
神奈川大学
経済学部
中田 信哉 教授
「なぜユニクロが売れるのか?」生きた経済学を説く超人気教授の秘密?


立ち見まで出るほどの人気講義が、神奈川大学にはある。中田信哉先生の「商業学」だ。どうして、そんなに人気があるのだろう?
「学生が興味を持つのは、有名企業の社長や有名人の話ですよ。だから講義でも話します。ただ、『あの人は僕の横で鼻くそをほじっていたよ』なんて話すのは僕ぐらいだろうな」と、先生は人気の理由の一端を冗談めかして教えてくれた。
確かに先生の講義は、学生の好奇心を刺激する仕掛けに溢れている。例えば、講義で取りあげる具体例が最先端の事柄だったりする。「なぜユニクロが売れるのか」「無印良品とブランドとして何が違うのか」など、生きた経済が講義によって解明、分析されていく。
もちろん試験だって、一筋縄ではいかない。「なぜコンビニでアイロンを売っていないのか、理由を述べよ」。これが昨年出題された実際の試験問題である。一見クイズのようだが、専門知識を使って説明しようとすれば難しい。講義を理解していないと高得点は望めない。 「『売れないから』とだけ書いてきた学生もいてね。まあ、間違いじゃないから、何点かはあげないとね」と、先生は楽しそうに笑った。
だが人気の秘訣は、講義内容だけではない。最大の要因は中田先生の人柄だ。一言で言えば、話をしていて楽しいのある。政府の委員会なども歴任している大人物なのに、尊大な態度は微塵も感じられない。何よりも肩の力が抜けている。「ラクをしましょう。好きなことだけしましょうよ」と語る先生のキャラクターが、多くの学生を魅了しているのである。
「手を抜くコツを覚えろ」!?

ゼミでも先生の基本姿勢は変わらない。「手を抜きたいヤツは、抜くコツを覚えろ」と、先生はゼミ生に教えている。
「アルバイトにサークル、やりたいことがいくつもあるなら時間を作るしかないでしょう。だいたい僕は、前日の夜だけでレポートを書き上げろと、ゼミ生に指導しているのです」 毎日コツコツ勉強しろ、と命じる先生は少なくない。しかし一晩でレポートを書き上げろと指示する先生に会ったのは、筆者も初めてである。
一方で中田先生のゼミは、学内有数の厳しいゼミとしても知られている。ゼミでは毎週2600字のレポートが課され、加えて学生が自主的に開くサブゼミもあり、さらにアウトレットモールなど経営の現場を回る実習研究までついている。先生のスタンスの違いを不思議に思ってたずねると、先生は笑い出した。 「学生の学習態度があんまりだったから、『自主的にやれ』と言ったら、年々厳しくなってきちゃったわけ。不思議ですよね」。どうやら先生の本意ではなかったようだ。 「好きなことをすればいいんです。5~6年本気でやれば、食えるようになるのですから」 これが先生の口癖だ。
実際、先生は好きなことだけをしてきたという。大手食品メーカーのエリートコースから飛び出し、いきなりシンクタンクの研究員となったのが27歳。ここで先生は、天職ともいうべき仕事に巡り合った。 「流通やマーケティングも好きでしたが、何より文章を書くのが好きだったので、研究所生活は楽しかった」 しかし、先生の仕事への熱中度は、尋常ではなかった。王、長島の黄金期に、彼らのプレーをテレビで見たことがないというのである。当時の長島や王は、真の意味での国民的スターだった。意識しなくても2人の情報が耳に入ってしまう。そんな時代の話である。
まさに仕事一色の生活であった。 「私が勤めていたシンクタンクは、とにかく自由でした。きちんと仕事をしていれば、何も文句を言われない。アルバイトも自由でしたから、日刊紙の連載を抱えている人もいましたよ。それどころか、昼間はパチンコばかりしている同僚もいました」 それでも当時の同僚の多くは、現在、経済学者として活躍しているという。好きなことに没頭してきた結果である。
どんなことであれ本気で過ごした時間は、ムダにならない。先生自身、経済学者として忙しい日々を過ごすかたわらで、アメリカンフットボールや俳句についての原稿を雑誌に寄せている。どれも趣味が高じて執筆依頼がきたものである。
本当に好きなことを仕事にする。そうした生き様を学べるのも、中田先生の講義を受ける魅力だろう。
こんな生徒に来てほしい
「以前、ゼミにいた学生は、サッカーに夢中でした。それで卒論は、Jリーグの経営分析になったんですよ。なかなか良い卒論でした。集中して頑張ろうと思っても無理がでます。やはり好きなことをやってほしいですね」
- 公開日: