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GOOD PROFESSOR

千葉工業大学
工学部 機械サイエンス学科

平塚 健一 教授

ひらつか・けんいち
1961年宮城県生まれ。’79年宮城県仙台第一高等学校卒。’83年東京工業大学工学部機械物理工学科卒。’85年同大学院総合理工学研究科システム科学専攻修士課程修了。’85年東京工業大学工学部助手。’90年工学博士。’96年千葉工業大学工学部精密機械工学科助教授。’01年同教授。’03年学部改組により現職。’08年~’09年独フラウンホーファー研究所、’09年仏エコール・サントラル・リョン客員研究員。
主な著作に『トライボロジーハンドブック』(分担執筆)『摩擦摩耗試験機とその活用』(編集幹事・前著ともに養賢堂)『表面技術便覧』(分担執筆・日刊工業新聞社)などがある。
平塚先生が主宰する「平塚研究室」のURLアドレスはコチラ →
http://www.hiratsukalab.com/

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機械工学にとらわれないトライボロジー研究

平塚研究室の入る新1号棟(08年完成)
手前ビルは今年竣工した新2号棟

今回登場願う一生モノのプロフェッサーは千葉工業大学工学部機械サイエンス学科平塚健一教授である。

先生の所属する機械サイエンス学科には、 (1)機械設計・開発(2)機械工学(3)マイクロサイエンス工学(4)先端材料工学の4つのコースが用意されている。

「各コースに分かれて学ぶことになる、入学後半年から1年までの間に、コース内容を調べてどのコースに進むかを決めることができます。1年次の前期に全研究室の紹介があり、さらに『創造工学演習』という実習科目では、少人数のグループを元に各コースの特徴があらわれたモノづくりをするので、コース選択がしやすくなります」

このような学科の特徴を語る平塚先生の専門分野は、「トライボロジー」という摩擦・摩耗・潤滑の科学と技術だ。

「2つのモノがふれ合うところには摩擦が生じます。摩擦は動きを阻害する抵抗ですが、タイヤと地面の間の摩擦抵抗が少ないと車はスリップして動きません。止まるためには摩擦が必要ですが、動くためにも摩擦が必要なのです。そして摩擦が適度にあるおかげで、たとえば椅子は床に安定的に置かれ、そのため人々の生活も安全に営まれます」

「じつは身のまわりにある摩擦や摩耗は、こすれあう2つの物体の性質のみで決まらず、それを取り巻く『雰囲気気体』との相互作用によって大きく支配されます。さらに摩擦によって雰囲気気体も変化するのです。わたしがよく言うのは、摩擦の大きさはそれを取り巻く空気のにおいで変わり、逆に、においが摩擦で変化する――ということです」

摩擦・摩耗といっても2つの材料の性質のみで決まるのではないようだ。
しかも摩擦でにおいが変わるというのも驚きだ。

平塚先生がトライボロジーの魅力に取りつかれているのは、このような機械工学の枠を超えたトライボロジーの幅広さにあるらしい。

「摩擦触媒」「摩耗粉生成」研究のパイオニア

千葉工業大学津田沼キャンパス点描
2010年度平塚研究員たちと集合写真

「わたしのトライボロジー研究は、摩耗に対する磁場の効果から始まったんです。鉄を摩擦すると、摩擦したところだけが酸化して黒くなってすり減らなくなります。さらに鉄に磁気を帯びさせると、摩擦中で酸素消費量が増してもっとすり減らなくなるのです」

摩擦によって化学反応が促進されることはトライボロジーにおいて「常識」らしいが、そのメカニズムはいまだ解明されていないという。
これを平塚先生は「摩擦触媒(Friction-catalysis)」として研究を進めている。

「『Tribocatalysis』という言葉は以前からあったのですが、水や二酸化炭素の合成というシンプルな反応が、それらの触媒を摩擦することによって促進されることを明らかにして、90年に『Friction-catalysis』と名付けました。日本語では、94年に摩擦触媒という題で解説記事を書きました」
「ふつう触媒というと、触媒となる物質の特異な表面状態を利用します。しかし摩擦によって帯電が生じて、電子が放射され、接触面近傍が光を発してプラズマ状態にもなることがあるので、化学反応におけるそれらの役割を明らかにし、摩擦触媒のメカニズムを整理していかなくてはなりません」

そのため、現在では化学反応だけでなく「摩擦帯電」「摩擦発光」などの物理現象も同時に測定しているという。

「摩擦帯電や摩擦発光という現象は古くから知られていますが、いま改めて摩擦の『化学』という観点から見直されるべきです」

さらに平塚先生は、元来のテーマである「摩耗現象―摩耗粉の生成機構」の研究についてはこう語る。

「同じ材料から切り出した2つの金属を摩擦すると、摩耗粉という第3の物体が生成されます。同じ硬さの金属をこすって、なぜ新たなモノが発生するのでしょう。その理由は、地球上の酸素や水分を含む大気のなかで摩擦していることに関係しています。摩擦面に酸素などが取り込まれることで摩耗現象がおきるのです」

独自データを自らの手で集めつづけていく

最寄りのJR総武線津田沼駅南口

平塚先生の所属するマイクロサイエンス工学コースの学部生の研究室配属は3年次の7月から。
平塚研究室では例年10人前後の学部生を受け入れている。

卒業研究についてはそれぞれがオリジナルのテーマで、オリジナルな実験装置とオリジナルな実験・解析プログラムを使って挑むことを基本方針にしているという。

「こうした実験研究の機器は本人が自分で設計して作ったものが原則です。大型装置を使用する場合でも、その一部の仕様を変更・工夫して実験するように指導しています。摩擦・摩耗の実験では、他人と条件を同じにしたつもりでも結果が大きく違ってくる場合があります。その違いを統合する原理を知るためには借り物の装置で実験してもダメなのです。学生1人ひとりが自分の摩擦観・摩耗観を持ちそれを議論するのが研究室の醍醐味です」

語気を強めつつ平塚先生はこのように語ってくれた。
ところで平塚先生は工学部に属しているわけだが、インタビューの話題はしばしば工学の範囲を超えて多岐にわたった。

「学問を縦割りにすることで専門家が生まれますが、本来の学問の楽しみは異なる分野に共通性を見つけることにあるのではないでしょうか」

こうして平塚先生は「トライボライフ」という言葉をつくり、日常生活においても摩擦を発見することを呼びかけている。

摩擦というと紛争の種のような負のイメージがあるが、避けられないものであれば逆にそれを活用しようというわけである。

「摩擦や摩耗を理解することによって、より豊かな生活をおくることが出来るようになります。たとえば一流の舞踊家の所作が美しいのは、動きがなめらかに流れることにあります。その場合、複数の関節の動きを連携させているのです。それは人体のなかの摩擦を上手にコントロールしている結果です。摩擦・摩耗の研究成果を工学の世界に閉じ込めてしまうのはもったいないことです」

「わたしはクラシックギターを弾くのですが、その場合、弦とつめの摩擦によって音を出しています。そのつめの先端の、距離にしてわずか数ミリメートルの摩擦をスムーズに行なうために、全身のすべての動きを動員していく――そうやって出した音が本当の音だといえます」

以上、印象深い「平塚語録」のほんの一部分である。
たしかに一生モノのプロフェッサーはここ千葉工業大学にも存在する。

こんな生徒に来てほしい

ぜひ来てほしいのは、ざっくりとでもこの世界を理解したいと欲している人ですね。
我々をふくめ、この世界に存在するものはいろいろな摩擦現象に取り囲まれています。
ですから摩擦を理解することが世界を理解するうえでも大いに助けになります。
世界の成り立ちを知るためには、トライボロジーからの取り組み方もあることをぜひ知ってもらいたいと思います。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。