早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東北大学
東北大学大学院 工学研究科ナノメカニクス専攻

江刺 正喜 教授

えさし・まさよし
1949年生まれ。東北大学大学院博士課程修了(電子工学専攻)。東北大学で助手・助教授をへて現職。
専門は電子工学、微小機械学。超微細加工技術(マイクロ・ナノテクノロジー)を活用しさまざまな製品に応用される立体的な材料や部品をつくる「マイクロマシニング」(micromachining)分野の世界的な第一人者。’06年紫綬褒章受賞。
江刺先生の研究室のURLアドレスはコチラ→
http://www.mems.mech.tohoku.ac.jp/

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「最も役立つ研究室」と評価される「MEMS」研究

MEMSを試作する実験室の風景

「この研究室に企業から派遣された研究者は、100社以上になるでしょう。企業からの相談は年250回以上にもなります。できるだけ情報を提供するようにしています」

東北大学の江刺正喜教授はそう話してくれた。

「そうすることで、いろんな情報が集まってきます。とくに企業が社会のニーズをつかんでいることは大きいですね」

江刺研究室は、情報を原則オープンにし、企業が必要な情報を惜しみなく提供していることで知られる。そのため様々な業種の技術者が江刺先生に相談を持ちかけてくる。新規展開を考えている分野だが、技術の壁があり製品化が息詰まってしまった場合、その関連技術がどれだけ進んでいるのかを知りたいなどなど。

’03年に日経産業新聞が大手51社に実施した「産学連携特別調査」で、最も多くの企業から「役立つ研究室」として選ばれていることもうなずける。江刺研究室では各種の大手企業の技術者が業界の壁を越えて集い、学生といっしょに研究を進めている。そして江刺先生は楽しくてたまらなさそうにこう語る。

「企業から来た人や海外の研究者とともに研究していると、学生たちの視野が広がり自信も生まれます。狭い世界にいると自信など持てないですからね」

江刺研究室の自作設備は企業サイドからも垂涎の的

MEMS光スキャナ(日本信号㈱)
MEMS光スキャナの応用例(駅ホームドア内部の安全装置)

江刺研究室では、微小電気機械システム「MEMS」(メムス Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれる技術を研究している。これは半導体集積回路の技術を応用したもので、頭脳に当たるコンピュータだけでなく、入力の感覚機能に当たるセンサーや、出力の運動機能などにも集積回路の技術を使うという。

この分野の代表例が、任天堂Wiiのリモコンなどに入っている加速度センサーだ。リモコンの振り方によって、ゲーム上のボールの方向などが変わるのはこのセンサーによる。こうしたMEMS技術の応用例として、ヒトの血管内で自由に曲がることによって体内で検査や治療を行なう、医療用能動カテーテルの開発にも成功している。

このようにMEMS技術は付加価値が高い。比較的単純な製品組み立て工場が安い人件費を求めて海外に移転していくなか、MEMSは日本の将来を担う技術として注目を集めている。ただし開発にはいくつかの壁が立ちはだかる――と江刺先生は教えてくれた。

「技術の組み合わせで作っていくので、それこそ広範な知識が必要になります。さらに実際のMEMS研究には壊しても良いぐらいにシンプルな半導体の製造設備が必要となります」

通常、半導体の生産設備は大掛かりなものになりがちだ。大量生産も可能な何千億円もの巨費を投じた工場が当たり前という。これは、多品種少量生産のMEMSの研究には向かない設備ともいえる。

一方で江刺研究室には、先生が「おもちゃのよう」と表現する手づくりの半導体製造設備が豊かに整っている。企業の第一線研究者たちがこぞって研究室を訪れる理由のひとつがこの設備なのだ。

じつは江刺先生自身が自作設備構築のスペシャリストでもある。自らを「オタクあがり」と称する先生は、中学時代から真空管ラジオづくりに熱中していた。米軍放出のジャンク品を買い組み立てていたという。さらに大学の研究室に入ってからは、回路を作る技術を見込まれ、さまざまな研究室の実験設備製作を手伝ってきた。

「サービス精神旺盛にニーズに応えていく――そうしたことで道が拓かれていくんです。自分で集めなくても、いいサービスを提供していれば自然に人も情報も集まってきますから」

そう江刺先生は力強く語る。

この設備づくりをしたことで、実際のMEMS試作研究ができるようにもなった。さらに様々な研究室や企業が来て、使ったりして役に立つことができている。

早稲田塾でも体験できる世界トップレベルの技術

「スーパーナノメカニクスプログラム」での実験風景

「大学とは情報サービス提供業です」

キッパリと江刺先生は語る。
さらに、こうも喝破する。

「大学も社会に寄与できなければ生き残れません」

かつてニッポン企業は莫大な開発研究費をかけて、将来の技術に投資を続けてきた。しかし今や、当面の利益を確保しなければ大手でも倒産しかねない時代を迎えている。もはや未来を担う基礎技術の開発にまで手が回わりにくくなっているのだ。

だからこそ将来を見据えた基礎研究を担う大学機関の研究室が重要になってくる。江刺研究室では、将来の日本を背負って立つ技術者の養成に力を注いでいる。そのためリアルなモノづくりをするよう研究室の学生や社会人に説きつづける。

「時代が変わっても、現場での経験さえあれば、あまり間違ったことをしないものです。実体験なしに知識を吸収しているだけでは感覚がズレてしまいますから」

コンピュータ技術については、江刺先生はハードだけではなくソフトにも詳しい。80年代には図面を描くCADプログラムを自ら作ったりもしてきた。それでもバーチャルなIT世界だけにとどまる危険性を指摘する。

そして現状に満足することなく、さらに使える新技術の開発にも情熱を傾けていく。だからこそ、江刺研究室の設備はさまざまな企業研究室の使用を認めている。ひろく25研究室(250人)が常時使っているというからすごい。

「ある一部分の設備だけではMEMSなど到底作れず、実証的な研究にはなり得ません。モノづくりにはさまざまな設備が必要になりますから」

設備を共有することにより、世界中の研究者たちの情報が集まり、それが実証的なMEMS研究へとさらに発展していく。

助手として働いていた時代には、最先端の分析装置を誰でも使えるよう公開したという。機械に紙を貼って使い方を解説し、使用できる限界なども書き込んだ。そうしたことから学んだ教訓が面白い。

「こういう経験から、不特定多数の人に使ってもらっても壊されないノウハウを我々は持ったわけです」(『検証 東北大学・江刺研究室 最強の秘密』江刺正喜他 著 彩流社)

通常なら設備を壊されないために使う人数を制限するはず。しかし江刺先生は設備を公開することで、より実際的な技術の確立をめざす。たとえそれが最先端の実験装置であったとしても。

社会で使えるものを作り出そうとする江刺先生の姿勢は徹底しており、その衰えぬ情熱は学生の育成にも及ぶ。その一例に、指導係としての先輩と後輩を一緒に組ませないことが挙げられる。

「先輩にくっ付いて研究していると、どうしても『指示待ち』になってしまうんです。でも、会社からは指示待ち人間をよこすなと言われますからね」

そう江刺先生は笑った。
とはいえ、多くの学生は、高校までに自ら学ぶような経験を積んでいない。だからこそ、自主性が育つよう一から教育していく。最終的に、多くの学生は研究やモノづくりの面白さに目覚め、自主性を獲得していく。自分の身近に日本のトップレベルの技術者が集まっている環境も、学生たちを刺激するのだろう。

将来を担う人材を育てたいという江刺先生の強い想いは、早稲田塾の「スーパー ナノメカニクス プログラム」という特別講義として花開いている。物理の教科書に載っている原理が製品にどう使われているのか? そうしたことを、機械を分解したり組み立てたりしながら分かりやすく教授していく。

もちろん実際に機械を分解し、動作の仕組みを調べるのは早稲田塾の高校生たちだ。数式に囲まれた学問を、手触りのある「リアル」な学問に変える画期的な試みといえよう。多くの塾生がこのプログラムに感銘を受け、学問の本当の面白さに気づいてきた。将来この「スーパー ナノメカニクス プログラム」から世界的な技術者が生まれることを大いに期待したい。

こんな生徒に来てほしい

あまり人を選んだり集めたり積極的なことはしていません。
人を育てることを目的としていますから、はじめから「できる人」を集めるというよりは、すでに居る人を育てながら研究成果を出せるようにします。
学生を選ぶよりも重要なことは、先生や先輩が楽しそうに研究していることでしょうね。
苦しそうにしていると、あんな風にはなりたくないと学生たちも思ってしまうので(笑)

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。