{literal} {/literal}
GOOD PROFESSOR

東京農業大学
農学部 バイオセラピー学科

安藤 元一 教授

あんどう・もとかず
1950年大阪生まれ。’73年国際基督教大学教養学部卒。’73年から羽仁プロダクションで野生動物記録映画の製作に携わる。’85年九州大学大学院農学研究科博士課程修了。’85年滋賀県庁入庁。湖沼環境保全の職務を担当。’95年環境科学入社。’00年東京農業大学農学部助教授。’07年同准教授。’09年より現職。
著作には『湖沼環境保全に関わる国際協力』(編著・国際湖沼環境委員会)『ニホンカワウソ』(東京大学出版会)などがある。
安藤先生が所属する「野生動物学研究室」のURLアドレスはコチラ→
http://nodaiweb.university.jp/mammalogy/index.html

  • mixiチェック

野生動物との新たな関係を模索する

安藤研究室の入る「研究棟」外観
東京農業大学の厚木キャンパス点描

今週のグッドプロフェッサーは、東京農業大学農学部バイオセラピー学科の安藤元一教授。
今回はいつもと趣向を変えて、取材のときに語られた数々の言葉を「安藤教授語録」としてまとめてみよう。

大学から大学院時代にかけて野生動物を中心に「哺乳類生態学」を研究していた安藤先生。
先生が滋賀県職員になって担当したのは湖沼の環境保全の仕事であった。
分野としては畑違いの担当になってしまったことになるのだが――

「当時の湖沼の環境問題といいますと、水質の問題でした。いわば化学屋さんが専門に扱う世界でした。ところが5年ほどすると地球環境ブームになりまして、生態系の保全が環境問題の中心に据えられるようになり、これだったら私でもやれるということになりましたね。今わたしの専門は野生動物と環境調査で、環境アセスメントや水辺ビオトープなどについても講じていますが、環境保全の仕事の経験が役立っているわけです」

やがて安藤先生は大学教員に転じて、東京農業大学農学部のバイオセラピー学科に所属する。

「学科名からは『癒やし』だけを扱う学科と誤解されがちです。なかには自分がセラピーで癒やされたい、と入ってくる学生までいるんですね(笑)。これは、むしろ話が逆です。植物や動物と共生しながら心豊かな社会をつくるのが目的の学科で、そのプロになる意識が必要なのです」
「これまでの農学部といえば食糧生産が研究の中心で、つまりは『腹を満たすための学問』でした。しかし、ここバイオセラピー学科では、動植物を通して心を満たすことを研究しています」

既存の生物学の枠にとらわれない新発想の数々

なんと安藤先生の研究室には実物のモグラのトンネルまでもが展示されている。

「モグラは地下15㎝付近に生息していますから、実は人類に最も近いところにいる野生動物なのです。この展示のトンネルは厚木キャンパスの芝生の下から掘り出したものです。夜になると、キャンパス内にはアナグマやタヌキも出てくるんですよ。そんなことを知らない農大生が多いんですね。自分たちの身近で起こっていることを知っているか知らずにいるか? そこで心の豊かさは大きく違ってきます」

「昔から人々は野生動物を捕獲して、それを食べていました。それだけ人間と野生動物の関係は深かったのです。文明化・都市化が進んで、いまその関係は薄くなりました。物質的には豊かになったように見えますが、経験の幅としては失ったものの方がはるかに多いともいえます」

失ったものが多いからといって、ただ嘆いているだけでは進歩も未来もない。
であるなら、動物と人間との新しい関係を構築すべき――そう安藤先生は説く。

「その新しいカタチとして、野鳥など野生生物の観察会やイルカといっしょに泳ぐことなどが行われています。また地球環境との関係で『生態系サービス』ということばが使われるようになってきました。これまで地球環境は人間が守っているという発想でしたが、実は私たち人間のほうが生態系に生かされているのだ、という考え方に気付く人も多くなっています」

「自然生態系には『供給』『調整』『文化』の3つの機能があるといわれます。つまり、食べ物や燃料・建材などを供給する機能と、熱帯林がCO2を吸収するような調節の機能ですね。もうひとつの文化機能というのは比較的新しい考え方です。たとえば中東の砂漠地帯で暮らす人々と、日本列島で暮らす人々の民族性・国民性や文化はおのずと違っていますが、その違いは、その土地の気候風土がつくる生態系の違いが大きく影響しているのです」

生態系が人類の諸文化にどんな恩恵を与えてくれたのか――
こうしたテーマは、従来の生物学の視点からは十分に研究されてきたとは言えない分野であろう。
これこそはバイオセラピー学科が担っていくべき課題のひとつだとも先生は語る。

野生動物研究を通して普遍的リテラシーを学ぶ

農大キャンパスに続くケヤキ並木

「自然環境調査は土木・建設・農業など多くの業種で不可欠になっています。ほかの業界がコストダウンに必死になっているように、自然環境調査においても質を落とさずに効率化を図ることが求められていますが、そうした研究はほとんど実施されていません。たとえばモモンガを調査するときに、どこに何個くらいの巣箱を掛けて、どのくらいの期間をかけて観察すればいいのか? そうした科学的データはほぼ皆無です。このような実学的研究こそが、環境アセスメントなどで一番必要な情報になるのですが……」

今後の抱負として、社会的なニーズのある観察や研究もどんどんしたいとも語る。

「近年、サルやクマなど野生動物がよく人里に出没してトラブルになっていますね。サルでいえば、かつては山奥で暮らす動物でしたが、いまは山麓の人里に近いところで暮らすようになっています。すでにサルが山の動物ではなくなっているのです」

以前の山間地域の田畑には屈強な男性が常に働いていて、サルは人を恐れていた。
また現在はハンターが減少して野生動物への「狩猟圧」も減少している。

「いま農作業をしているのは高齢者や女性ばかりになっていますからね。下草の繁り過ぎた里山や耕作放棄地が広がって、身を隠せる緑が多くなったことも大きい。かつては平地の耕せるところはすべて田畑として耕作され、里山も見渡して遮るものなどありませんでした。クマなども里に下りて来ようがなかったのですね」


「わたしの研究室で学んでも、野生動物の専門家になる人は少数にすぎません。それでも野生動物を学ぶことに意味があるのは、『野生動物を研究する』というよりは『野生動物で勉強する』というように考えることが大切だからです。つまり、野生動物研究を通して、問題発見からその解決までの科学的方法やリテラシーを学ぶということですね」

「世界中の研究者は、発表された成果を相互利用することでつながっています。ですから、そのなかの1人でもいい加減なデータを発表すると、全体の研究が成り立たなくなってしまいます。研究というのはレンガをひとつずつ積み上げていくような地道な努力が必要なのです」

いずれも生物系志望者ならずとも胸の奥にしみ入る話の数々。
まさに、ぜひ薫陶を受けてみたい一生モノのプロフェッサーだ。

こんな生徒に来てほしい

野生動物について本気で研究したいのであれば、大学3年次の研究室配属を待っているようでは遅すぎます。
高校生のうちからでも、動物園でボランティア活動をするなど、やれることはあるはずです。
大学に進学したら、その種のサークルに入ったりセミナーに参加したりするなど積極的な活動もしておくべきです。
研究室配属になるまでをどう過ごすのかが重要になりますね。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。