早稲田塾
GOOD PROFESSOR

芝浦工業大学
システム理工学部 機械制御システム学科

足立吉隆 教授

あだち・よしたか
1961年静岡県生まれ。’83年東京電機大学精密機械工学科卒。’83年鈴木自動車工業(現スズキ)入社。開発部門・研究所勤務をへて’05年退社。’05年より現職。現在、学科主任。工学博士(東京工業大学)。
著作には『バーチャルリアリティ学』(分担執筆・日本バーチャルリアリティ学会)がある。
「足立研究室」のURLアドレスはコチラ↓
http://adachi-lab.mis.se.shibaura-it.ac.jp/

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五感を組み込んだバーチャルリアリティ

足立研究室が入る5号館
芝浦工業大学大宮キャンパス正門

今週の一生モノプロフェッサーである、芝浦工業大学システム理工学部機械制御システム学科の足立吉隆教授の前職は、自動車・2輪車メーカーの研究所勤務であった。だが、足立先生は自動車や2輪車の研究にはノータッチであったという。

「わたしが開発部門から研究所に移ったのは、ちょうど3次元コンピューターグラフィックス(CG)技術が出始めたころでした。ただ、ふつうのCGはモノを3次元画像化するだけで、あまり面白くありません。だったら、これに『力覚』機能を組み込んだらどうかと考えたのです」

この「力覚」とは手ごたえのこと。ロボット工学の技術を応用した力覚提示デバイスのグリップを操作してCG画面上の物体にさわると、その手ごたえを感じることができる技術である。

「当時、民間企業の研究所でそんな研究をしているところはありませんでしたね。その1号機の完成が’90年。6つの自由度を制御できる力覚提示デバイスは世界でこの1台だけでした。

その手ごたえの発生は、力覚提示デバイスの各関節に組み込まれているモーターのトルクをコントロールすることで出しました。3次元CGでよく使われるポリゴン(平面)ではなく、滑らかな曲面に世界で初めてさわったのは私です。この開発はアメリカの専門誌にも大きく取り上げられました」

やがて、それが医用のシミュレーション機器に発展し実用化されていくことになる。

「手術用のシミュレーションでは、皮膚にメスを入れたときの力覚や指で臓器に触れたときのそれぞれの感触も再現されています。しかも、その感覚は両手の親指や人さし指・中指の先に同時に伝わるようになっています」

’99年、この画像を通信回線で結び、日本とドイツとに離れた医師が共同で手術のシミュレーションに挑むという実験に成功。これも世界初の快挙となった。

「力覚」シミュレーションから医用応用へ

新装なった大宮キャンパス「2号館」
大宮キャンパス図書館

現在の足立先生は、5本の指から手のひら全体に力覚が伝わるシミュレーション画像の開発に取り組んでいる。

「これは医師による触診や内診のトレーニング用疑似人体の開発になります。いま考えているのは、1pl(ピコリットル=1兆分の1リットル)ほどのゲル状の粒子をつくり、それを積み上げて人体につくり上げてしまおうということです。実際に1plの粒子をつくるのは難しいので、当面は0.3ミリの粒子づくりを目標にしています」

なお、先生はほかに米マサチューセッツ工科大学(MIT)との共同研究によるデジタル生産シミュレーターの開発や、色彩コンサルティング企業との共同研究による、自然の色を規範にした色彩調和の研究などがあり、いずれも実用化されている。

ちなみに足立先生が所属するシステム理工学部では、入学早々の1年次学生に向けた「創る」という名の授業が行なわれることでも知られる。

「ここでは全学科の学生を混ぜ合わせてグループ分けをし、担当の教員からテーマが与えられます。そのテーマも『バーチャルなもの』とか『癒やし』など観念的であったり漠然としたものが多いのです。学生たちはグループごとにディスカッションして、テーマに合った具体的なモノや道具をつくり出していきます。

なかには音楽やダンスなどを創作するグループもあります。この授業で重要なのは、テーマのコンセプトをいかに解釈するのかで、その思考の柔軟性が競われる大変に楽しい授業です」

社会人常識もふくめきめこまやかな指導

キャンパス内に残る雑木林

足立先生は、システム理工学部の機械制御システム学科の所属である。この学科の特徴は自分で設計したものを動かしてみることにあるという。

「いまの若者は機械などに触った経験があまりないようですね。そこでまず1年次の実習で旋盤とフライス盤を使った金属加工をし、それをヤスリで磨いて仕上げるまでの一連の作業をしてもらいます。そうやって3次元のものを実感することで、2次元で描く設計や製図が理解できるようになりますし、自分で描くことも出来るようになるわけです」

先生のきめこまやかな指導を経て、学生が各教員の主宰する研究室に配属になるのは3年次の1月からである。足立先生の研究室でも例年7人前後の学生を受け入れている。

「研究室入りをした学生たちは、まずコンピューターやプログラミングなどの基礎的なことから学びはじめます。さらに卒業する先輩たちからその研究を引き継ぐためのレクチャーを受けます。そして新年度の4月からそれぞれの卒業研究に入ることになります」

各卒研のテーマについては、学部の4年で卒業する人と大学院に進む人によりその内容を考えて、先生のほうから与えられる。足立先生の指導方針については――

「研究室配属中の学生といえども、社会に出るためのトレーニング期間として大人として扱うようにしています。人と会うときはきちんとアポイントを取ること、人の話を聞くときは必ずメモに取ることなどごく基本的な指導になりますけどね(笑い)」

そう言いながら足立先生は配属の学生に配っているというレジュメを見せてくれた。そこには「研究室の基本方針」から「ノルマ」や「ルール」までが細かく書き連ねられている。

「まあ、社会人としての基本的な訓練をして出してやるということですね」

ところで足立先生は、芝浦工業大学体育会スキューバダイビング部の顧問もしている。創部45年目を迎え、日本の大学では3番目に古い、伝統あるダイビング部である。

しかも足立先生自身、2010年の全日本フリッパー大会で400m40歳代の部に出場して見事3位に入賞している。全国大会で3位というのが先生の自慢だ。今年50歳代に到達する先生だがその精神と肉体にいささかの衰えもない。

こんな生徒に来てほしい

大学を卒業してどんな社会人になりたいのか? それを高校生のうちから考えておいてほしいですね。将来、自分はどんな職業に就きたいのか? これをイメージすることで、大学でどんな学部のどんな学科で学べばいいのかが見えてくるはずです。とくに工業系の大学では「機械は機械」「電気は電気」とはっきり分かれています。しっかりしたイメージもなしに何となく入ってくると長く続かないということにもなりかねません。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。