られるだろう。興味をもった高校生のみなさんはぜひ受講してみるといいだろう。

「私の主な研究分野は、過去と未来との違いや原因・宿命などについて考察する『時間論』に代表されるような形而上学的研究だといえます」

さらに、加地先生はコンピュータープログラムへの関心も高く、「情報論理学」の講義も担当しているという。

だれにも譲れない自分だけのオリジナリティー

今も昔も学生の本分を支える附属図書館

先述したが、埼玉大教養学部の哲学歴史講座ではゼミ演習制は敷かずに、各教員が卒論指導の形で学生の指導をしていく。こうした卒論指導等で加地先生がつねに心掛けていることについて伺った。

「まず何らかのオリジナリティー(独創性)を含む研究内容であること。それにひとつでも良いから、これが自らの研究のセールスポイントであるというものが表されていることですね。また、当然のことですが、明確な問題意識のもとにテーマを立てて、筋の通った論述をして結論に導いていく――そうした学術論文としてのしっかりしたストーリーを作ることです。といっても、あまり哲学論文のスタンダードな型にばかり縛られる必要はありません。自由な発想で書いてくれたらいいと思います」

大切なのは「自ら考え出したオリジナリティー」ということに尽きるという。ただし、哲学歴史講座で学んだ者すべてが哲学者・研究者に将来なるわけではない。卒業して実社会に出れば、哲学的なテーマで論文を書く機会などそうはない。それだけに、悔いのない論文に仕上げてほしいとも熱く語る。

「哲学について自ら研究しながら学生に指導するというのは、実のところ多くの難しい諸問題がありますね。わたし自身が興味を感じていることに、学生たちが面白いと関心を寄せて共有してくれるとも限りませんしね。これも哲学に関わってしまった者の宿命でしょう(笑)。そんな中、ひとりでもいいから理解してくれる学生がいてくれたらと思って日々やっています」

最後に加地先生はそう結んだ。高校までのような既知の体系の概括的学習ではとても追い付かない、最高学府ならではの学問領域、それこそが哲学ということでもあろう。

こんな生徒に来てほしい

自らの心のうちに、一所懸命に徹底的に考えずにはいられない何かをもっている人、根本的なところまで突き詰めて考えてみたいという意欲をもっている人ですね。ただし、考えることの具体的な対象はまだ見つかっていなくても構わないとも思います。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。