早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京農工大学
農学研究院

松田 浩珍  教授

まつだ・ひろし
1953年愛知県生まれ。78年北里大学大学院畜産学研究科獣医学専攻修士課程修了。81年大阪府立大学大学院農学研究科獣医学専攻博士課程修了。81年大阪府立大学農学部助手。86年加マックマスター大学医学部在外研究員。92年米エール大学医学部招聘客員教授。94年東京農工大学農学部助教授。2000年同教授。04年同大学院共生科学技術研究部教授。10年大学院改組により現職。東京農工大学保健管理センター所長(併任)。「イノベーション・ジャパンUSBアワード特別賞」(04年)「Best Abstract Priz」(ⅹⅹⅶ InternationalCongress of Allergology and Clincal Immunology 08年)「油脂技術優秀論文賞」(09年)など受賞多数。
主な著作には『実践的な緊急手術テクニック』1~3(ジャパンライム)『Animal Models of AtopicEczema』『Animal Models of Human Inflammatory SkinDiseases』(前著ともに共著および米国で刊行)などがある。
松田先生が主宰する「獣医分子病病態治療学研究室」のURLアドレスはコチラ↓
http://www.tuat.ac.jp/~mol_path/index.html

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「アトピー性皮膚炎」の世界的研究者

松田研究室のある7号館建物
緑陰涼やかな府中キャンパス正門

今回紹介する一生モノのプロフェッサーは、東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門(学部は農学部獣医学科)の松田浩珍教授だ。39歳にして米エール大学医学部教授に抜擢され、招聘されたという輝かしい経歴を誇る。まさに早くからその才能が嘱望されていたのだ。

そんな松田先生の専門はヒトおよび動物についての「免疫」と「アレルギー学」である。とくに「アトピー性皮膚炎」の研究では世界的権威とされる。

「アトピー性皮膚炎は、おそらく完治させることが出来ないだろうと言われてきた疾病のひとつです。この皮膚炎をふくめ、アレルギー疾患が広まったのは昭和30年代以降に生まれた人たちからで、公衆衛生の普及と軌を一にしています。近年は犬などペットなどにも多く発症するようになりましたが、これも屋外飼育から屋内飼育に変わったことに大いに関係があると言われています」

いまだにアトピー性皮膚炎の発症の原因や確実な予防法・治療法は、すべて解明されたわけではない。それでも徐々にだが解明されつつある点もある。

「アレルギー反応を引き起こすとされる『マスト細胞』(mastcell)は、末梢組織のいろいろなファクターが関与して増殖分化します。その1つのファクターは、わたしが発見したものです。

このマスト細胞は生まれる前から身体のあちこちに配備されていて、とくに外界と接する皮膚や腸管粘膜などに多く配備されています。ヒトも動物も生まれてすぐに、蚊やダニなどに侵蝕されますが、それを『かゆみ』によって知らせるのがマスト細胞なのです。このうちダニに関してのものを発見したのです」

マスト細胞とダニとの因果関係を発見

歴史を感じさせる東京農工大本館
東京農工大学府中キャンパス点描

とくにダニ要因とマスト細胞との因果関係は、まさに世界的な発見であった。ほとんどの医学や獣医学の教科書には松田先生の名前とともに記載されている。

先生たち研究者の不断の努力により、少しずつではあるがこの疾病のなぞが解明されていく。

「そもそもわたしがこの研究の道に入ったのは、たまたまアトピー性皮膚炎を自然発症したマウスを発見したことからでした。そういうマウスと遭遇するのは非常に珍しいことで、自然発症したマウスを解明していくと、疾病の本体にたどり着ける可能性があります。それによって創薬のためのデータが得られたり、薬の効果についても検証できたりしますからね」

次いで松田先生が指導している東京農工大獣医学科の特徴について聞いていこう。

「獣医学科を設けている大学は、国公私立合わせて日本全国で16大学あります。大学によって、教える内容に違いは特にありません。あったら問題ですしね(笑い)。

あえて違いがあるとすれば、地域性のようなものでしょう。たとえば北海道の大学であれば牛や馬など大型動物に接する機会が多く、必然的に大型動物志向の学生が集まります。一方で、本学のように都会に立地する獣医学科ではペットなど小動物を扱う機会が多くなります」

牧畜・酪農分野で活躍するというよりも、都会的文化のひとつでもある「ペット動物のお医者さん」を志向する学生が多く集まって来ることにもなるのであろう。さらに松田先生はこうも続ける。

「あえて本学の特徴を挙げるとしたら、小動物重視であることと、公衆衛生学を重視していることですかね。公衆衛生学を研究テーマにしている研究室が多いことからか、卒業後に行政機関等へ就職する人が多いようです。そのあたりが本学の特徴的なところになりましょうか」

なんと! 研究室内での公用語は英語

松田先生も診療にあたる動物医療センター
韓国済州大学獣医学部との交流風景

東京農工大学獣医学科の履修期間は6年間で、後半の5~6年次は各教員が主宰する研究室に配属される(5年次に半年間の外部実習が義務づけられる)。松田先生の研究室でも毎年度4人までの学部生を受け入れている。

「逆に4人以上は受け入れません! 獣医学科は生命の重さを教えるところですから、少人数にしっかり教えることが重要だと考えるからです。わたしの研究室に入りたいと希望する学生はおかげさまで多いのですが、定員の4人枠は厳守するようにしています。

選抜にあたって彼らに問うのは、クリエイティビティー(創造性)とクリティシズム(批評性)を持っているのか? 人を思いやり認めていく気持ちがあるのかどうか? そうしたことを面接で見極めて決めるようにしています。原則として学業の成績は関係ありません」

こうして研究室入りした学部生は、上級生や大学院生から研究方法などガイダンス的な指導をまず受ける。

「そのあとは直ちに個々に研究テーマを与えていきます。そこからは先輩だ、後輩だといった垣根をなくして、同等の一研究者として扱うようにしています。そうしながら6年次の卒業論文の取りまとめへと次第につなげていくわけです」

ちなみに松田研究室内での公用語はなんと英語だ! 週1回全員参加「ジャーナルクラブ」(ゼミ)討議からリポート・論文の形式まで、英語以外は原則として認められない。自分たちの研究は世界を相手にしているんだという気持ちと、学生の論文といえども海外専門誌への掲載発表を念頭に置いているからだ。
あらためて松田先生の指導方針について伺うと――

「ややもすると、なるべくラクをして卒業したいという学生が最近多いようで、わたしのように求めるものが高く、厳しい研究室は敬遠される傾向もあるようで、ちょっと淋しいですね(笑い)。ただ、時に我々が設定した難易度・達成度を越える高いモチベーションの学生が入って来てくれることもあります。

そういう学生にこそ、十分な教育環境を施して世界に通じる獣医師・研究者に育て上げてやりたい。ただただ獣医師の国家資格取得者をダラダラと量産する――そんなことばかりが良い獣医教育ではないはずです。世界をリードできる真の獣医師を育てること、それこそがわたしの指導理念です」

松田先生はキッパリとこう言い切った。そんな先生も、内外の大学・研究機関で厳しい指導を受けたからこそ今日の世界的評価があることは言うまでもない。

こんな生徒に来てほしい

高校時代は、将来に対して期待と不安の入り混じった状態だろうと思います。そうした不安を打ち消すためか、あせって有名大学を目指せばいいと単純に思ってしまいがちなんですね。しかし自らの心の底から進みたい人生の方向がどっちなのか?――それを広い視野に立って見つめ直してほしい。
そのうえで大学のブランドなんかではなく、各学部の特徴や在籍する先生によって進路を選択するのは賢明だと思いますね。それこそが将来の自分のためにもなるはずです。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。