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GOOD PROFESSOR

神奈川大学
外国語学部 国際文化交流学科

深澤 徹 教授

ふかざわ・とおる
1953年神奈川県生まれ。’80年立教大学大学院文学研究科修士課程修了。’80年プール学院短期大学講師。’88年桃山学院大学経済学部助教授(国語担当)。’02年同社会学部教授。’09年より現職。
おもな著作には『「愚管抄」の<ウソ>と<マコト>―歴史語りの自己言及性を超え出て』『自己言及テキストの系譜学―平安文学をめぐる7つの断章』(前著ともに森話社)『都市空間の文学―藤原明衡と菅原孝漂女』(新典社)『中世神話の煉丹術―大江匡房とその時代』(人文書院)がある。

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古典日記文学から見える「原日本語」リテラシー

深澤研究室が入る神奈川大学17号館
新緑の神奈川大学横浜キャンパス点描

今回ご登壇ねがうのは、神奈川大学外国語学部国際文化交流学科で教鞭を執る深澤徹教授である。
まずは所属する国際文化交流学科の特徴から伺おう。

「この学科の肝は『交流』です。つまりはコミュニケーションであり、その手段として重要なのが『ことば」になります。徹底的にことば・言語にこだわるのがこの学科の大きな特徴になっています」

国際的な文化交流にあって、その相互理解に欠かせないのが言語・ことばである。
そこで我々日本人は「基盤となる日本語能力を磨くことが重要」と、深澤先生は説く。

「人類は各言語を通して世界を認識し、私たちの主体も言語によって形づくられています。ですから、21世紀、言語の重要性はますます高まっています。この学科では自らのアイデンティティーである日本語にこだわりながら、それを基盤にしつつ、英語なり他の地域言語なりの習得を目指します」

日本語への理解力が深まり、さらに英語など世界中の地域言語の実践的能力も身に付けていく――
その魅力的なカリキュラムによって、国際文化交流学科は神奈川大学でもっとも人気があるとされる。

「ただし国際文化交流学科で学んだからといって、卒業後に全員が国際文化交流関係の仕事に携われるということではあり得ません。我々が目指すのは、この社会の中間層を構成する市民の人材の養成と質の向上にあります。いま大学が社会から要請されているのも実はそういうことだろうと考えています」

学生からの人気ばかりに踊らされることなく、地に足のついた堅実な指導が日々なされていることが想像されるお話でもある。

『櫻の園』『攻殻機動隊』そして古典文学『愚管抄』

新緑の神奈川大学横浜キャンパス点描
薫風ただよう神奈川大学図書館

深澤先生のご専門は、国際交流学科が基盤としている「日本語」である。
なかでも専門的な研究テーマは「平安から院政期における日記文学」だ。

「仮名文字と漢字とを交じらせることによる日本語文章表現が、平安時代に成立しました。その後わが国独自の文化が発展することになります。オリジナルなリテラシー(読み書き能力・表現の応用力)の獲得ですね。そのひとつの形態に日記文学があります。日記文学とは、自らを取り囲む社会の成り立ちへの(あるいは自分自身への)問いかけに他なりません。つまりは自身の居場所さがしをテーマとしているのです」

その日本日記文学の到達点が『愚管抄』ではないのか――
これこそが深澤先生の見立てである。

「『愚管抄』が慈円という天台宗僧侶が著わした歴史書であることは、日本史・文学史で習ったことでしょう。ただしこの書は、いわゆる官製の歴史書などとは違って、慈円が、自分が生存した時代について1人称でつづった歴史書です。非常にユニークな内容なのですが、それだけに学会などアカデミックな世界からほとんど顧みられることのなかった書でもあります」

いわば、この埋もれていた『愚管抄』をあらためて掘り起こし、新たな光を当てようとしているのが深澤先生なのだ。

「愚管抄をふくめ日記文学を長く研究してほの見えてきたのは、この国の社会を動かしているのは、個々人のアイデンティティーよりも、役割行動によるほうが大きいということですね」

これこそが長い研究を重ねたうえで深澤先生が達した持論でもある。
ところで現代ニッポンの若者の活字ばなれが喧伝されて久しい。
そんな若者たち相手に講ずる深澤先生だが、いきなり彼らに古典文学を研究対象として突きつけたりはしない。

なぜなら「『アレルギー反応』を引き起こしかねない」からだという。
いまや語りだけで古典文学に向き合わせるのは難しいことらしい。

「そこで最近は『居場所さがし』をテーマにした映像ビデオ作品を導入時に扱うようにしました。たとえば中原俊監督の『櫻の園』ですとか、押井守監督のアニメ作品『攻殻機動隊』『the Sky Crawiers』などを鑑賞してもらい、そこでの『居場所さがし』をキーワードにして古典日記文学に向かうようにしています」

大学とは「言語能力』『社会関係資本』構築の場

横浜キャンパス内のオブジェ

神奈川大学国際交流学科の専門ゼミ演習は2~3年次学生が対象である。
ゼミの運営方針について深澤先生はこのように話す。

「ゼミの研究テーマに古典文学研究を掲げても、いま時の学生たちは集まってきませんね(笑い)。そこで現代文学の私小説を取り上げ、日本語および日本語のリテラシーを研究テーマにしています」

そこで一昨年度から研究対象に選ばれたのが、小説『私小説』などで知られる現代作家の水村美苗だという。

「彼女は12歳のときに家族とともに渡米し、20年間のアメリカ生活を経験しています。この間に母国語から離れていたことで日本語への思いが強くなり、その日本語に対する執着や欲望をテーマにした小説を書いています。その意味で、わたしの研究テーマである日本語リテラシー(あるいは古典日記文学)に通じるところが大いにあると思い、ゼミでの研究対象に選んだのです」

あらためて学生たちへの指導方針については次のように語る。

「本を読むときに、消費するように軽く読むのではなく、丹念に読み込む習慣を付けなさいということですね。文章というのは、深く読み込みこもうとすることで、その文章がもつ意味の多様性や多義性(あるいはその背景にある文化や歴史)などが次第に読み取れるようになっていきます。そうした奥行きに垂線を下ろしていくような読み方をぜひして欲しいということです」

最後に深澤先生は、大学受験を控えた現役高校生に一生モノのアドバイスも贈ってくれた。

「大学では『言語能力』の習得と『社会関係資本』の構築を心掛けてください。文系理系に関わらず、どんな知識体系も原点は言語ですから、まずは母語である日本語能力を磨くことが大切となります。もうひとつの『社会関係資本』というのは人間関係づくりのことです。社会・世界のなかでの自らの役割と居場所を探し作り上げていく。そうして社会的に有為な一個の『人格』である自分自身を見つけ出すよう努力すべきなのです」

こんな生徒に来てほしい

福沢諭吉のことばに「国を支えて国に頼らず」というのがあります。
国というところを社会一般に置き換えれば、グローバルな21世紀にあっても理想の生き方としてちゃんと通用すると思います。
自分は何のために大学生になるのか? 大学とは何のためにあるのか――
そうしたことを考えて自己形成できる人こそが、大学に来て学ぶ価値のある人だと思いますよ。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。