早稲田塾
GOOD PROFESSOR

立教大学
経済学部 経営学科・大学院ビジネスデザイン研究科

児玉 桂子 教授

児玉 桂子(こだま・けいこ)
工学博士。日本女子大学家政学部住居学科をへて、日本大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。東京都老人総合研究所研究員・カリフォルニア大学バークレイ校客員研究員をへて、1992年より現職。著作に、『長寿時代の住まいの選択―働く女性2500人のメッセージ』(中央法規出版)、『高齢者の住環境』(第一法規出版)など多数

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福祉研究のキッカケは東京パラリンピック

1946年に創設された日本社会事業大学は、社会福祉を専門的に学べる日本の大学のパイオニアだ

日本全国を熱狂させた東京オリンピックが閉幕して2週間後、東京・代々木で日本初の大会が幕を開けた。22ヵ国・369人の選手が参加した東京パラリンピックだった。

「不可能を可能にするパワーがありました」

学生のボランティアとして参加した児玉桂子先生は、当時をそう振り返る。1964年といえば、東京中が突貫工事に明け暮れていたころである。障害者を考慮して建築を設計するという発想なんてとんでもない。バリアフリーという言葉さえ、日本では聞かなかった。そんな時代である。

今日も駅やバス停などあらゆる場所に段差があり、車椅子などの移動は大変なのだ。さぞかし当時のボランティアも困っただろうと思いきや、実態は違ったらしい。

「みんな楽しんでいました。車椅子の精神科医を囲んで、勉強会が開かれたりしていましてね。いろいろ問題はありましたけれど、解決が不可能だとは思ってもいませんでした」  この7日間のボランティア経験が、先生の人生を変えた。環境と福祉の研究にのめり込むキッカケになったのである。

高齢者の8割が喜ぶ住宅改修のポイント

大学図書館の蔵書はなんと20万冊。戦前の貴重な資料なども保管しており、社会福祉関係の図書館としては、日本一の規格を誇る

いま先生が取り組んでいるのは、高齢者の住宅改修だという。

「日本の住宅は、高齢者向きではないですね。ふすまの幅は狭くて車椅子では通れません。玄関には約45センチもの段差がありますから、車椅子や杖の高齢者の方には使いにくい。それだけに住宅改修と聞くと、新しい設備を導入した大規模な改造を想像してしまいがちです。しかし実際には、部屋を整理して、少しだけベッドの位置を変える。そんな工夫で、ずいぶんと暮らしやすくなります」

玄関の上がり口に足置き台を置く。足元を照らすライトを玄関や階段に取り付ける。トイレの内開きの扉を外開きにする。一つひとつの改修は大規模でもなく、お金もほとんどかからない。しかし高齢者を介護していたホームヘルパーの声から拾った工夫の数々は、高い評価を受けている。先生がまとめた3冊の冊子は、なんと2万部も刷られ、売れ続けている。

「住宅の改造は、高齢者にとって非常に有効です。アンケート調査の結果によれば、住宅改造した高齢者の8割以上が『改造で動作が楽になった』と答えていますから。これはすごい数字だと思いますよ」

8割が満足という結果に、驚いた塾生も少なくないだろう。福祉で思い浮かべるのは、やはりヘルパーによる人的介護。「人」で支えるのが福祉だと思いこんでいる大半の日本人にとって、住宅改造の効果は予想外に思えてしまう。しかし他人の力を借りないサービスだからこそ、高齢者本人の満足度が高いのだ――と先生は教えてくれた。

たとえば湯船への出入りが自由にできなくなると、老人は入浴介護を頼まなければならない。ところが自宅を改造して、一人で入浴できたらどうだろう。自信も取り戻すし、何よりゆったりと風呂に浸かれるはずだ。少しずつ体が動かなくなって、一番歯がゆい思いをしているのは本人なのだから。

痴呆症高齢者向け環境改修のパイオニア

情報センターには、肢体不自由者のためのパソコンも置かれている。ワープロ機能を使ってレポートを仕上げている学生たちの姿も

また住宅の改造は、介護を受ける高齢者だけに有効なのではない。介護をする側も恩恵を受ける。スペースがなく不自然な姿勢で老人を持ち上げるといった「無理」を家族をはじめ介護者がしなくてよくなるからだ。

さらに今年、痴呆老人のための住宅改修の冊子も先生は発行するという。膨大なアンケート調査によって現場の声を集めただけに、またも本当に役立つ情報だけが集められている。介護しやすくなるのはもちろん、本人の能力を維持するための工夫まで施されている。 「よい福祉というのは、本人の可能性を引き出します。日本にもすごい福祉施設があるようになりましたが、北欧などに比べるとまだまだでしょうね。現地に行くと、まさに眼からウロコが落ちる思いですから(笑)。人間の可能性の素晴らしさを感じます」

東京パラリンピックで、先生は「不可能だと思わなかった」という。そして今でも、「不可能だと」思っていないようだ。人間のもつ可能性を、先生は信じ続けている。

こんな生徒に来てほしい

いまの時代、既存のレールに乗っていくだけじゃダメでしょ。だから好奇心をもっている学生に来てほしいのです。みずみずしい感性で様々なことに興味を持ち、困難を乗り越えていってほしいですね。さいわいウチの学生は、考える力のある人が多いから助かっていますよ。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。