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GOOD PROFESSOR

国際基督教大学
教養学部 アーツ・サイエンス学科 生命科学デパートメント

小林 牧人 教授

こばやし・まきと
1956年東京生まれ。’86年東京大学大学院農学系研究科水産学専門課程博士課程修了。’88年加アルバータ大学理学部動物学科研究員。’90年東京大学農学部水産学科助手。’95年同大学院農学生命科学研究科助教授。’02年国際基督教大学教養学部理学科生物学教室准教授。’05年同教授。’08年より現職。
日本動物学会奨励賞(’98年)日本水産学会水産学進歩賞(’10年)。都立富士高校アメリカンフットボール部・東京大学アメリカンフットボール部・国際基督教大学アメリカンフットボール部顧問。
著作には『魚類生理学の基礎』(共著・恒星社厚生閣)、『生殖とホルモン』(共著・学会出版センター)『脳と生殖』(共著・学会出版センター)などがある。

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「魚類の性行動研究」のパイオニア

小林研究室が入るICU「理学館」

国際基督教大学(ICU)「生命科学デパートメント」の小林牧人教授は、魚類の性行動(産卵)研究におけるわが国の第一人者として世界的にも知られている。

「現在のわたしの研究テーマは3つあります。 (1)魚類の性行動における内分泌調節の研究(2)魚類組み換えホルモンの水産増養殖への応用研究(3)性行動に基づく魚類の環境保全研究――です。最初の性行動の研究は基礎科学研究で、とくに社会への応用というテーマではありません。それに対してあとの2つは、水産業の発展、環境の保全のための応用科学研究です」

小林先生は自身の研究テーマについてそう語ってくれた。
次いでそれぞれの具体的な内容についても伺おう。
まずは、(1)の魚類の性行動調節についての研究から――

「ホルモンやフェロモン(誘引物質)・神経などについて、基礎生物学的観点に着目しています。とくにキンギョやメダカをモデルとしてこれらの要因の作用を研究し、性行動における役割を明らかにしてきました。さらにキンギョは、これらのホルモンやフェロモンの与え方によって、雄も雌も本来の性とは逆の性の性行動をとります。このことは、キンギョの脳は我々ヒトの脳とはちょっと違う働きができることを意味しています」
「このように自然界には性転換をする魚種が数多く存在します。性転換魚類は一生のうちに雄・雌の両方の性で生殖活動をします。ですから一匹の魚が雌雄両方の性行動を行なうということです。キンギョでの研究結果と性転換魚類の存在から、魚類の脳というのは、雌雄両方の性行動を制御できる両性なのではないか?――そうした仮説を立てて現在研究しています」

さらに、(2)「魚類組み換えホルモンの水産増養殖への応用」については、魚類のホルモン研究で得た知見を元に、それらを魚の養殖へと応用したバイオテクノロジー研究だという。

なんと「養殖ウナギは飼育環境では性成熟をしない!」という。
人間が飼育すると、ウナギはその環境が好きでないせいか性成熟しないらしい。
生殖腺刺激ホルモンというホルモンの分泌が起こらないため性成熟しないというわけだ。

「生殖腺刺激ホルモンは脳下垂体という器官でつくられます。ただ多くのウナギから脳下垂体を取り出してホルモンを精製し、それをウナギに投与しようとしても、得られるホルモンの量が微量なために性成熟を誘起することができません」
「そこで遺伝子組み換えの技術を使用して、ウナギの生殖腺刺激ホルモンの遺伝子をカイコの体内に組み込んで、カイコにウナギのホルモンを作らせました。大腸菌に、作りたいタンパク質の遺伝子を組み込んで組み換えタンパク質をつくることがありますが、生殖腺刺激ホルモンのような複雑な構造をしたタンパク質は大腸菌にはつくれません。しかしカイコならば、このホルモンを大量につくれることがわかりました。この人工的につくったホルモンを養殖ウナギの雄に注射したところ、性成熟が進んで精子をつくらせることに成功しました」

魚類もムードがないと性成熟が起こらない

ICU正門から「マクリーン通り」

ちなみに他大学や企業との共同研究によるこの一大成功は当時おおいに注目を浴びた。
この研究により養殖魚の性成熟を促しやすくなり、産卵から成魚までの一貫養殖への可能性が見えてきているのだ。

また(3)の「性行動に基づく魚類の環境保全研究」は、(1)のキンギョおよびメダカでの研究の応用研究である。

「水槽に雌雄のキンギョやヒメダカ(研究用のオレンジ色をしたメダカ)を入れたからといって、必ず性行動(産卵行動)が起こるとはかぎりません。そこに卵を産み付けるための水草や苔を設置してやると、やがて性行動が盛んになります。さらにヒメダカの場合は、水流のあるところでは性行動が行われなくなることも分かってきました」

小林先生は、実験による魚の産卵に適した環境を調べる研究だけでなく、野生の魚の観察も実施している。

水槽内でなく、野生メダカ(黒い色をしたメダカ)が自然条件下でどのような産卵行動を行っているのか? 夜明け前から池に行ってメダカの産卵を観察し、メダカ本来の産卵行動がどこでどのように行なわれているのか? それらについて初めて明らかにした。

メダカは夜明けに産卵を開始するので、朝早くから観察していないと大事な行動を見逃してしまうそうだ。

はたして、このような研究よって絶滅危惧種に指定されるまでの緊急事態に追い込まれているわが国のメダカは救われるのだろうか?

「私たちの研究はまだその端緒を開いたにすぎません。これまでの保全研究は魚が棲める環境に着目してきましたが、これからは魚が産卵できる環境についても研究する必要があります。減った野生の魚の数を増やすために、フナやメダカの成魚をただ川や池に放てば自然に産卵をするのだろうという通説は、完全に誤りであることですね。健康に生きていても、ムードがなければ産卵するとは限りません」

こうなると、環境が整わないと子孫を残す行動を起こさないというのはヒトも魚類も同じというような気もしてくる。

こうした小林先生らによる数多くの諸研究成果はいずれも世界初のものばかり。
その地道な実験と観察は、じつに根気のいる苦労の連続であることは言うまでもない。

学生の研究であっても「世界発信レベル」であれ

鑑賞用魚類水槽を前に小林先生

ICUは全学教養学部の単科大学であり、真の意味での「リベラルアーツ」をめざすことを標榜する。
同大学には「メジャー」とよばれる32の学群が用意され、学生は1~2の学群を選択して学ぶ。
そこでICUとメジャー学群制度について小林先生に聞いた。

「たとえ理系を選択した学生でも、1年次から英語を徹底的に学んで身に付けることが要求されます。生物学や物理学・数学などの講義・実習において、日本語で開講される科目に加えて、すべて英語で行なわれる科目もあります。この場合、期末試験やレポートも英語で書きます。ICUにおいて英語は、学ぶ対象ではなく、学んだり研究したりするための道具なのです。またこのことは世界への発信のための準備ともなります」

このようなユニークなカリキュラム(英語による理科教育)を本格的に実施している大学は国内では他にない。
小林先生が教鞭を執るのは「生物学メジャー」である。

「このメジャーには、動物や植物・微生物について遺伝子から環境生態系(エコロジー)までを専門にしている教員がそろっています。いずれも小規模ですから、徹底した少人数指導で教員と学生との関係がとてもいいですね。教員の対学生比率は1対13くらいで、全国私立大学ではトップクラスという評価もうけています」

なお、小林先生は現在「環境研究メジャー」で指導することもあるという。
ICU理系メジャーで学ぶ学生は、4年次の1年間を各教員が主催する研究室の配属になって卒業研究に挑む。

小林研究室でも、例年5人前後の学生を受け入れてその指導にあたっている。

「理系の卒研というのは、世界初の研究テーマを設けて、世界に向けて発信されていきます。あのビートルズが20代で世界に向けて発信したのと同じで、20代でそんなことが出来るのは理系なればこそ。ちょっと文系の学生では味わえない醍醐味ともいえます」

当然のように小林先生が指導する学生たちの卒業研究は、その全てが学会発表を目標とする。

実際に国内の学会発表をやり遂げた学部学生も多数いるという。さらに学生たちの卒業研究の成果を小林先生が国際学会で発表することもしばしば。

まさに学生たちの研究成果が世界に発信されている。

「この研究は世界で初めて」「研究は美しくあれ」

小林研究室でモットーとしているキーワードについて聞いてみると――

「この研究をするのは世界で君が初めて」
「つねに研究は美しくあれ」

これら2つに集約することができる。
さらに学生たちへの具体的な指導方針については、つぎの3本柱にまとめられるという。

「まず、勉強や研究とは別に、ぜひサークル活動に参加してほしいということ。それも他大学と交流のあるサークルに入って、ICUにいる自らを客観的に眺めてほしい」
「つぎに高校までの教えてもらう受け身の姿勢とは違って、大学では何が重要であるのか自ら見い出さねばならないということ。ぜひ大学4年間で自ら積極的に考える一生モノの力を身につけてほしい」
「大学4年次になって研究室配属になったら、プロの研究者としての意識をもって働いてほしい。もはや研究室は単なる教育組織ではなく、社会を構成する要素のひとつでもあるという自覚をぜひ持ってほしい。店にたとえると、3年生までは『お客さん』の意識かもしれないが、4年生からは『店員さん』の意識を持つこと」


また、いわゆる地球規模の「環境問題」についても、厳しさだけでなく広く大らかな視点をお持ちのようだ。

そうした印象についても問うてみると――

「わたしは農学部の出身で、単に科学の研究だけでなく、生産者や企業・消費者など様々な立場のことを考えるような教育を受けましたね。当時はそれが泥臭くてかっこ悪く見えて嫌いでしたが(笑い)」

こんな生徒に来てほしい

まずいちばん困るのは、最初から他人と違うことを求める人ですね。
地道な努力をして基本を身につけ、さらに努力を続けることで、他人とは違う結果にたどり着くのが本来の姿です。
来てほしいのは、そういう努力のできる人ですね。
最後に付け加えますと、ICUは、そうした努力を60年間続けた結果、いま他大学とは違うユニークな大学になっているのだと思いますよ。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。