早稲田塾
GOOD PROFESSOR

成城大学
社会イノベーション学部 心理社会学科

新垣 紀子  教授

しんがき・のりこ
1965年大阪生まれ。’90年大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程修了。’90年日本電信電話株式会社(NTT)研究所入所。’05年成城大学社会イノベーション学部助教授。’08年より現職。博士(情報科学)。日本認知科学会論文賞(’99年)。ヒューマンインターフェース学会論文賞(’06年)。著作に『方向オンチの科学 迷いやすい人・迷いにくい人はどこが違う?』(共著・講談社)がある。
新垣先生が主宰するWebサイトのURLアドレスはコチラ → http://www.qomo.org/

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認知科学の視点から「方向オンチ」のなぞに迫る

新垣研究室のある3号館建物
成城大学正門

成城大学には社会イノべーション学部という新しい学部がある(’05年開設)。
これまで、「イノベーション(技術革新)」といえば科学技術、工業技術の観点から語られることが多かった。これらの観点に、さらに人間や社会の側からの視点を加え、学際的・包括的にとらえて研究をしていこうという興味深い学部だ。

同学部は政策イノベーション学科と心理社会学科の2学科から成る。
今回紹介する新垣紀子先生はその心理社会学科の所属である。
まずは社会イノべーション学部心理社会学科の特徴から伺った。

「この学科は、主として社会学系の教員と心理学系の教員で構成されていまして、いわゆるイノベーションが社会に普及していく仕組み、あるいはイノベーションを起こすための組織のあり方、人間や人間社会に及ぼす影響、さらには人のやる気を引き出す方法論など、多様な研究がなされています」

また、両学科の垣根が低くて双方の科目履修が自由であること、学部全体で英語学習に力を入れていること――
これらのことも特徴としてあげられるだろう。

「この学部では知識の習得とともに、問題解決能力を養うことに力を入れています。それこそが一番の特徴になるかもしれませんね」


新垣先生自身のご専門は「認知心理学」と「認知科学」、それに「ヒューマンインタフェース」である。
まずは認知心理学と認知科学の研究について説明していただいた。

「現代の人々はさまざまな情報に囲まれて生活していますが、わたしは、その情報をどのように活用するかについて研究しています。たとえばはじめての場所に向かって歩くとき、街にあふれる情報からどれを選択して目的地に到着しているのか? あるいはインターネットに代表される情報空間における、目的情報へのアクセス方法や問題解決の方法について、さらに日々変化していく情報の変化の様子など――これらについて調査研究しています」

状況に応じて情報を取捨選択する経験を重ねることが大切

成城大学のキャンパス風景
キャンパス内にある「成城池」

これらのテーマについて、特にいわゆる「方向オンチ」といわれる人、また最新の高機能機器類の操作が苦手な人(機械オンチ)を例に研究してきたことも、新垣先生独特の着眼点といえる。

「この研究室がある建物(成城大学3号館)でも、はじめて訪れる人のなかには迷われる方が結構いるんですね(笑)。多くの人が迷われる場所には、貼り紙で案内が出されることになります。しかし、その案内は時の経過とともに内容を変え、場所を変えて掲示されていきます。その変わっていく様子を追いながら、この建物の空間利用の変化と、それを利用する人々との関係のどこに問題があるのかなどを調べています」

ユニークかつ興味深い研究内容といえよう。
大学などでは、大勢の学生について、短時間で混乱なく教室間移動をさせる必要がある。
新垣先生自身、こうした個人的な興味から研究をスタートさせたとも話す。
日常的・個人的な視点がまた、重要な研究ともなり得るのだ。

「方向オンチとか機械オンチといわれる人は、自分の置かれている状況がうまく把握できなかったり、周りにある情報をうまく利用できなかったりしているケースが多いようです。方向オンチを例にしますと、住宅街で迷い、東京のようなビルの多い大都市でも迷うような人がいます。住宅街と大都市とでは利用する情報を変えなければならないのに、その切り替えが上手にできない人が方向オンチといわれる人になりやすいわけです」

それらの解決策として、それぞれの状況に応じて情報を取捨選択し、いろいろなケースにおける経験を重ねることが重要だという。
高機能機器についても同様に、経験を重ねて機器操作に慣れるより方法がないそうだ。

さらに新垣先生のもうひとつの研究テーマである「ヒューマンインタフェース」については――

「これまで、IT(Information Technology)を中心とする情報機器類は利便性の追求を主眼にしてきました。しかし、今後は人間の側(使い勝手ですとか、いかに人に優しいかなど)への視点がますます重要になっていくでしょう。それらの研究を行なう学問分野となります」

これは、まさに社会イノベーション学部の理念そのものに沿った研究テーマとも言えよう。

日ごろから自らテーマを見つけようとする姿勢の大切さ

前日・学園祭の後かたづけに追われる学生たち

成城大学社会イノべーション学部の専門ゼミは3年次と4年次が対象である。

「3年次のゼミ演習は研究論文講読から始めて、まず研究の方法を学んでもらいます。それから3~4人のグループでグループ研究に入ります。4年次は1年間かけて卒業論文の作成に集中してもらいます」

それぞれの研究テーマは、3年次は各グループで、4年次はゼミ生それぞれが個別にテーマを立てて研究に挑む。
具体的にはどんなテーマの研究がされているのか? 新垣先生が話してくれた。

「昨年度の卒論にこのようなものがありました。近年JRや私鉄の駅の改修が盛んでユニバーサルデザイン化されていますが、本当に利用者にとって便利で使い勝手のよいものになっているのかどうか? また最近の公共トイレには多くの機能を備えたものが増えて、トイレ空間デザインも大きく変化していますが、利用者はこの変化に上手に対応してそれらを使いこなしているのか?」
「これらの卒論テーマをこちらから提示しなくても、ゼミ生それぞれが自分で研究したいことをもっている例が多いですね。わたしから言われなくても調査を始めたり、みんな好奇心が旺盛で行動力があり、ゼミ全体が生き生きとしていますよ」

この種の調査研究には現地調査・フィールドワークがつきもので、それもゼミ活動を活発にさせているようである。
あらためてゼミ生たちに対する新垣先生の指導方針については――

「調査研究では、まずは多くのデータをできるだけ集めて、それらを詳しく分析し結論を導き出すようにと指導しています。さらにいえば、常に課題を見つけるように努力する――このことを日ごろから強調していますね。そういう人は、社会に出てからも常に仕事を見つけて他の人たちを引っ張っていけるようになりますしね」

こんな生徒に来てほしい

日ごろから様々なことに疑問をもって生きている人。
なにか失敗した時でも、ただ「失敗した」だけで済ませるのではなく、その原因を追究するような人。
こうした学生ならさらに良いですね。
問題の背景には、ヒトという生物がもつ認知的な問題も隠されていたりするわけです。
それらを自ら発見し追究するようにしないと、何の解決にも至りませんし、イノベーションにもつながりません。
常にそういう意識を持ち続けることが重要だと思います。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。