早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京大学
農学生命科学研究科

嶋田 透 教授

しまだ・とおる
1959年東京生まれ。’87年東京大学大学院農学系研究科農業生物学専門課程博士課程修了。’87年がん研究振興財団リサーチレジデント入所。’88年国立予防衛生研究所衛生昆虫部研究員。’90年東京大学農学部助手。’95年同助教授。’96年同大学院農学生命科学研究科助教授。’04年より現職。主な著作に『最新応用昆虫学』『昆虫生理生態学』(前著ともに朝倉書店)『東京大学公開講座76「ゲノム命の設計図」』(東京大学出版会)などがある(著作はいずれも共著)。
嶋田先生が主宰するWebサイトのURLアドレスはコチラ→
http://papilio.ab.a.u-tokyo.ac.jp/bioresource/shimada/index-j.html

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カイコ遺伝子研究から新医薬品・蚕糸が生まれていく

嶋田先生の研究室が入る農学部3号館
伝統を誇る農学部3号館入り口

昆虫、とくにカイコ(蚕)の遺伝子レベルの研究におけるわが国第一人者の登場である。
東京大学大学院農学生命科学研究科(学部は農学部応用生物学専修を担当)の嶋田透教授が今週の一生モノのプロフェッサーだ。
まずは、先生が中心となって指導されている農学部の応用生物学専修についてお話しいただいた。。

「この応用生物学専修は東京大学農学部で最も古い専修のひとつで、1893(明治26)年に帝国農科大学農学科に農業生物学科として開設されました。その後’96年に大学院重点化による改組があって、現在の専修名になりました。この専修で教授されているのは、作物学をはじめとした、栽培学・園芸学・育種学・生物測定学・植物病理学・応用昆虫学・昆虫遺伝学・植物分子遺伝学などで、農学の中心的な部分を広くカバーしていると言えます」

さらに、東大応用生物学専修での具体的な指導内容については――

「農業生物を対象にした基礎教育と、その基礎に基づいた農業や環境の応用についての教育になります。つまり田んぼと畑、それを取り巻く環境など、農学の中心的なことについて、植物から動物・昆虫・微生物に至るまで学べるのがこの専修だといえます。農作物の主たる研究材料はイネ、昆虫ではカイコが対象です」

東大昆虫遺伝学研究室が提供したカイコから全ゲノムは解読された

東大弥生キャンパス正門
東京大学弥生キャンパス点描

嶋田先生ご自身の専門は「昆虫遺伝学」と「分子生物学」である。
先生が主宰する「昆虫遺伝学研究室」は、1893年の帝国農科大学開設と同時に置かれた、故・佐々木忠次郎博士の研究室の衣鉢を継ぐ伝統ある研究室だ。
佐々木博士はニッポン昆虫病理学の黎明期の泰斗として知られる。

「我々の研究室には『昆虫遺伝学』と『昆虫病理学』の2つの流れがあります。わたしが研究しているのが昆虫遺伝学のほうで、昆虫病理学については准教授の勝間進先生が中心になって研究しています。その双方とも共通に研究対象にしているのはカイコです。病理学のほうは、ウイルスについて(とくにバキュロウイルス)の研究を主にしています。このウイルスはカイコ養蚕に重大な病害をもたらします。が、その一方で優れたバイオテクノロジーのツールでもあって、これを使った動物用インターフェロンなど医薬品への実用が始まっています。ヒトのための医薬品への応用も近いとみられています」

これは最近の昆虫遺伝学研究室の大きな成果のひとつだ。
もうひとつの研究の流れは嶋田先生の昆虫遺伝学である。

「地球上の昆虫の種類は400万種とも500万種ともいわれ、その多様な形態や生態に至る進化の過程に興味があって研究しています。わたしが研究材料にしているカイコについては、先年、世界中の研究者の協力によって全ゲノムの塩基配列の解読が終わりました。この解読に用いられたカイコは私たちの研究室が提供したものです。これは何世代にもわたる交配を繰り返すことで作り上げた、個体差の少ないカイコの純系に近い品種になります」

ところで日本近代化の基礎を支えた、かつてのニッポン主要産業・蚕糸をめぐる国際市場はいまや中国とインドに席巻され、日本産の蚕糸が占める割合は世界の1%以下にすぎないという状態にあるという。

「そのなかで日本の蚕糸業が生き残っていくためには、高機能をもった蚕糸やバイオ材料の開発をしていかなければなりません。そのために解読されたゲノム情報からカイコの形態や行動がどうコントロールされているのかを解明し、新たな開発につなげるようにしたいのです。現在フラボノイドという色素を含んだ黄緑色の糸で、紫外線の遮蔽効果や抗酸化作用に優れた蚕糸の開発に取り組んでいます」

この世界初の開発は、じつは成功目前の段階にあるとも教えてくれた。
今後もカイコの生態解明とともに、新機能をもった蚕糸や医薬品・農薬などの開発への期待がかかる。

自主性・積極性そしてコミュニケーション能力を身につけよう

樹木の多い東大弥生キャンパス

東京大学応用生物学専修で学んでいる学部生は、4年次になると各教員が主宰する研究室入りをして卒業研究に臨む。
各研究室とも受け入れる学生は3人ほどで、嶋田先生の研究室でも同様である。

「学部生は4年生の4月に研究室入りをしますが、遅くとも5月初頭までに卒研のテーマを決めてもらいます。というのもカイコの飼育のピークが5月だという事情があって、ほかの研究室よりは少し慌ただしくなります。研究のテーマについては、カイコあるいは蛾などの鱗翅目(りんしもく)などから、なるべく当人の希望に添えるようにという方針で決めています。そのほうが学生さんのモチベーションが上がりますからね」

あらためて嶋田先生が学生指導で心掛けていることについては次のように語る。

「いまの日本の教育システムですと、学生さんは大学の3年生まで受け身の教育を受けざるを得ません。4年生になって初めて本来の研究に向かうことになります。そこで自ら問題テーマを発見し、自ら解決する能力、そうした自主性を養ってほしいですね。それにコミュニケーション能力も育てたいと思って指導しています」

最後に、現役高校生に向けてこんな話もしてくださった。

「実際に指導する我々の側から申しますと、基礎的な知識ですとか原書の文献を読みこなす語学力などは、高校までであらかじめ備わっているという前提で指導しています。そうしたリテラシーが欠けていると、スタートからつまずいて大きな差がついてしまいます。私たちの分野で学ぼうというのでしたら、生物学の基礎知識やある程度の英語能力はぜひ身につけてきて欲しいですね」

こんな生徒に来てほしい

学問とか研究というものは、他人に強制されてするものではなく自分からするものです。
大学に進学するからには、何を学び、何を研究するのか、できるだけ早い時期に決める必要があります。
大学というところは単なる器ではありません。
たくさんの不思議さと面白さに満ちているところです。
ただ、それを傍観していては何も身につきません。
自ら飛び込んで関わってみる積極性が必要だろうと思います。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。