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GOOD PROFESSOR

電気通信大学
先端ワイヤレスコミュニケーション研究センター

山尾 泰 教授

やまお・やすし
1954年石川県生まれ。’79年京都大学大学院工学研究科電子工学専攻修士課程修了。’79年日本電信電話公社(現NTT)入社。’93年NTTドコモに転籍。ワイヤレス研究所、無線ネットワーク開発部に勤務。’05年より現職。
電子情報通信学会フェロー称号(’09年)。同学会功労顕彰状(’08年、’10年)。
主な著作に『モバイル通信の無線回路技術』(電子情報通信学会)『無線技術のその応用2―移動体通信』(丸善)『2015年の情報通信技術』(NTT出版)などがある(著作はいずれも共著)。
「山尾研究室」のURLアドレスはコチラ →
http://www.awcc.uec.ac.jp/yamaolab/

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ワイヤレス通信システムの未来へ

山尾研究室のある電気通信大学「G棟」
「G棟」とパラボラアンテナ

移動してもいないのに急に携帯電話の電波受信状態が悪くなる――これは誰でも経験したことがあるだろう。
このような電波通信技術についての日本屈指のエキスパート、その人こそが今週ご紹介する電気通信大学先端ワイヤレスコミュニケーション研究センターの山尾泰教授である。

「携帯電話の電波は、建物や地面などに反射・散乱して、いくつもの経路から届けられます。そのため電波同士が互いに強め合ったり打ち消し合ったりして、非常に混乱した不安定な状態で届けられているのです。これは『フェージング現象』といって、無線通信における電波には不可避的な問題です」

前職の携帯電話会社研究所勤務時代から、山尾先生はこの難問と向き合ってきた。
現在のように通常の通話であればほぼ問題のないレベルに達するまでには、数知れない技術開発と試行錯誤が繰り返されてきたのだ。
その山尾先生が、いまや電気通信大学の研究センター教授に転籍して新たな課題に取り組んでいる。

「無線通信において送受信される情報量に比例して、電波の送信エネルギーが消費されます。次世代の『ウルトラブロードバンド携帯ネット』では、大量のデータが送受信されますので、いかに高効率通信を可能にし、一方いかにエネルギー消費も低減させるのかについて研究しています」

山尾先生はこれを「ワイヤレスECO」技術と呼ぶ。
さらに、もうひとつ「ユビキタスワイヤレスネット」のための電波処理技術も、現在の研究課題だ。

「近い将来どこでも存在することになるユビキタスワイヤレスデバイスが、互いの通信を中継することで必要な通信距離を確保する『マルチホップ通信』について研究しています。その成果として、電波障害などによりデバイス間での無線通信が不能になったときに、デバイス自身が自律的に迂回路を探して通信するシステムを開発しました」

もちろん、この通信システムの開発は世界初だ。

先端ワイヤレスコミュニケーション研究センターの意義

電気通信大学キャンパス正門
キャンパス建物群

そんな山尾先生が所属しているのは、電気通信大の「先端ワイヤレスコミュニケーション研究センター」(AWCC)である。
同研究センターの目的・経緯についても聞いておこう。

「AWCCは、ワイヤレスの通信技術について本学の学部・学科を横断して研究するための組織です。今日の無線技術研究は、複数の学問分野の研究を総合化・学際化したものに至っています。ますます横断的組織によるシナジー(相乗)効果が大いに期待されているのです。企業などとの共同研究でも、AWCCが窓口になることで研究が円滑に進むという利点もあります」

山尾先生はAWCCの所属であると同時に、電気通信大学の情報理工学部や情報・通信工学科の教授も兼務している。
次いで、電気通信大学情報・通信工学科の特徴について語ってもらった。

「本学では電気通信学部から情報理工学部への学部改革が2010年度に行なわれ(電気通信大学は情報理工学部だけの単科大学)、情報・通信学科は通信と情報に特化した学科として生まれ変わりました。これからのコミュニケーションの形に、物と物とによるワイヤレスな方法が増えていくと予想されます。お馴染みのICカード乗車券『Suica』などもその一例です。こうした情報処理や、ワイヤレスのみならず広く通信手段についての研究や教育をする学科になります」

電気通信大学の情報・通信学科では、3年次から4つの専門コースに分かれて学び(山尾先生は「情報通信システムコース」を担当)、4年次になると各研究室に配属になって卒業研究に臨む。
各研究室の定員は6人と決められている。

ただし人気の高い山尾研究室への配属を希望する学部生は例年多く、先生自ら面接して選抜している。
配属希望者それぞれから「得意なことは何か」「何を研究したいのか」を聞き出して決めるのだという。

配属学生が決まると、3年次春休みにワイヤレス技術についての基礎的な勉強会が催される。
4年次春からは、ゼミ演習時間において院生の研究室生から山尾研究室で進められている各研究プロジェクトについて説明を受ける。
そのあと山尾先生と個人面談をして、各人の卒研テーマが決められていく。

人々に役立つかを意識することが研究者の心を強くする

電気通信大学キャンパスの外景

卒業研究のテーマは、学生との面談ふくめて日常的に得られる感触から、全体バランスを考えながら山尾先生が設定して与えるそうだ。
テーマの決まった学生から順次着手していくが、5月末ごろまでには全員が卒業研究に入るとのこと。
あらためて学生・研究室生たちへの指導方針については次のように語る。

「わたし自身が民間企業出身ですので、人々の役に立つ研究開発に携わっていたいという想いがあります。単に学問的に『面白い』だけでは研究テーマには設定したくないのです。これは何のために役立つという明確な目的意識がほしい。この目的意識がはっきりしていないと、なにか途中で思ったようにいかないと諦めてしまうケースが多くなります。粘り強く研究を続けるためには、目的意識を明確にすべし――それこそが私の信念であり指導方針といえるでしょうね」

こうした粘り強い研究事例として、山尾先生自身の経験を踏まえて以下のようなエピソードも披露してくれた。

「いまから30年前、携帯電話用無線回路のチップを設計製作したことがあります。ここでシリコンを使用して製作した回路のほうは設計どおり問題なく作動したのですが、ガリウムヒ素で製作したほうは全く作動しませんでした。システムや技術というのは、どこか1ヵ所でも不都合なところがあると作動しません。その後も設計に工夫を凝らすなど研究を続け、10年後に正常に作動する回路が完成しました」
「一度うまくいかなかったからといって簡単に諦めないことです。粘り強く設計に工夫を加えていけば、技術のほうも時が進歩を促して解決に導いてくれるからです。辛抱して耐えながら強い気持ちで研究を続けること。それをぜひ身に付けてほしいですね」

こんな生徒に来てほしい

電波の世界には、まだまだ不明なこと、果たすべきことがたくさん残されています。
それだけに研究者独自の工夫の余地も残されていることになります。
自らの工夫によって日本を(より広い世界をも)変えることが出来るのです。
思えば今から30年前は携帯電話もモバイル情報端末も夢のまた夢のものでした。
それが今では誰もが持てるようになっています。
これからの30年後にはさらに画期的なツールが出現しているはずです。
そのことを信じられる人はぜひ一緒にやっていきましょう。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。