早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京大学
経済学研究科

馬場 哲 教授

ばば・さとし
1955年東京生まれ。’88年東京大学大学院経済学研究科第二種博士課程単位取得退学。’87年日本学術振興会特別研究員。’89年東京大学経済学部助教授。’96年同大学院経済学研究科助教授。’98年より現職。この間’97年独ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学歴史学部客員研究員。’03年英レスター大学都市研究センター客員研究員。
主な著作に『ドイツ農村工業史―プロト工業化・地域・世界市場』『西洋経済史学』(共編・前著ともに東京大学出版会)『都市化の比較史―日本とドイツ―』(共編・日本経済評論社)などがある。
馬場先生が主宰するWebサイトのURLアドレスはコチラ→
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~sbaba/index.htm

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「日本語プリズム」を通しての西洋経済史研究

馬場研究室の入る経済学研究科棟
東大経済学部へは赤門からが近い

東京大学経済学部には、他大学にはない一大特徴があるという。
東京大学大学院経済学研究科教授(学部は経済学部を担当)の馬場哲先生の話である。

「東京大学経済学部には『経済史専攻』というのがありまして、この教員グループには専任6人・客員1人の計7人が在籍しております。このように経済史だけが独立して存在するのは東大だけではないかと思いますね」

今週の一生モノのプロフェッサー馬場先生も、この経済史専攻の教員グループの一人である。

そんな先生のご専門は「西洋経済史」だ。
おもに研究課題にしているのは、①ドイツ近代都市史②比較近代都市史③日本における西洋経済史研究の意義――の3つである。
まずは①の「ドイツ近代都市史」から説明していただいた。

「ヨーロッパ各国の工業化は、中世末から近世にかけて都市部から農村部に移行していきます。これは、ギルド規制からの自由や動力源としての水力エネルギーを求めたからです。やがて産業革命によって蒸気機関が発明され、工業の拠点が都市部へと戻っていくことになります。私はこうした都市の変遷について、ドイツのフランクフルトを例に経済の切り口から研究しています」

イギリスなどにくらべ国家の統一が遅れたドイツでは、そのぶん中世以来独立性の強い都市の行政機能が発達した。
なかでもその先端だったのがフランクフルトなのだ。
同市の都市行政や都市計画・インフラ整備などは、現代社会の問題を研究する絶好のフィールドとなるらしい。

近代都市史の比較研究から現代都市問題の糸口が見えてくる

東大本郷キャンパス点描

さらに第2の研究テーマとなるのが「比較近代都市史」研究。
こちらは、19世紀末から20世紀初頭にかけてのドイツやイギリス・日本の都市における、都市計画を中心とした比較研究だ。

「この時代、各都市は国を超えて影響し合いながら発達を遂げます。ただ都市計画については、ドイツもイギリスもほぼ計画どおりに進展しますが、日本(関東大震災後の東京がその典型)だけは計画中途で頓挫してしまいます。これは欧州各国では土地の公益性が重視されるのに対し、日本では土地所有者の利害が強い傾向があるからです」

国民性の違いが都市発達の型の違いとなって現れてきたのだという。
比較近代都市史研究のための調査では、ドイツやイギリスまで直接赴いて、それぞれの都市の文書館に保存されている当時の行政文書にあたって調べる。
そして、丹念な調査で得られた研究成果が次々と蓄積されていく。

こうした西欧の経済史を日本の学者が調査研究することの意義について考えるのが、第3の研究テーマである。

「この国が屈指の経済大国といわれるまでになったのは、西欧諸国に対する強い関心や好奇心を保ちつづけ、その知見をフィードバックさせるという努力があったからです。いま大学教育でも世界標準に沿った国際化などか叫ばれていますが、わたしは何から何まで欧米と同じ土俵でなければならないとは思っていません。西洋経済史の論文を日本語論理のプリズムを通して日本人のために発表することも意義のあることだと考えています」

ここにこそ自らの研究の意義を見い出しているとも語る。

時流にばかり乗らずに自らの感性を信じて一生モノの学びを

懐かしい雰囲気の本郷通り沿い商店街

東京大学経済学部のゼミ演習は3・4年次の学部生が対象である。

「3年次のゼミではテキスト輪読から始めます。初期のころは外国の都市史の原典テキストをよく選んでいました。しかし、ここ数年は経済思想史のほうにシフトしています。今年度は、ハーバード大学の白熱教室(NHK教育番組)で評判のサンデル教授によってもよく言及されるロールズ(John Rawls)の『公正としての正義:再論』を読んでいます」
「これは哲学の本ですから難解なところもありますが、ゼミ生はみんなよくついて来てくれています。都市史を勉強していると都市の公共性が問題になりますが、その背景をたどっていくと社会哲学や政治哲学へと行き着き、さらにそれが経済学など社会科学とも深く関係していることが分かってきます」

テキスト輪読は11月ごろまで続き、それから卒業論文の準備に入る。
卒論(ちなみに同学部では卒論は必修ではない)のテーマは馬場先生の守備範囲であれば原則自由という。
なかには西洋経済史や経済思想史からやや外れて、現代日本における都市問題の各論について研究テーマに選ぶゼミ生もいるが許容しているそうだ。
あらためて馬場先生なりの指導方針については――

「就職に有利な学科や科目を選択するなど、時流に乗るのが上手なタイプの人が多いなか、自らの感性を大切にしてあえて経済史を学ぼうという骨のある学生もいてくれて、わたしとしては心強い安心材料になっています。若い人がいま主流の思想に敏感なのは当然のことですが、その考え方だけに左右されてはいけません。古いものを含めていろんな考え方を突き合わせて、そこから自分なりの考え方をまとめていくことが重要なのです」

最後に馬場先生からこんなお話も伺った。

「以前は本学経済学部にも外国書講読の授業があったのですが、数年前のカリキュラム改革でなくなってしまいました。その影響からか、原書を読む学生が少なくなった気がします。難解なものでなくてもいいですから、ぜひ原書に挑戦してほしいですね。さらに日本語のものも含めて、もっと書籍を購入して読む習慣をつけてほしい。図書館から借りるのではなく自分で購入する。そのことにこそ意味がありますから」

こんな生徒に来てほしい

東京大学経済学部に入ってくる学生までもが就職のことを強く意識する時代になって久しくなりました。
ただし最高学府で学ぶ重要な意義は、就職に直結しないことを学ぶ唯一最後の機会でもあることを知ってほしいですね。
大学にはいろんなメニューが用意されています。
あまり一つのことに凝り固まらないで、それこそ一生モノの勉強体験をしてほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。