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GOOD PROFESSOR

横浜市立大学
生命ナノシステム科学研究科

立川 仁典 教授

たちかわ・まさのり
1967年東京生まれ。’95年早稲田大学大学院理工学研究科化学専攻博士課程修了。’95年早稲田大学理工学総合研究センター講師(専任)。’97年日本学術振興会特別研究員。’00年理化学研究所基礎科学特別研究員。’03年横浜市立大学大学院総合理学研究科助教授。’05年同大学学内改組により大学院国際総合科学研究科準教授。’06年同教授。’09年より現職。
文部科学省科学技術賞(若手科学者賞)で大臣表彰(’07年)。
著作は『化学結合論』(化学同人)が近刊予定。
立川先生が主宰する「量子物理化学研究室」のURLアドレスはコチラ →
http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~tachi/TOP/top.html

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世界的研究ラッシュの奥義「量子物理化学シミュレーション」

立川研究室の入る理科館(2号館)
横浜市立大学金沢八景キャンパスの正門

横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科の立川仁典教授(学部は国際総合科学部基盤科学コースを担当)の研究成果には、世界初とか世界一という冠がいくつも付くものばかり。

それら世界的研究の数々について伺う前に、まずは国際総合科学部で担当している基盤科学コースの特徴から説明いただこう。

「この基盤科学コースでは、物理と化学・生物までを含めた境界領域において研究をしています。そのため学部の1年次から物理や化学・生物の基礎をしっかり身に付けていくカリキュラムになっています」

21世紀を迎えて、現代最先端の研究対象はますます各科学分野の領域が複合したものが多くなっている。
従来の各学問カテゴリーだけの知識では対応できなくなっているからだ。

「幅広い基礎知識について学部でしっかり学び、さらにその先にある大学院の生命ナノシステム科学研究科に進んで、生命や材料の研究に励んでもらうのが理想的です」

横浜市立大学基盤科学コースの大学院進学率は8割にも及ぶという。
そのカリキュラムも、学部から大学院修士課程までの6年間の教育を想定して組まれているらしい。

さて、世界的な研究成果を輩出しつづける立川先生自身のご専門はというと、「量子物理化学の計算科学シミュレーション」である。

「自然現象をサイエンスで理解したり予測したりするのは、以前は化学・生物に代表される実験、さらには物理・数学に代表される理論によってなされてきました。ところが、理論というのは基本的に紙に計算式で表すため、実験を再現するためには非常に複雑になってしまう傾向があります」
「これをモデル化させてシミュレーション(模擬実験)してみようという試みが『計算科学シミュレーション』です。タンパク質などの微細な生体分子のなぞを解き明かしたり、新たな機能性材料を分子設計する際にコンピューター(計算機)を積極的にツールとして使ったりする試みのことです」

IT上のシミュレーションであれば、短寿命(あるいは長寿命)のものや超高圧・超低温の世界、さらにはダイオキシンなど危険物質についても科学的に扱えるメリットがある。
これこそが、立川研究室で続々と世界的な研究成果を生み出す奥義でもあったのだ。

「計算科学シミュレーション」の研究課題は無限に広がる

学生たちの憩いの場でもある中庭
「市大交流プラザ」(右建物)と池

「たとえば、量子物理学レベルのミクロ世界において、物質はどのくらい安定的に存在し得るのかという量子力学を使った『変分エネルギーのシミュレーション』というものがあります。その結果、これまでの理論で考えられていたものをはるかに超えることが分かってきました。これは私たちの研究室の成果で、現在の世界記録にもなっています」
「また、水素の原子核を精密に取り扱う『経路積分法』も開発しまして、こちらも世界記録を樹立し現在も記録更新中です。さらに、人体に不可欠な『シアリル糖鎖』という、砂糖を2つつないだ化学合成物質が存在します。実験ではどのような仕組みでつながるのかは不明でした。そこで私たちがシミュレーションしてみますと、体内ではタンパク質にポケットのような空間があって、そこに糖鎖がハマって反応が生じることが分かってきました。これも世界初の解明でした」

さらに立川先生はこんな話もしてくれた。

「最新の携帯電話に搭載されているコンピューターは、15年前のスーパーコンピューターと同じ機能だといわれています。15年前に数百億円したものが、いまは千円ほどで入手できるわけです。ということは、現在開発中の8万CPUの次世代スーパーコンピューターも、15年ほど後には数千円台で入手できることになります」
「では、15年後に8万CPUのコンピューターを使って何ができるのか? 何をすべきなのか? 高性能CPUを無駄なく生かして並列化計算のできるソフトウエアやシステムを開発し、新たな領域をシミュレーションの世界に引き込むこと――それこそがその答えだとわたしは思います。いま学生諸君の世代には、そうしたことが求められているといえます」

いまや物理・化学・生物をはじめ現代科学の境界領域は、20世紀と比べられないほど広大で、しかも未だかつてないスピードで広がりつづける未知の領域となりつつある。

「それだけに計算科学シミュレーションが今後解明すべきテーマは膨大にあるのです」

それは、世界的研究を連発してきた立川先生自身の前にも無限に広がっているのであろう。

「世界一の卒業研究」めざしてリアルに行動していこう

文科省科学技術賞メダルと立川先生

横浜市立大学「基盤科学コース」での、学部生の研究室配属は3年次後期からになる。
立川研究室でも例年2~3人の学部生を受け入れている。
3年次後期のあいだは数学や物理・化学の基礎を学び直すことになる。

「そのためのゼミを週3回開いています。そして3年次の学生には自ら学んだものを我々教員と先輩学生の前で発表してもらいます。きちんと人前で発表するためには『120%の理解』が必要ですから、みんな本気で勉強するようになりますね。そしてその司会役として4年次の学生を抜擢します。彼らは3年生以上に理解しておく必要がありますから、なお大変になってきます(笑)」

4年次に進学すると卒業研究に入るが、ひとり1テーマで「世界初の研究」というのが原則だ。
なお立川研究室では、先述した3年次学生のためのゼミのほか、4年次学生と大学院生を対象にした英文論文ゼミと、全員参加の全体ゼミ演習もある。
そうした学生指導の方針については――

「つねに世界初あるいは世界一の研究をめざすこと。また我々のシミュレーションはあくまでバーチャルな世界でのことですから、実際の実験に触れる機会があったら進んで参加するように心掛けること。ぜひ若いうちに海外体験をしておくこと。そして何より肝心な科学のセンスを身に付けることですね」

最後にエピソードをひとつ。
学部3年次のシミュレーション実験の授業では、複数のコンピューターを並列化して使用するが、以前は学内の電源容量では電力が賄えなかった。
そこで立川先生はキャンパスに隣接する電車の車両製造工場と交渉し、その工場から電力を分けてもらって実験の授業を続けてきたのだそうだ。

こんな生徒に来てほしい

いろんなことに果敢に挑戦するバイタリティーのある人ですかね。
どんどん世界のだれも分かっていないことを究明し、世界のトップワンをめざしてほしい。
いま受験生のみなさんが学んでいるのは数学や物理・生物など縦割りの教科学習になるのでしょうが、最先端の分野ではそれらサイエンスの複合した世界を探求しています。
ですから受験科目にあるなしに関係なく広く学んでいてほしい。
そして、大学で最先端のものに挑戦できるよう準備していてほしいと思います。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。