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GOOD PROFESSOR

法政大学
国際文化学部

稲垣 立男 教授

いながき・たつお
1962年富山県生まれ兵庫県育ち。’90年多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻修士課程修了。’03年稚内北星学園大学情報メディア学部助教授。’07年法政大学国際文化学部准教授。’08年より現職。
’00年英ロンドン大学ランゲージ・センター パブリック・アート・プロジェクトで作品制作。’01年米ロサンゼルス・インターナショナル・アート・ビエンナーレに参加。
「稲垣立男研究室」のアドレスはコチラ→
http://inagaki-seminar.blogspot.com/

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庶民の暮らしを丸ごとアート化してみたら

稲垣研究室が入るボアソナード・タワー
法政大学正門からのアプローチ

法政大学国際文化学部の稲垣立男先生は、大学教授であるとともに美術アーティストとしての顔も持つ。
稲垣先生の作品の特徴に、市井に暮らす無名の市民や小さな集落(地域コミュニティー)・施設などを取り上げ、それを仮設の博物館や展覧会場として丸ごと提示するという点がある。

「わたしと他者が1対1で向かい合った時、そこから何が生まれるのか? それが作品の基本的なコンセプトになります。そのキッカケとなったのは、’01年に米ロサンゼルスで仕事をしたときに、アトリエの近くに住むタピーさんという老人と知り合ったことでした。毎日のようにやって来て自慢話をしていく、非常におしゃべりな彼の人生を実験的作品に仕立てて発表したら面白いかもしれないと思い立ったわけです」

タピー老人から聞き出した人生の来歴とそれにまつわる写真や記念の品物を展示し、稲垣先生は「タピー博物館」と名付けて現地で公開した。

「この博物館展示は、日ごろからタピーさんをよく知っている周辺の住民の人たちに大好評でした。とくに彼の家族の方たちは、自分にかかわる話のところを、目を真っ赤にして見つめていました。一人の老人の人生を作品提示することでも、見る人によっては心の琴線に触れる作品にもなり得る――このことを初めて確信したわけです」

これこそが以後の稲垣先生の作品づくりの基本的な方法論になる。
そして日本国内はいうに及ばず、メキシコやトルコ・フランスなど海外での発表もすでに10ヵ国を数える。
ここで稲垣先生の近年の主要作品(プロジェクト)群を挙げてみよう。

・自分たちの「まち」が元気になるアイデアを小学生が出し合う「千代田区四番町こどもアート会議」(千代田学・東京)
・40年前に閉校になった分校の記憶をたどる「仙俣分校プロジェクト」(静岡アートギャラリー・静岡)
・子どもたちのB級いたずら大作戦「中之島ゲーム」(水都大阪・大阪)
・集落の歴史や現代の姿を展示した「干溝博物館」(越後妻有アートトリエンナーレ・新潟)
・おやこでアート体験をする「おやこで楽しむアート」(アーカスプロジェクト・茨城)
・地元の青果市場などで現地のアーティストと協力して開催する「ドイサケット・ミュージアム」(Compeung ・タイ)

他者を理解し尊重することの大事さを学ぶ

「越後妻有アートトリエンナーレ」2009報告会
市ヶ谷キャンバス

こうした実験的試みは通常1回限りの開催で終えることが多い。
ところが稲垣先生は継続的な繰り返しの開催にこだわりを持っている。

「いろいろと条件を整えるのが大変なのですが、毎年違ったアプローチで継続していくことに意味があると思っています。なにより地元の人たちが『来年もまたやりたい』と思ってくれることが大切で、われわれ外からの視点がどこまで地元の人々に刺激を与えられるのかに係ってきますね」

実際にタイでのプロジェクトはすでに4回の開催を数え、国内でも東京や茨城のプロジェクトは継続している。
こうしてプロジェクトを継続・発展させることで、地域の人々における異世代間交流が図られ、それが地域の活性化を促すことにも繋がっていく。
またプロジェクトに並行して、子どもたちを対象にしたアート体験のワークショップも開かれている。

法政大学において稲垣先生が在籍しているのは国際文化学部である。
同学部は、幅広い知識と理解力を身につけ共感をもって異文化に接することができる「国際社会人」の育成をめざしている。
また法政大学国際文化学部は全学生に海外留学を義務づけていることでも知られる。

「短期・長期をふくめて全員の海外留学が義務づけられていますが、この海外体験がどの学生にもかつてない経験になっているようです。文化背景の違うことばや生活に直接ふれて、留学先で現地の人といっしょに何かをすることが求められます。ふつうの観光旅行では得られない貴重な経験となって、生涯忘れられないものになっているんですね」

良くも悪くもグローバル化していく時代にあって、学部必修の海外留学で異文化にふれることの意味は大きい。
そのことにより自己を見つめ他者を理解し尊重することの大事さを学んでほしいとも語る。

稲垣ゼミで一生モノ冒険勉強にチャレンジ

ボアソナード・タワー20階からの眺望
JR市ヶ谷駅から法政大学キャンパスを望む

法政大学国際文化学部の専門演習(ゼミ)が始まるのは3年次からである。
稲垣先生のゼミでは毎年8~10人(1学年)ほどを受け入れているが、希望者が多く選抜になるのが例年のことだという。
一見楽しそうな稲垣ゼミだが、表面的な興味だけで入ってくると、とんだ辛苦を味わうことにもなるらしい。

「いくつものプロジェクトをちゃんと運営していくのは想像以上に大変なことで、学生たちには青天のへきれきと言えるほどの厳しさ大変さがありますよ(笑)。また、我々のプロジェクトでは未就学の幼児から超高齢の方までを相手にしています。いまの学生たちには異世代間交流の経験のない人も多く、最初はどう相手をしていいか分からないようなのです」

なお稲垣ゼミにおける国内プロジェクトはどれもゼミ生全員参加(海外プロジェクトについては希望者だけの参加)が原則である。

「みんな苦労をしていますね。しかし、そのうちに交流の糸口をつかんだりしていきます。自分たちとはまったく背景の違う人、たとえばタイの僧侶・小さい子どもたちや農家のおじいさんの話が聞けたりして、少しずつ異文化・異世代間交流の面白さが分かってくるようです」

あらためて学生たちへの指導方針については次のように語る。

「自ら考えて行動できるようになってほしいですね。そのために学生たちと他者との接点をつくり、自分から働き掛けないといけないように仕向けています。みんな大変そうにしていますけどね。まあ、その意味がいますぐでなくても、将来社会人になってから分かってくれてもいいと思っています。学生のうちは、世の中には背景の違う人々が暮らしていることを知って、そうした人たちに心を開く努力をしてくれたらいいですよね」

こんな生徒に来てほしい

冒険心のある人ですね。
大学以上で学ぶということは、冒険をするということと同義なのです。
それまで自分が知らなかったこと、経験してこなかったこと、それらにチャレンジすることが学ぶというなんです。
高校までの勉強と違って、これは勇気のいることです。
そんな勇気を試してみようという人が来てくれればいいと思います。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。