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GOOD PROFESSOR

國學院大學
人間開発学部

柴田 保之 教授

しばた・やすゆき
1958年大分県生まれ。’87年東京大学大学院教育研究科教育心理学専攻博士課程単位取得満期退学。’87年國學院大學文学部教職課程専任講師。’90年同助教授。
’97年同教授。’09年より現職。現在(財)重複障害教育研究所における実践研究や「町田市障がい者青年学級」担当スタッフなど、数か所の自主的な障害児学習グループで実践活動にも携わる。
柴田先生が主宰する「柴田保之研究室 」のURLアドレスはコチラ → http://www2.kokugakuin.ac.jp/~yshibata/

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障害児(者)の「内なることば」を引き出すために

文学部の柴田研究室のある若木タワー。当日の取材はここで行なわれた
渋谷キャンパス2号館

國學院大學は、2009年4月に「人間開発学部」を横浜たまプラーザキャンパスに開設させた。教員養成を目的にした教育系学部で、初等教育学科(小学校・幼稚園教諭一種免許取得可)と健康体育学科(保健体育の高校・中学教諭一種免許取得可)の2学科から構成されている。

「人間開発などというと漠然としたイメージしか持たれない方もおられると思いますが、我々がこの言葉に込めたのは『人間の可能性を内側から開いていこう』ということです。1人ひとりの人間の可能性はどうしたら開かれるのか? そのための援助はどうしたらいいのか――こうしたことを考え研究する学部ということですね」

今週ご紹介する同学部初等教育学科の柴田保之教授はそう語る。

「この人間開発学部の特徴に、教員はできるだけ少人数の学生とひざを突き合わせて指導していくこと、さらにいえば教室の中だけに縛られずにいろいろな人と出会える実践的な教育をめざすことなどが挙げられます。そのなかで、学生自身が自らの可能性をいろいろ引き出せていけたらいいと考えています」

こう語る柴田先生のご専門は「教育心理学」「障害児心理学」。特に「障害児(者)教育」の分野に力を注がれてきたといっていいだろう。

障害児(者)のもつ「ことば」を引き出すための指導

國學院大學学術メディアセンター

その中でも特に携わってきたのが、①重度・重複障害児(者)の教育方法と表現手段の開発②知的障害者の社会教育活動と当事者活動のなかでの自己形成――という2つの研究だ。それらの具体的な内容を説明してもらうと……

「障害の重い人の中には言語を持っていない人もいるが、心の内側ではいろいろな考え方・感じ方をしているはずなので、それらを引き出していけば奥深い人間存在が見えてくるはず――わたしが障害児(者)教育に携わった当初の出発点は、そんな考え方でした。やがて、障害を持っていても、大部分の人が『ことば』を秘めていることが次第に分かってきました。そして今は、その『ことば』をどう引き出していくのかが研究の中心になっています」

障害児(者)の持つ「ことば」を引き出すための契機となる教材・教具の開発にも柴田先生は力を入れてきた。教材・教具の基本は「スイッチ関係」と「数と文字」に関するものだという。かつてはこれらを使って教えていくという面が強かったが、現在はこれらの教材・教具を提示し、障害児(者)自らがことばを表現してくるのを待つという方法に変わっているとも語る。

先生が主宰するWebサイト「柴田保之研究室」(プロフィール欄参照)には、柴田先生が関わってきた数多くの指導実践例が掲載されている。ぜひご覧いただきたい。

知的障害児(者)教育の理想を体現する手本として

渋谷キャンパス3号館

柴田先生のもうひとつの重要な研究テーマといえるのが、知的障害者の社会教育活動と当事者活動のなかでの自己形成だ。

「こちらは町田市(東京都)で『障がい者青年学級』の実践活動をお手伝いしているものです。知的障害者を主な対象に、月2回のペースで文化的な活動に触れてもらうという目的で開かれています。ここでは、①知的障害者自身にまずやってもらう②単なるレクリエーションにしないで実生活につながることをテーマにする③表現することを大切に考える――これら3つを基本方針としています」

具体的内容は、①音楽②造形③自然散策④各自の生活を語る、等々のグループに分かれての活動だ。こうしたグループ活動もただ漫然と行うのではなく、1年単位で参加者それぞれの到達目標を設定することが大切だという。さらに2年ごとに「わかばとそよ風のハーモニーコンサート」という一大イベントも催している。これがまた参加者たちの大きな目標にもなっているそうだ。

「今年も5月にコンサート開催を予定しています。原爆の被爆問題と障害者のことばの問題を中心テーマに据えたミュージカルを企画していまして、今そのシナリオ作成に入ったところです」

そう笑顔で語る柴田先生。このコンサートは今年で15回目を数える息の長い活動だ。知的障害児(者)の教育指導と研究には、強い熱意と粘り強い根気、そしてさらに深い愛情が必要だともいわれる。この青年学級とコンサート活動などはそれらを見事に体現した手本と言ってもよいだろう。

人の心を開かせるのは知識や技術だけではない

國學院のシンボル若木タワーを遠望

國學院大學人間開発学部の専門ゼミ演習は3年次学生からが対象となる。新学部でしばらく時間の余裕があるため、障害児(者)教育に関心のある学生を募ってサークル活動的なものを目指したいとして、次のように抱負を語ってくれた。

「わたしたち専門家は障害児(者)に対する知識がなまじあるだけに、先入観とか固定概念に囚われてしまうことがあり得ます。ところが若い学生たちが障害児(者)に対面しますと、それまで心を閉じていた人たちが一気に心を開いてくれるケースもよくあるんですよ。障害児(者)の心を開かせるのは知識や技術だけではないということですね」

そうした学生たちへの指導方針については……

「ほかの学問分野と違い、『これだけ学べばOK』といった項目がないのが障害児(者)教育の特徴です。大学の4年間にいろいろな人々と出会うなかで、人間としての変化が生まれてくれたらいいと思っています。とにかく新しい学部ですので、私たち教員と学生とがいっしょに新しいものを作っていきたい気持ちです」

こんな生徒に来てほしい

人と出会ったり、関わることが大好きだという人ですね。他者の痛みに共感できることが大切で、そうした感性をもつ人ですね。いま他人と関わることが苦手でも、その内部には『ことば』を引き出す才能が秘められているかもしれません。その見極めは難しいところですが、前向きな姿勢があれば道は必ず開けると思っています。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。