早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京大学
教育学研究科

小玉 重夫 教授

こだま・しげお
1960年秋田県生まれ。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程修了。慶應義塾大学助教授・お茶の水女子大学教授をへて09年より現職。
主な著作に『教育改革と公共性』(東京大学出版会)『シティズンシップの教育思想』(白澤社)『教育学をつかむ』(共著・有斐閣)などがある。
小玉先生が主宰する研究室のURLアドレスはコチラ↓
http://homepage2.nifty.com/eduscikodama/

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「シティズンシップ」が変えるニッポン教育

小玉研究室の入る東大教育学部棟
東京大学本郷キャンパス正門

国内における教育系大学機関の最高峰である東京大学教育学部は、
(1)基礎教育学(2)比較教育社会学(3)教育実践・政策学(4)身体教育学(5)教育心理学――の5つのコースから成っている。
今回ご登壇ねがう小玉重夫先生は「基礎教育学コース」を担当している。
まずは同コースの特徴から伺おう。

「本コースでは、社会科学の研究方法を意識しつつ、人文科学的な方法で文献研究を中心にした研究や教育をしています。おもに扱われるのは、教育に関する理論をはじめ思想や哲学などについてです」

古今東西のあらゆる教育関連文献を深く読みこなしながら、その理論や思想・哲学を理解し、そこから現代の教育について考えていく。

「東大の本郷キャンパスの学生には、将来進むべき方向を決めている人が多いようです。しかし、この基礎教育学コースにはわりと決めていない人が多いようです。みんな様々なことに興味をもって挑戦してみたいと考えているようで、そのあたりもこのコースの特徴のひとつかも知れませんね」

東京大学基礎教育学コース卒業後の進路としては、公務員や教員・出版や報道をふくむ民間企業・大学院進学がそれぞれ3分の1ずつくらいある。
そのうち大学院進学者はそのまま研究者の道に進む人が多いようだ。

小玉先生のご専門はといえば「教育人間学」である。
教育における人間と政治について根源的なところから考えるというテーマのようだ。

「わたしの研究テーマは『教育の公共性』です。平たくいえば、学校というものがなぜ存在しているのか? もう一度考えてみようということです。わが国の場合、すべての子どもは9年間ものあいだ無償で教育を受けます。考えてみればこれは大変なことなのです」

政治的リテラシー有する市民あっての「新たな学校」

初春の東京大学本郷キャンパス点描
あまた英駿が利用してきた東大図書館

そこで、あらためて「なぜ学校は存在するのか?」という根源的な命題に突き当たることになる。

「明治以来の学校というのは、公の教育機関として国の制度によって存在しています。その目的は、国の次代を担う国民や市民を育てることにあります。そうした基本的な教育については、塾など有料教育機関では賄うことが出来ないという観点に立っているわけです」

そうした伝統的・常識的なニッポン公教育のあり方について小玉先生は疑義を呈する。

「これまでの日本の教育方法は上から一方的に降ってくるものでした。教育とは、国からのサービスで、教育を受ける側にすれば受益者であると同時に、義務として受けなければならないという法の規制も受けていました。つまりタテの関係のなかで、あくまで受け身の存在でした」

たしかに欧米に追い付き追い越せという時代背景のなかでは、後発資本主義諸国にありがちな中央集権的教育制度は曲がりなりにも有効性を発揮してきた。
しかし戦後高度成長期ごろからその閉塞的な息苦しさが顕著となってきた。

いまや学級崩壊やいじめ・登校拒否・中退など問題が顕在化している。
しかも、この国の教育現場は隘路のなかにある――そうした教育改革の必要性は世紀をまたいで久しく言われつづけてきたのだが。

「そろそろ教育を受ける側がもっと能動的に関わっていくべきだという考え方があります。たとえば、これまでのタテだけの関係から、地域の大学生や社会人が積極的に教育に参加して、ナナメの関係を構築しようというような動きですね。とくに大学生たちが教育に参加する活動は盛んになっていて、全国的に近年広がりつつあります」

こうした地道な諸活動が、硬直化したニッポン教育の場に風穴を開けるキッカケになるのではないか――小玉先生も大いに期待を寄せている。
また先生は、ドイツ出身のアメリカの政治哲学者・政治思想家であるハンナ・アレント(Hannah Arendt)の研究でも広く知られ、それを踏まえて次のように結論づける。

「真の公共性とは、行政が上から命じることではなく、そこに暮らす人々が自ら判断し決めることであるというのが彼女の基本的な考え方です。わたしも公共性について考えるとき、その中心になるのは政治であり、それに対するリテラシーを身に付けた市民の育成が必要だと考えています」

その役目を担うのが新たな学校の役割ということにもなるのであろう。
そうした自立した市民を育成することを「シティズンシップ教育」という。
この画期的な教育概念の日本における提唱者、それが小玉先生なのである。

「基礎教育学コース」それ自体ゼミのようなもの

本郷キャンパスの桜が満開であった
最寄り駅のひとつ地下鉄南北線「東大前駅」

東京大学の学部生は、2年次まで全学駒場キャンパスで教養課程を学ぶ。
そして3年次から本郷キャンパスに移り、それぞれの学部・学科やコースなどに分かれて専門課程を学んでいく。

「教養課程を学ぶ2年間のうちに将来のビジョンを描いて、自らが関心のあるものや進むべき方向を決めなくてはなりません。そのためにはいろいろな講義をとって、さらにはサークル活動やボランティア社会活動にも参加するなどして、積極的に情報を得ておく必要があります」

ところで東京大学教育学部基礎教育学コースではゼミ所属制度を採用していない。

「教育学部の基礎教育学コースの学生定員はおよそ20人で、この20人を7人の専任教員が指導することになります。ですから、このコース自体を大きなゼミとして見ることもできます」

そう語る小玉先生自身がゼミや講義で指導しているのは、英文の文献講読と現代の教育問題についてだ。

「文献講読については、教育学者が書いたものに限らず、政治学者や社会学者の書いたもの、あるいは哲学や思想書なども取り上げています。また教育問題に関しては、現実的な問題について盛んにディスカッションをしています」

あらためて学生たちへの指導方針については次のように語る。

「ものごとについて自らの頭で批判的に考えることが重要であると指導しています。講義がゼミ形式なのも、卒業論文が必修なのも全てそのためとも言えます」
「たとえば東大法学部では卒論が必修ではありません。それは、講義を受けて法律的知識を得てリーガルマインドを育むのが法学部の第1目的なのに対し、教育学部では学部生の段階から研究的要素が要求されているからなのです」

こんな生徒に来てほしい

現代社会の諸問題に対して旺盛な関心をもっている人に来てほしいですね。
さらにいえば、高校時代に学ぶ倫理や現代社会などに出てくる思想家、あるいは世界史に登場する人物などに関心をもてる人、それらについていろいろ考えてみたい人であればピッタリですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。