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GOOD PROFESSOR

東京学芸大学
教育学部 自然科学系生命科学分野

三田 雅敏 教授

みた・まさとし
1954年東京生まれ。’78年早稲田大学教育学部生物学教室卒。’83年同大学院理工学研究科物理学及び応用物理学専攻発生生物学研究指導博士課程修了。以後、基礎生物学研究所非常勤講師。帝京大学医学部助手および講師。同理工学部助教授をへて、現職に至る。著作には『新生化学実験講座 第8巻』(共著・東京化学同人)『生物学データ大百科事典 上巻』(分担執筆・朝倉書店)がある。
先生が主宰する「三田研究室」のURLアドレスはコチラ → http://www.u-gakugei.ac.jp/~bio-mita/

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生物の生殖・発生の秘密に迫る

三田研究室のある自然科学研究棟1号館
館山研修時に磯場で生物採集する学生たち

今週の一生モノのプロフェッサー、三田雅敏・東京学芸大学教育学部教授の所属は自然科学群生物学教室である。具体的には、初等中等教育教員をめざす学生たちに、理科(さらにいえば生物)について指導をしている。まずは同教室の特徴について話してもらおう。

「この教室の一番の特徴は、何といっても教員層の厚さでしょう。たとえば生物系だけでも10人からの教員がおります。これは他の国立大教育学部の生物系にくらべても3倍以上の教員数になると思います。電子顕微鏡をはじめ、実験や分析のための諸機器も充実していますし、教員・設備ともに一般総合大学の理学部に匹敵する内容になっているのが最大の特徴であり誇りです」

東京学芸大学は教育学部のみの単科大学であるが、「教育系」と「教養系」の2課程を敷く。このうち「教養系」の学生たちの大半は、必ずしも教員をめざしているわけではなく、関心のある分野の専門知識を身に付けることを目的に学んでいる。こうした学生たちと、教員をめざす学生たちとが同じ講義室・同じ研究室で机を並べて学ぶのも学芸大の特徴といえよう。

三田先生の専門分野は「生殖生物学」「発生生物学」だ。ここ数年は無脊椎動物のなかの棘皮(きょくひ)動物といわれる、ウニやヒトデの生殖細胞の形成過程と調節機構について研究してきた。

「ヒトデなどの卵(卵母細胞)は未成熟で、そのままでは受精して発生することはありません。これが正常発生するためには、減数分裂を再開して受精可能な成熟卵になる必要があります。この過程には2つのホルモンが関わっていて、ひとつが生殖巣刺激ホルモン(GSS)で、もうひとつが卵成熟誘起ホルモン(1-メチルアデニン)です」

このうち1-メチルアデニンについては過去すでに同定(化学構造の決定)がされていた。しかし、もうひとつのGSSについて世界で初の同定に成功したのは、三田先生の研究室と基礎生物学研究所、それに名古屋大学の共同研究チームであった。これらの研究を主導したのが三田先生である。

「太陽系第3惑星・地球の生物のうち脊椎動物はごくわずかな種しかありません。あとの圧倒的多数は無脊椎動物で、ヒトデも含めた棘皮動物たちは脊椎動物の祖先系にも当たります。その生物進化の過程では様々な現象が起こり得ます。我々の研究している卵(らん)成熟もそのひとつになります」
「こうした現象はどの生物も同じ化学物質が司っているかといえば、そう簡単な話にはなりません。生物それぞれによって制御する分子が違っています。何故そのようなことが起こるのか? あるいは同じ分子がそれぞれの生物において、どんな違う役割を担っているのか? そうしたことの解明がこれからの研究課題となります」

「まだまだ解明しなければならない課題がいっぱいあって、困っているくらいなんです。わたしが生きている間に一体どこまで解明できるのだろうかと(笑)」

理学研究ほどセンスが必要なものはない

正門へ続く桜並木
小金井キャンパスの全景

東京学芸大学教育学部自然科学群に所属する学部生たちは、3・4年次の2年間、それぞれの教員が主宰する研究室に配属になる。そして各卒業研究に打ち込む。三田先生の研究室でも例年4人前後の学部生を受け入れている。

「学部生の研究室活動は、新3・4年次に進級する直前の、春休みの宿泊研修から始まります。わたしの研究室では、全国各地の大学理学部の臨海実験所などをお借りして、生物の分類について実地で学んでもらいます。研究材料になるヒトデやウニの扱い方を学んだり、磯に棲息する生物を観察したりするわけです。学生のなかには教員をめざす人もおりますが、生物の分類くらいは確実に覚えておいたほうが良かろうと思ってやっています。生物担当の先生が生徒から質問されて分類についても答えられないようだと困りますからね(笑)」

3年次前期のうちは棘皮動物の生殖や発生に関する英文の文献講読を進めつつ、各自の卒業研究テーマを絞り込んでいく。そして、早い人は3年次後期から卒研をスタートさせていく。

「卒研のテーマは、学生の希望を聞きながら当人の理学研究に対するセンスも考慮して決めていきます。理学研究ほどセンスが求められものはないと思っています。ですから、私たち教員は各学生の適性・長所を見つけて、そのセンス・性格に合ったテーマを探してあげることも大切な仕事になりますね」

生き物相手の研究を楽しめるかどうか?

学芸大正門。この日は卒業式
記念撮影を待つ卒業生たちの列

そうした学生に対する三田先生の指導方針については……

「まず、科学的なものの見方をぜひ身につけて欲しいですね。学校の先生など長年していますと、その過程より結果ばかり重視する傾向が強くなりがちです。理科の実験指導においても、『この実験をすると結果こういうことが分かります』などと、拙速にあらかじめ答えを明らかにしてしまうことになりがちです。授業の進行の効率は上がるかもしれませんが、それでは実験をする意味がなくなってしまいます」

そうした効率優先の理科指導こそが、今の子どもたちの「理科離れ」現象を引き起こしてきた原因ではないかとも嘆く三田先生。きちんと実験をしてみることで、その結果はどうなるのだろうとワクワクしながら展開を追っていく。それが実験の醍醐味であり、科学的なものの見方にもなるというわけだ。さらに先生はこうも語る。

「そもそも我々の研究というのは生き物が相手ですから、アルバイトがどうであるとか、サークル・部活動がどうであるとかの学生側の都合より、生き物のほうの都合を優先させなければなりません。そうすると土曜・日曜や、長期休暇中であっても研究室に出向いて、実験や観察をしないといけない場合も起こってきます。そうしたことが億劫な人には生物科学系の研究には向かないといって良いでしょうね」

実験材料となる生物採集についても、「やらねばならない」といった義務感よりも、それ自体を愉しみながらできる人であることが必要条件だという。インタビューの最後に、そもそも理学的センスを磨くにはどうしたらよいか? この点についてこう話してくれた。

「たとえば実験材料となる生物はどこに行けば得られるのか? それらの棲息場所の実際について知ることに始まって、月の満ち欠けや海の潮の干満の関係など、あまたある自然の現象についても漫然と見ていてはダメです。つねに『なぜだろう』『どうしてだろう』と疑問に感じて、それを解明しようという気持ちが大切になります」

こんな生徒に来てほしい

東京学芸大といいますと、教員の養成だけを目的とする大学だと思われがちですが、何が何でも教員を目指さなければならないわけではありません。とくに私たち理学系の研究室には、総合大学の理学部と遜色ない設備も整えられています。ですから研究者や企業研究所などに将来的に進むことも可能ですし、そうした研究職に進んだOBたちによるネットワークも充実してきました。理学系進学を目指している人は、ぜひ進路選択肢のひとつに東京学芸大も加えてほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。